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あまりの衝撃に、掲示板の前で呆然と立ち尽くしていると、
「夏芽、お前足速いっつうの……って、え!?」
ようやく陽向が私に追いついた。
そして貼り出されている掲示を見て、状況を把握したらしい。
「おまえ、雨宮と同率1位なのかよ……」
「……」
「なぁ、おまえ大丈夫なのか……?」
大丈夫なわけがない。
せっかく今まで慎重にテストをこなしてきたのに、これでは今までの努力が水の泡だ。
(まずい。非常にまずい。絶対に目立ってしまう……)
ダラダラと嫌な汗が流れる。
そして、陽向が私に声をかけているのを見た周囲の生徒たちが、一斉にざわつき始めた。
「おい。もしかしてあいつが雨宮と同率1位のやつなのか?」
「えっ、あの子って……」
「私あの子知ってる!『悪魔』みたいって言われてる子でしょ」
恐れていた事態が起きた。
先日の秘技お披露目の噂と相まって、物凄い勢いで生徒たちの間に波紋が広がっていく。
(どうしよう……逃げるなんてもっての外だし、秘技……も逆効果になりそう)
この事態を収束させるための手段がないか、頭をフル回転させて考える。
チラリと陽向の方を確認すると、あたふたしていて軽くパニックになっているようだった。
これでは陽向を頼るのも無理だろう。
(そういえば、雨宮くんはきてないようね……彼なら、みんなに一声かけるだけで収めてくれそうなのに)
雨宮くんがいないなら、やはり私がなんとかするしかない。と決意した瞬間、ふと前世の記憶が頭をよぎった。
ーー王子の婚約者たるもの、常に冷静でありなさい。そして、堂々と優雅に振る舞うのですよ。
(……お母さま)
前世では、毎日のように口を酸っぱくして言われたっけ。
私はお母さまを尊敬していた。まさに私の理想とする姿だった。
尊敬するお母さまに少しでも近づきたくて、夜中にこっそりと部屋に忍び込み、化粧を真似ていたのが懐かしい。
しかし、私が10歳の頃にお母さまは亡くなってしまったのだ。
当時は言葉に言い表せないほど悲しくて、ワンワン泣いていたのを覚えている。
(……そうだ。こんなことで動揺なんてしてられない。お母さまに怒られてしまうわ)
私は深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。
その時だった。
「ちょっとアンタ!雨宮くんと同率1位とか、何様のつもり!」
1人の女子生徒が私に勢いよく向かってきたのだ。
(あの子は確か、生徒会書記の)
その表情は怒りに満ちていて、せっかくの可愛らしい顔が台無しになっている。
(もったいないなぁ)
そう呑気に構えていると、
「どうせ不正とかしてるんでしょ!白状しなさいよ!」
と、とんでもない言いがかりをつけてきた。
「ちょ、夏芽は不正なんてするやつじゃねーって!」
咄嗟に陽向がフォローに入ってくれたが、私はそれを手で制し、彼女としっかり対面する。
「……失礼ながら、不正とおっしゃるのなら、何か証拠でもあるのでしょうか?」
予想に反した言動だったのか、彼女は少し狼狽えた。
「しょ、証拠は、ない、けど……でも、アナタが雨宮くんと同じ1位だなんて有り得ないわ!」
「……確かに、今回の結果は私にとっても予想外で、通常ならば有り得ないことだと思います」
「だったら……!」
「通常ならば、です」
「……え?」
そう。何故今回このようなイレギュラーが発生してしまったのか。
断定はできないが、ある程度の推測はできる。
「今回のテストでは、全体的に平均点が大きく下がったと聞きました」
テストを返される度に、教師たちがそうボヤいていたのだ。
「しかし、それでも私はいつも通りの点数を獲得しています」
私が取った点数は普段とほぼ変わっていない。
つまり、他の人の点数が下がったため、私の順位が通常よりも上になってしまい、成績が良くなったように見えるだけなのだ。
ただ災難なことに、たまたま雨宮くんと同じ点数だったために同率1位という結果となってしまったのである。
ということを、ざっくりと説明した。
「……お分かりいただけましたか?」
「……」
彼女はプルプルと悔しそうに身体を震わせている。
もう反論はないだろう。
「というわけで、私は不正なんてしてませんし、偶然の出来事なので、もう同じようなことは起こらないかと」
「……」
「それでは、私はこれで失礼しますね」
私は一礼し、彼女に背を向けて歩き出した。
(……天国のお母さま、私はこれでよかったでしょうか)
なんとなくだが、空の上でお母さまが優しく微笑んでくれたような気がした。




