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屋上で陽向に事情を説明してから数日が過ぎた。
一見何事もなく平和に過ごせている……ようだが、少しばかり変化があった。
秘技を披露してからというもの、学校中の女子たちが私を見るなり怯えて距離をとるようになったのである。
はじめはクラスの女子だけだったが、日が経つにつれて徐々に数が増えていった。
おそらく、クラスの誰かが秘技について言いふらし、それが噂として広がっていったのだろう。女子の情報網を甘くみてはいけない。
そして、噂というのはいろんな尾ひれがついて回るものだということも、忘れてはいけない。
「あの子でしょ?すごく怖い目で睨んでくるっ子って」
「そうそう!まるで悪魔みたいだって」
ひそひそと小声で会話しているつもりだろうが、バッチリ私の耳に入ってきている。
(……そこまでひどくはないと思うけどな)
瞳の色は変えられても、生まれもった目つきだけはどうしようもない。
『普通』の生活をしたいが為に行った処世術だったが、どうやら大きな副作用をもたらしたようだ。
(前世では『魔女』、今世では『悪魔』か)
ぼんやりと前世の記憶が頭をよぎる。
前世も同じように他人に遠巻きにされていたな、と。
ーー見て。あの御方が『スノウホワイト』さまよ。
ーーお美しいけれど、どこか冷気が漂っているようね。
ーーさすが、『氷の魔女』と呼ばれるだけありますわ。
前世と容姿は異なるはずなのに、この様子じゃどうも変わり映えがない。
(まあ、おかげでいじめられるどころか誰も私に近寄らないから、平和っちゃ平和よね)
思ってたのとは違うが、物理的に害があるわけじゃないからいいか。と、その場を立ち去ろうとした時、聞き捨てならない言葉が聴こえた。
「『王子』もあの子に睨まれて脅されてるんでしょ?」
「そうなの!?だからあの子に優しくしてるんだ……雨宮くん可哀想……」
(いやいや、可哀想なのは変な噂立てられてる私の方でしょ……って、何?今の話)
こっちが「そうなの!?」って言いたいわ。と、突っ込みたくなる気持ちをなんとか抑えて私はその場を後にした。
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教室に着いた後、私は自分の席に座り先ほどの話について一考した。
確かに、雨宮くんは私に対する態度が優しい、とは思う。
しかし、それは席替えしてからずっとなのだ。
私が髪型を変えたときも、目を見せるようになってからも、雨宮くんの態度は全く変わらず一貫している。
というか、
(雨宮くんって、私に限らず誰に対してでも優しく接しているような)
席替えして1ヶ月近く経ったが、正直、雨宮冬貴という人物を私はまだ図りかねている。
最初こそ、見た目がレイン王子に似ているという理由で少し警戒していたのだが、似ているのは見た目だけで性格はあまり似ているとは思わない。
雨宮くんはいつも爽やかな笑顔でニコニコしているし、誰かに怒っている姿も見たことがない。終始穏やかな印象だ。
それに対しレイン王子は、ずっと無表情で淡白だったと記憶している。ニコリと笑うこともないどころか、笑みを浮かべる姿なんて想像もできない。
……私にだけ無愛想で、他の人に対しては違う態度だったのかもしれないけど。今となっては確かめる術がない。
しかし、雨宮くんが生徒会長として淡々と責務をこなしている姿はレイン王子と重なることもある。
レイン王子も優秀な王子で、数々の政策を生み出しては重臣たちに一目置かれていた。そのこともあり、王や国民からの期待を一心に受けていた。
(2人とも頭の回転ははやいんだよな……)
そうしてぐるぐると考えを巡らせていると、
「白雪さん、また何か考えてる」
急に話しかけられて驚いた私の肩がビクンと跳ねる。
「びっくりした……雨宮くんか」




