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「私が告白した時、会長は『今は誰とも付き合う気はないんだ。ごめんね。』って言ってた」
副会長さんは話を続ける。
会長……雨宮くんが言いそうなセリフだ。
なるべく相手を傷つけないように、と本人なりに配慮しているのだろう。
「それで思ったの。会長がいつか、『誰かと付き合いたい』と思えるようになる日がきたら、その時会長の隣にいるのは私でありたい。って」
薄茶色の瞳が、キラリと輝いた。
「それに、『嫌い』とは言われてないからね。……だから、今は会長に見合うオンナになるための修行中、ってところかな?会長の仕事っぷりに置いていかれないよう頑張ってるの」
(……あぁ、そういうことか。彼女はーー)
一度振られたからといって全く挫けていない。
さっき感じた清々しさの理由はこのことだったのか。と腑に落ちた。
雨宮くんの席を見つめる彼女の瞳は、それよりも遠い未来を映しているようだった。
「……ちょっと喋りすぎちゃったかな。白雪さん相手だとスラスラ言葉が出てきちゃう。なんでだろう」
照れくさそうにはにかむ彼女の頬が、赤く色づいた。
「……すごい、と思います。私には、きっと真似できない」
ポロッと、素直な感想が口から零れる。
「私、副会長を応援してます。副会長なら絶対、会長に認められる素敵な人になれると、私は信じてます」
(今でも十分、雨宮くんとお似合いだと思うのだけど)
そこまで伝えるのは野暮だと思い、心の中に留めておいた。
「白雪さん……ありがとう」
「いえいえ」
「私、これからも頑張るね!……ところで、」
「?」
「えっとね……今度から、『夏芽さん』って呼びたいんだけど……いい、かな?」
もじもじと両手の指を絡ませながら、上目遣いで尋ねられる。
はっきり言って、色っぽい。
(高校生とは思えないレベルの色気だな……良いとこの貴族令嬢の母君みたい)
前世で出会った数々のマダムたちが、「オーッホッホ」と高笑いして頭の中を通過していった。
「ふふっ」
「!」
(しまった。つい顔に出して笑ってしまった)
コホン。と気を取り直して、
「はい。下の名前で呼ぶくらい構いませんよ」
「よかった……」
彼女が安堵したのを確認し、食べかけの弁当に再び箸を差し出した時、
「夏芽さん、さっきすごく可愛らしい顔で笑ったから、びっくりしちゃった。なんか、初めてあんな風に自然に笑ってるところ見たかも」
「へっ」
思いがけない言葉が飛んできて、動揺した私は箸を落としてしまう。
(「笑った」って、さっきの)
色気のあるマダムたちを思い出していた時のことだろう。
顔を見られていたことが急に恥ずかしく思えてきて、段々と頬が熱くなってくる。
「あっ、突然ごめんね。本当に素敵な笑顔だったからつい……はい、どうぞ」
彼女が代わりに箸を拾ってくれたので、そのまま受け取った。
「あり、がとう、ございます……」
「ちゃんと箸は綺麗にしてから食べるんだよ〜?」
「はい……」
懐に手を突っ込み、ゴソゴソとティッシュを取り出した。
取り出したティッシュで箸を拭いていると、時間を確認していた彼女が、
「あ〜私、これから行かなきゃいけないところがあるからもう行くね。じゃあ、またね。夏芽さん」
「あ、はい。また」
そう言って、彼女は颯爽と生徒会室から出ていった。
部屋には静けさが戻り、ようやく私の頬の熱も冷めてきた。
(……なんだか、まるで嵐が過ぎ去ったかのよう)
落ち着いたところで、弁当に箸を伸ばす。
口に含んだご飯をもぐもぐと噛みながら、頭の中を整理する。
副会長さんに既視感を覚えた理由。
先ほどまで交わしていた会話の中で、やっと答えにたどり着くことができたのだ。
(雨宮くんへの想いを語っていたあの時……)
彼女の根底にある強さ、諦めず常に前を見据えるその姿勢。
(なんで、今まで気づかなかったんだろう……いや、違う)
心の奥底ではきっと、最初からわかっていたんだ。
けど、私がどうしても認めたくないあまりにずっと蓋をしていて、気づいていないフリをしていただけなのだ。
(あの、彼女の薄茶色の瞳は、)
前世でレイン王子が好きになった平民の女性と、同じ瞳だ。ということに。




