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生徒会に入った後は、昼休みの時間を生徒会室で過ごすことが多くなった。
会議があるから、ということもあるが、大半の理由としては、生徒会室に籠る方が何かと都合がいいからである。
秘技の件に中間テストの件が加わり、周囲の私を見る目が明らかにおかしくなった。
嫉妬、畏怖、憐憫といった感情を乗せた視線を四方八方から浴びる日々。
さすがの私も気が滅入ってしまいそうになった。
そして、それらの視線から逃れることができる唯一の場所が、生徒会室だったのだ。
会長の雨宮くん、副会長の東雲さん、会計の陽向、この3人だけは私の味方をしてくれている。
なので、少しでも空き時間があると自然と生徒会室へ足が向くようになった。
今日も、私は生徒会室で黙々と弁当を食べている。
(生徒会に入ったのは正解だったな)
今日は会議がないので、部屋にいるのは私1人だけである。
1人でいると誰にも気を遣わずに済むので楽だ。
「はぁ〜……」
溜め込んだストレスを吐き出すように、大きく息を吐く。
(結局、副会長さんに既視感を覚えた原因はまだわかってない……)
あれから何度か会話を重ねたものの、これといって大きな収穫は得られなかった。
わかったのは、副会長さんがかなりのタフで、思いの外明るい人だということくらいだ。
初対面の時は、雨宮くん寄りの人物像だと思っていたのだが、最近は陽向に似てるなと感じることが多い。
ーーねぇ、白雪さんって、会長のこと好き?
ーーっ!?……えっと、その、好きというのは、恋愛的な意味で……でしょうか?
ーーあ!やっとこっち向いてくれた!
ーー……え?
ーー今のは、白雪さんに振り向いてほしくて言ってみただけだよ。ごめんね?
ーーそ、そうですか……
数日前、彼女と交わした会話を思い出す。
「ごめんね?」といたずらっぽく微笑む彼女は、妖艶な雰囲気を纏っていた。
この時のように、突拍子もなく話題を振ってきたり、冗談めいたことを言い出したりするところは陽向を想起させた。
(本当に、不思議な人だなあ……)
ぼうっと物思いにふけていると、ガラッと生徒会室の扉が開いた。
「白雪さん、またここでご飯食べてたんだ」
「……副会長」
まるで見計らったかのように、副会長さんが部屋に入ってきた。
「もう、副会長なんて堅苦しい呼び方じゃなくて、秋菜って呼んでいいよって毎回言ってるのに」
ムスッと膨れる顔も絵になるので、美人はいいな。と心の中で思う。
「私が、副会長とお呼びしたいので」
「つれないな〜。まあ、そんなところも面白いからいいんだけど」
そう言って、副会長さんは私の隣に座った。
「せっかく女子2人だけだし、恋バナしようよ、恋バナ」
「ごほっ」
こそっと耳打ちされ、その内容に思わず口の中のおかずが逆戻りしそうになってしまった。危ない。
「あ、その反応……もしかして、誰か気になる人でもいるの?」
「これはっ、ただ、噎せただけです……」
「な〜んだ、残念」
副会長さんの眉が下がる。本当に残念そうに見えた。
「……そういう副会長は、どうなんですか」
「私?」
いつもこちらばかりやられているので、たまにはやり返してみよう。そんな気持ちで何気なく聞いてみた。
「例えば、……会長、とか」
「会長」と私が口にしたほんの一瞬、彼女の薄茶色の瞳が揺れたような気がした。
(今のは気のせい?それとも……)
「会長、ね」
噛み締めるように言った彼女は、ふぅ、と一息吐いた後、こう告げた。
「会長のことは、好きだよ」
「……」
「でも、今は尊敬というか、憧れに近い感じかな」
その視線は、いつも会長……雨宮くんが座る席を見つめていた。
(「今は」、というのが引っかかる)
その答えはすぐに彼女が教えてくれた。
「実はね、前に会長に告白したことがあるんだけど……振られちゃったの」
笑いながら言う彼女は、振られたことを全く気にしていないようだった。むしろ清々しささえ感じた。
(一体、どうしてそんな顔ができるんだろう……それはともかくとして、)
雨宮くんは、この副会長さんでさえも振ってしまうのか。
改めて、末恐ろしい人だな……と身震いした。




