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『王子』がみんなの言うような『王子』ではないとわかってから約1週間。
あれから特に何も変化のない日々が続いていた。
当の『王子』も、あの日以来不穏な気配を見せていない。
(やっぱり平和が一番だな……)
私の理想とする生活に近いこともあって、半ば心が浮き足立っていた。
当初ははやく席替えしてほしい……と願っていたのだが、席替えは学期ごとに行うと担任教師が言っていたので、次の長期休みが明けるまでは今の席で我慢するしかなかった。
今は10月なので、次に席替えをするのは冬休み明けの1月ということになる。
まあ、以前に比べていくらかマシになったので、今はそこまで席替えしたいとは思っていない。
『王子』がこのまま穏やかでいれば、の話だが。
繰り返しになるが、今は10月である。そして10月の中旬といえば、
「夏芽〜助けて……」
「はいはい。また勉強教えてって話?」
「うん。だってもうすぐテストじゃん……」
そう。中間テストの時期である。
私は勉強が好きだ。
なので、これから大学に進学してもっとたくさんのことを学びたいと思っている。
そのためにも、テストで良い成績をとって推薦枠に入らなければならないのだ。
陽向に勉強を教えて、とせがまれるのも今回が初めてではない。
昔からテストがある度に言われるので、ある種恒例となっているような気もする。
私としても、人に教えることで自分の脳内を整理することができるので嫌というわけではない。
むしろお互いウィン・ウィンの関係である。
ただ1つ不思議なのが、
「陽向、そこまで勉強できないわけじゃないのに、なんでいつも私に聞くの?」
陽向の成績は優秀、とまではいかないが平均より上なので、特に赤点を取っているわけではないのだ。
「だって夏芽の教え方超わかりやすいもん」
頬杖をつきながら、潤んだ目で上目遣いに私を見つめる陽向。
「お前は女子か!」とつい突っ込みたくなってしまう衝動に駆られるが、我慢する。
「わかったわかった……じゃあ、放課後図書室で」
「よっしゃ!」
陽向は満面の笑みを浮かべてガッツポーズをした。
やれやれ……とは思うものの、なんだかんだで私は陽向に甘いのである。
「……」
一瞬、私の横から視線を向けられたことに気づくわけもなく。
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「は〜終わった終わった」
「お疲れ様。今回は手応えどう?」
「夏芽に教わったところいっぱい出てきたおかげでめっちゃいい感じだわ!ほんとサンキューな」
テストまでの数日間、みっちり陽向をしごい……もとい、勉強会をした成果は十分発揮できたようだ。
指南役として、教えたかいがあったというものだ。
「夏芽はほんと教えるの上手いし、将来教師とかどうだ?」
「ん〜……正直あんまり子供が好きじゃないから、教師は考えてないかな」
「そうなんだ。じゃあ、何か他に将来の夢ってないのか?」
陽向にそう言われて自分でも驚いた。
今を生きるのに精一杯で、将来の夢などまともに考えたことがなかったのだ。
勉強はしたい。けど、それをどう活かしたいのかまで思考が及ばなかったのである。
でも1つだけ、強いて言うなら、
「『普通』に、平和な暮らしをする。……かな」
『夢』というには少しばかり弱いかもしれないが、これだけは譲れない。
「あー……そういえば、前もそんなこと言ってたっけ。あれ、冗談じゃなかったんだな」
「……私はいたって本気だよ」
「そっか。悪ぃ悪ぃ」
へらへらと陽向が笑う。
私は大真面目だっての。
さて、テストの話に戻るのだが、この学校ではテストの成績上位者が掲示板に貼り出される。
1学年はおよそ200人。そのうちの上位10名が発表されることになっている。
なので当然、注目度も高い。
まあ、1位はすでに確定しているようなものだが。
「どうせ今回の1位も雨宮くんでしょ〜」
「だよね〜さっすが『王子』!」
さっそく、女子たちがきゃあきゃあ騒いでいた。
(全く……もう結果が出ているわけじゃないのに)
ふぅ、と溜息をつくと、
「……夏芽も、名前貼り出されるんじゃねーの?」
「……まあ、たぶんね」
陽向に問われたので、答えた。
推薦枠に入るためには、やはり良い成績をとるのが手っ取り早い。
そのため、テストも気を抜かず全力を尽くす。
……いや、尽くしたいのだが、頑張りすぎて上位に入り目立つのも困るので、本当は程よく抑えている。
そこで、私が考えた一番ベストな順位は5位前後である。
トップ3でもなく、かといって低すぎず、ちゃんと推薦枠を狙える位置だと思われるからだ。
(前回、一学期末は確か5位だったかな。今回もそれくらいだといいんだけど)
成績上位者が貼り出されるまでは数日を要する。
それまで私はドキドキしながら過ごしていた。




