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「白雪さん、よく考え事してるイメージなんだけど、今度は何について考えてたの?」
まさか貴方について考えてました。なんて本人に言えるわけもなく、
「えーっと、今晩の夕食は何を作ろうかなーって考えてたの」
「そうなんだ。白雪さんって料理できるんだね、すごいな」
「あはは。まあ、うちは両親が仕事で忙しいから、代わりに私がやってるだけなんだけどね」
「へぇ」
余計なことまで喋っちゃったかな、と思ったがうまく誤魔化せたようだ。
「じゃあ、いつも食べてる弁当って、もしかして白雪さんが作ってるの?」
「……まあ、一応」
「ふーん、そうなんだ」
……この流れは、まずい。非常にまずい。
陽向の時のように「弁当作ってきて」なんて言われたら……
「僕の母も料理が趣味でね。忙しくても弁当だけは作ってくれるんだ」
そう言って、スッと自分の弁当箱を見せる雨宮くん。
(セーフ!)
「弁当作ってきて」と頼まれなかったことに安堵し、私はホッと息を吐いた。
……あれ?そういえば。
「確か、雨宮くんってお母さんが女優さん……なんだっけ?」
と尋ねると、雨宮くんが一瞬眉を顰めたように見えた。
(もしかして、地雷だった……!?)
普段温厚な雨宮くんが初めて見せた表情に戸惑い、冷や汗が流れる。
しかし、雨宮くんはいつもの穏やかな顔立ちに戻り、
「……うん、そうだけど。それがどうかした?」
と答えた。
……いや、
(顔は笑ってるけど、目が笑ってないような……!)
さらに冷や汗の量が増えたのを感じる。
「と、特にどうもしないよ?本当かどうか確認したかっただけだから」
「ふーん……それならいいけど」
この話を続けるのは得策ではない、と判断したのは正解だったようだ。
雨宮くんはそれきり黙ったままだった。
(お母さんとあまり仲が良くないのかな……もしかすると両親とも?)
そこで、ふと思った。
雨宮くんの笑顔には、何か裏がある。
(もしそうだとしたら、誰に対しても分け隔てなく優しく接しているのは……)
笑顔も優しさも全て、本来の自分を隠すために装っているだけだとしたら?
浮かんできた考えにゾッとした。
(実際の雨宮くんは一体どんな人なんだろうか……って、何考えてるんだ私)
頭を振って一度思考をリセットする。
(……うん、これ以上雨宮くんについて考えるのはよそう。なんだかとてつもなく嫌な予感がする)
踏み込みすぎると、私が理想とする『普通』の暮らしができなくなる。と直感したのだ。
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その後、授業の時間になりペアワークを行ったが、雨宮くんはいたって普通だった。
(やっぱり、あれは気のせいだったんだよ。うん)
そう思い込むことにした私も、まるで何事もなかったかのように普段通り振る舞うことにした。
しかし、完全に忘れようと努力はしたが、あの時の雨宮くんの表情がどこか頭の片隅にちらついて離れることはなかった。
(……仕方ない。雨宮くんと同じ生徒会に属している陽向に、それとなく探りを入れてみよう。それで何もなかったら、もう考えないようにする)
そして授業後、陽向に声をかけたところ、昼休みにまた屋上で話をすることになった。
どうか何もありませんように、と願いながら。




