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「お騒がせしてしまってすまない。もうすぐ昼休みも終わるから、みんなも教室に戻るように」
広場に集まっていた生徒たちにそう呼びかける雨宮くんは、いつも通りの穏やかな雰囲気に戻っていた。
生徒たちは雨宮くんの呼びかけに応じ、各々の教室へと帰っていく。
(さすが雨宮くん、生徒会長を務めているだけあるな)
雨宮くんのリーダーシップに感心していると、
「……俺たちも帰るぞ」
「あ、」
陽向が私の左手を掴み、歩き出す。
私は半ば強引に手を引かれるがまま、陽向の後ろについていった。
「なんであんな無茶したんだよ。……心配しただろ」
元・書記の子に絡まれた時のことだろう。
「うん。……ごめん」
「まあ、怪我とかもなく無事に済んでよかったよ。……てゆーか、あんなのどこで覚えたんだ?」
そこでギクリとする。
「実は前世で学んでました!」……なんて、反応が恐ろしくて言い出せない。
「ほ、ほら。私、前にいじめに遭ったって言ったでしょ?そのとき、今後何があっても自分で自分の身を守れるようにって思って、ね」
しどろもどろになりながらも、なんとか辻褄が合うように言葉を連ねる。
「ふーん……そっか」
陽向は訝しげな様子だったが、それ以上追及してくることはなかった。
(よかった。これ以上聞かれたらどうしようかと)
私はホッと胸を撫で下ろすと、ふと自分の左手が目に入る。
「陽向、あの……手」
「手?……ってうわ!ごめん!」
驚いた陽向がパッと手を離した。
少し汗ばんでいた左手の熱がゆっくりと冷めていくのを感じる。
(……陽向の手、あんなに大きかったっけ)
陽向のごつごつと形作られた手から一瞬、『男らしさ』が垣間見えたような気がした。
徐々に冷たくなる左手とは反対に、頬には熱が帯びていく。
私は心がざわざわするのを誤魔化すかのように、左手で空を掴んだ。
「夏芽?」
「……ううん、なんでもない」
私は陽向の横に並び、その後は他愛もない話をしながら教室へと戻った。
(そういえば……ダンス以外で男の人と手を繋いだのは、これが初めてかも)
前世では、レイン王子とプライベートで手を繋いだ記憶がない。
(彼の手は、どんな感じだったのだろうか)
今となっては知る術がないものの、前世で出会った元・婚約者に思いを馳せた。
~~~~~
その日の放課後。
部活に所属していない私は、いつものように帰宅の準備をしていた。すると、
「白雪さん。少し話したいことがあるんだけど、いいかな」
隣の席に座っている雨宮くんがそう問いかけてきた。
そんなことを言われるのは初めてだったので、私は何かやらかしてしまったのかと思考を巡らせる。
1つだけ思い当たる節があった。
「もしかして、今日のお昼にあったことと関係してる……?」
成績上位者掲示の際、私と元・書記の子が広場でいがみ合った件だ。
その件はもう解決したと思っていたのだが。
「そうだね、関係あると言えばあると思う。けど、白雪さんにも処罰を与えるとかではないんだ」
「じゃあ、どうして……?」
「うーん……教室だとちょっと話しづらいから、生徒会室まで一緒に来てもらってもいいかな?」
なんとなく「ノー」とは言えない雰囲気だったので、おとなしく雨宮くんの後ろについていき、生徒会室の前にたどり着いた。
「ここが生徒会室だよ」
「ここが……」
なるべく目立ちたくない私にとって、生徒会室は無縁の場所だと思っていた。
どことなく神聖なオーラを感じてしまうのは気のせいだろうか。
本当に、私が入ってもいいところなのだろうか。
そう私が悩んでいると、
「さあ、中へどうぞ」
雨宮くんがガラリとその扉を開いた。
「し、失礼します……」
私は恐る恐る部屋に入ると、中にはすでに先客がいた。
「夏芽!?なんで生徒会室に」
「陽向もいたんだ。……あと、そちらの方は?」
「あぁ、副会長だよ」
私に向かって柔和に微笑む女性。
どうやら副会長らしいその人の琥珀色の髪が、光に照らされキラキラと輝いている。
(なんて綺麗な人なんだろう……美人だな……)
あまりにも美しい彼女に、私は目を奪われていた。




