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15

いつの間にかざわついていた空気は一変し、広場はシン……と静まり返っている。


「陽向?教室戻るよ」

「……お、おう」


呆けた顔をしていた陽向に声をかけ、教室への帰路を辿ろうとした。その時、


「……何が偶然よ」

「?」


書記の子がポツリと呟いたので立ち止まった。その瞬間、


「……私は、そんなの絶対認めないんだからーー!」

「!?」


彼女の激昂した声に驚き振り向くと、私のすぐ側まで迫ってきていた。


「っ夏芽!あぶな…っ」


陽向が手を差し伸べるも、少し出遅れてしまったせいか間に合いそうにない。


(……逆ギレか?それはともかく、まだ反撃する元気があったようね)


私はこちらに飛びかかってきた彼女をさらりと躱し、逆に彼女の両手首を掴んで背中に回し固定した。


「痛っ……!」

「夏芽……!?」


陽向が驚くのも無理はない。

私がこのような動きをするとは予想もしていなかったんだろう。


確かに、以前の私なら彼女を躱すこともできずに、彼女の怒りをそのまま受け止めていたと思う。


実は、最初に前世の記憶が蘇った際、護身術も一緒に思い出していたのだ。


貴族令嬢は、その身分故に身代金目当てで誘拐されることもある。

そういった有事にも対応できるよう、我が家では専門のトレーナーを雇って護身術を習い、鍛えていた。


今世で扱うことはないと思っていたが、まさかこのような形で役に立つとは。


(久々だったけど、無事に成功してよかったわ……)


「ちょっ、離しなさいよ……!」


ジタバタと暴れ回るので、軽く手を締め上げる。


「いっ……た!」

「夏芽……その辺にしたらどうだ?彼女、苦しそうだぞ」

「手を離したらまだ反抗するかもしれないし、……彼女に少し話があるから」


私は彼女の耳元に口を寄せ、小声で囁いた。


「……私に八つ当たりしても、雨宮くんは貴方に振り向かないと思うけど?」

「っ!」

「それに、貴方がこんな派手な騒ぎを起こしたことを雨宮くんが知ったら、彼はどう思うでしょうね?」

「……!」


彼女の顔から一気に血の気が引いていく。


「……私が悪かったわ。ごめん、なさい」


彼女の謝罪の言葉を聞き、もう大丈夫だろうと手を離そうとした。


すると、


「……これは一体、どういう状況かな?」


私の背後から、周囲の空気が凍りつきそうなほどの冷たい声がした。


「あめ、みやくん……」

「雨宮!?なんでここに」


書記の子と陽向がほぼ同時に声をあげた。


「『会長!広場が物凄い騒ぎになってる!』ってクラスの子に言われてね。様子を見に来たんだ」


雨宮くんは陽向にそう答えると、こちらに振り向き、


「白雪さん?彼女の手を離してあげて」

「へ?……あぁ、はい、どうぞ」


雨宮くんに促され、私は彼女の手の拘束を解いた。


途端、彼女は雨宮くんに飛びつく。


「雨宮くん!私、怖かった……」


そう言いながら雨宮くんの服をぎゅうと掴み、胸元に顔を埋める彼女。


雨宮くんはそんな彼女にピクリとも反応せず、無表情で彼女の肩を掴みそっと離した。


「……話は聞いてる。君が白雪さんに暴言を吐き、変な言いがかりをつけようとしたんだろう?」


ビクリと彼女の肩が跳ねる。


「そして、挙句の果てに殴りかかろうとした」


サーッと彼女の顔が青ざめる。


「下手したら暴力沙汰になっていた。今回は誰も怪我人が出なかったからよかったものの、そんな危ない行動をする人間を生徒会に留めておくわけにはいかない。わかるね?」


丁寧な物言いに聞こえるが、その目には光が宿っていない。


(あー…これは、完っ全に怒ってるわ)


それはさすがに彼女も勘づいてるのか、反論する様子は全くなかった。


「君には生徒会書記の業務から離れてもらう。要するに、クビだ。今までお疲れ様」

「……はい。ありがとう、ございました」


ニコリと笑みを浮かべる(なお、目は笑っていない)雨宮くんに対し、ガックリと悲しそうに項垂れる元・書記の子。


そのまま彼女はトボトボと自分の教室へ帰って行った。


(これで一件落着……かな?)


私はようやく一息つくことができ、安堵した。

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