第8話◇新剣の開発だと?
朝日が部屋の中を明るくしてきた頃、俺は目を覚ました。
久々にぐっすり眠れた気がする。
さて、起きだすか、とフェンに声を掛けようとして見ると、フェンはヘソ天ポーズで上を向いて腹を出して寝ていた。
しかも口をだらしなく開けてよだれまで垂らしている。
これが神獣だと言っても誰も信じないだろう。
先に顔でも洗ってくるかと井戸に行き、顔を洗って部屋に戻るとフェンは起きていた。
「どこかに行っていたのか?」
「ああ、井戸で顔を洗ってきたよ。
フェンも寝ていたしな。」
「我は眠ることなどせん。
ただ、待機モードになるだけだ。
何があっても即応できるようにな。」
いや、真面目な顔して言ってるけど、よだれ付けたままじゃ説得力皆無だから。
「はいはい。ほら、フェンも顔拭いて。」
と、手元にあったタオルでフェンの顔を軽く拭いてやる。
「我にはそのようなことは不要だというに。」
「単なる身だしなみだよ。
さ、腹減っただろ。食事して出かけるぞ。」
「う、うむ。」
朝食はスクランブルエッグに厚切りのトースト、コーヒーと、メニューだけ見れば、どこかのホテルの朝食だが、食器類などが木製中心で、周りの雰囲気もあって不自然な感じはしない。
毎食、異世界風にすることもないし、何よりコーヒーが出るのが嬉しい。
朝はコーヒーがなくてはと言う人もいるだろうから。
後から聞いたが紅茶も頼めば出してくれるとのこと。
ミラさんに、
「鍛冶屋へ行きたいんだけど、近くにあるかな。」
と聞くと、
「うちの旦那が近くで鍛冶屋やってるよ。
愛想は良くないけど、悪い人ではないから。」
「ありがとう。
じゃあ顔だしてくるよ。」
「何かあったら、うちの名前出すといいよ。」
「うん。そうするよ。」
と鍵を渡して外に出た。
地図を見るまでもなく、本当に近くに鍛冶屋はあった。
ドアを開けて、
「こんにちは。」
と声をかける。
「何の用だ。」
と、ドワーフの男が、作業中だったのか、手を拭きながら出てきた。
「銀の鈴亭のミラさんに紹介してもらってきたんだ。」
と言うと、
「お、カミさんに紹介されたのか。
俺はブラ。
何が欲しいんだ?」
「いや、まだ冒険者なりたてでね。
金もないし、見学させてもらっていいかい?」
「そうか。
俺は仕事に戻るから、好きなように見ていきな。」
と奥に戻っていった。
俺はついていって、
「仕事の様子を見せてもらっていいかな。」
「邪魔しないのなら構わん。」
大きなかまどがあり、中は炭だろうか、真っ赤に燃えている。
ブラは刀身をかまどに突っ込み、赤くなったところで引き出して、金床の上で金槌を慎重に少しずつ叩きながら形を整えている。
よくある、力強く金槌を振るうイメージとは違う。
「思い切り叩かないんだな。」
「本来なら思い切り叩いて不純物を出すところだが、ここの剣は特殊でな。」
「特殊?」
「ああ、ここの戦闘がVR戦闘だということは聞いてるだろ?」
「ええ。」
「だから、ここで鍛冶屋になるにはギルドで講習を受けて、更に技術も含めた試験に合格して初めてギルド公認の鍛冶屋になれる。
ここではギルド公認の鍛冶屋でなければ武器を作っちゃダメなんだ。」
と壁を指さした。
壁には「ギルド公認鍛冶屋」という文字と例のエンブレムが貼られていた。
「へぇ。なんでそこまで制約するんですかね。」
「このマイクロコイルを見てくれ。」
と小指の先ほどの小さなコイルを見せてくれる。
「このコイルと刀身が繋がっていて、刀身が超電磁流とやらの媒体となっているんだ。」
「俺も詳しい仕組みまでは分からねぇがな。」
なるほどな。
おそらくこのコイルはギルドカードと連動しているんだろう。
それでVR空間に入ると超電磁流というものを出すことで攻撃に見せてるんだな。
「ただな。」
「ただ?」
「普通、剣を作る場合は、高温に熱した鉄をハンマーで叩いて不純物を叩き出しながら形を整えていく。
それで硬い剣ができるって寸法さ。」
「不純物を除くと、炭素含有量が多くなって硬くなるんだが、炭素含有量が多くなると伝導効率が悪くなる。効率が悪いと威力も落ちるんだ。」
「それで慎重に叩いてたんですね。
あまり叩いてもダメ、でも叩かなければ折れやすくなる。
その兼ね合いが難しいんですね。」
「お前さん、よく分かってるじゃねぇか。
その通りだ。
どうせ刃引きするから切れ味は問題じゃない。でも戦闘では切ったり受けたりした時の感触再現のために衝撃を受けるし、何かの拍子に物理的にぶつかることもあるだろう。
そんな時にいちいち折れてたんじゃ話にならねぇ。」
そうか。
VR戦闘ならではの問題だな。
ここでは異世界定番のミスリルやらオリハルコンなんかないしな。
確か伝導効率がいい金属は、銀>銅>アルミニウムだったっけな。
銀は高価だし、アルミニウムは軽いけど強度が弱すぎる。
となると銅か。
銅の剣なら伝導効率はいいかもしれないが、銀ほどじゃないにしても安くはない。
鉄より重いくせに強度は弱い。
最大の問題は腐食しやすいことだろう。
うーん。
「銅線!銅線ならそれほどコストはかからないし、銅線を鉄の刀身に仕込むのはどうだろう。あ、でも融点が鉄に比べて銅は数百度低いからなぁ。
溶解してしまうか。」
「刀身の中心を削って銅線を入れて蓋をするのはどうだ?」
「どうやって蓋をする?
熱して融着させるのでは銅線が溶けて流れてしまうぞ。
それにただ蓋をするだけでは、銅線と鉄の間に空気が入るから、そこから腐食してしまう。」
「なら銅線が溶けるギリギリのところまで熱を入れれば、鉄も溶けはしないものの、ある程度加工しやすくなっているはずだ。
その段階でカシメるように銅線を鉄で包んで叩けばいい。」
「簡単に言うけど、相当緻密な温度管理が必要だぞ。」
「鍛冶屋を舐めてもらっちゃ困るな。
鍛冶屋は色を見れば温度が分かるんだよ。」
「さすがだな。
だけど、ある程度加工しやすくなってるとはいえ、かなりの力で叩かなきゃならんぞ。」
「俺は力が取り柄のドワーフだぞ。」
「そうだったな。
その方法なら、空気を完全に押し出すことも可能だろう。
ただ、あまり叩きすぎると銅線が切れてしまうからな。」
「そのあたりの加減はお手の物だ。
最後に銅が溶けないくらいの温度で長時間熱を加えれば、完全に密着するだろう。」
「うん、それならいけそうだな。
やってみてくれるか?
俺はこれからギルドに行ってこの件を話してくるよ。
来週また来るけど、それまでに出来るかな?」
「任せとけ!」
鍛冶屋を出てギルドへ向かう。
「俺、ブラさんの仕事増やしちゃったな。」
フェンが、
「やつの目を見たか?燃えていたぞ。」
「そうなのか?」
「ああ、お主は見た目こそただのジジィに過ぎんが、人に夢を与える存在なのかもしれんな。」
「それ、前置きいらないだろ!」




