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副会長さんの瞳の色は、レイン王子と両思いの関係にあった平民の女性と同じ色だ。ということに気づき、私の心臓はドクドクとうるさく鳴っている。
ただ、同じなのは瞳の色だけで、他の容姿が似ているかと言われればそうでもない。
(落ち着け、落ち着くんだ私……副会長も会長の雨宮くんと同じで、前世で出会った彼女とは違うんだから)
スーハーと、大きく深呼吸をする。
ーーもちろん、レインさまには貴方様という婚約者がいらっしゃることは存じています。……ですが、私は本気で彼のことを愛しているのです。誰に何を言われようとも、この気持ちを偽ることはできません。
そう語っていた彼女の瞳と、先ほどの副会長さんの瞳が重なる。
二人とも、強い想いを瞳に宿していた。
色だけではなく、愛する人への気持ちも同じなのだ。と、そう思った。
大きく鳴り響く心臓の音が、耳を通り抜ける。
(一度深呼吸しても、全く鼓動が収まらない。どうして、私はこんなにも動揺しているの?)
まるで、前世の私が乗り移ってしまったかのようだ。
(私はもう、貴族令嬢でもなんでもない一般市民で、『白雪夏芽』だ。『スノウホワイト』と呼ばれていた頃の私とは違うんだ)
自分で自分に言い聞かせるように、何度も深呼吸を繰り返した。
それから数分が経ち、ようやく心臓が落ち着いてきた頃、まだ少し残っていた弁当のおかずに手をつけた。
すっかり冷めきってしまったそれのおかげなのか、いつの間にか火照っていた身体が徐々に冷たくなっていくのを感じる。
(うん。……もう、大丈夫)
雨宮くんや、副会長さん……東雲さんについても、前世がどうとか気にしてどうする。
ましてや、二人がどうなろうと『白雪夏芽』には関係のない話なのだ。
(「応援する」と言ったからには、ちゃんと背中を押してあげないとね。……うまくいくといいんだけど)
一抹の不安を覚えながらも、両手で頬を叩いて気合いを入れ直す。
パンッ!と乾いた音が生徒会室にこだました。
(よし!弁当も食べ終わったし、軽く午後の授業の予習してから教室戻るか)
弁当箱を片付けた後、昼休みが終わるまで生徒会室に居座ったが、特に誰も訪れることもなく一人だったのでかなり集中できた。
おかげで予習が捗り、予定よりも多く進められたので、少しウキウキしながら教室へと戻った。
「白雪さん、なんかご機嫌だね?」
「ちょっと、ね。思った以上に予習できたから、嬉しくて」
「そうなんだ。よかったね」
そんな会話を雨宮くんと交わせるようになった頃には、東雲さんのことは頭からすっかり抜け落ちていた。
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「ねぇ、夏芽さん」
「はい。なんでしょう?」
「夏芽さんって、よく見たら肌綺麗だし、髪もサラサラだよね?」
「!……そう、ですか?」
とある日の放課後、生徒会室に用があって行くと、偶然東雲さんと出くわした。
しばらく会話を続けていると、急に整った顔が近づいてきてまじまじと見つめられたので、ついドキドキしてしまった。
(うぅ、心臓に悪い……)
なんだかいたたまれなくなって、東雲さんから目を逸らす。
「うん!いいな〜、羨ましい」
前世を思い出して身なりの手入れをするようになってから、およそ2ヶ月が経過していた。もちろん、毎日欠かさずに行っている。
(他人から見てもわかるくらいになってきたのかな。成果が出てるようで嬉しい……!)
思わず顔がニヤける。
「そうだ!今度一緒に買い物行きませんか?」
「え!?」
「化粧品とか、シャンプーとか、夏芽さんがどんなの使ってるのか気になるの。それに、まだ夏芽さんが生徒会に入ってから歓迎会もしてないよね。それも兼ねて、どうかな……?もちろん、会長と陽向くんも誘って、だけど」
息つく暇もなく捲し立てられ、その勢いに気圧されるがまま、
「えー……っと、私は、構いませんけど」
彼女の提案に頷いてしまった。
「本当!?じゃあさっそく二人に伝えてくるね!日時とか決まったらまた連絡するから!」
そう言うなり、東雲さんは慌ただしく生徒会室から走り去っていった。
(凄まじい行動力だな……)
パワフルな彼女の振る舞いに、私は苦笑いをするしかなかった。




