第5話◇いきなり戦闘だと?
そこはかなりの広さがあるグラウンドで、フェンスに囲まれている。
少ないながらも観客スペースも設けられていた。
目を凝らしてみると、奥半分がスクリーンがかかったように見える。
あそこがVRゾーンなのだろう。
社長が
「お気づきになられたようですな。
奥のスペースがVR戦闘ゾーンとなっています。基本的な戦闘システムはこちらの世界のMMORPGや異世界アニメ等を参考に作ってみましたが、ここにあるコンソールシステムで細かな仕様変更が可能ですので、伊勢様にお試しいただき、そのご意見をもとに作り込んでいけたらとおもっております。」
「え?いきなり?俺、戦ったことなんてないよ。」
「ゲームをやられたことはありますでしょ?それと同じようなものです。」
まあ、ここに来る人はみんな実戦経験なんてないしな。
でもゲームをやったことがある人はいるだろうし、やったことがなくても、ゲーム画面を見たり、イメージ自体はある程度持っているだろう。
「では初期装備の小剣をお持ちになってVRゾーンにお入りください。」
言われた通り、小剣を持ってVRゾーンに入ると、突然視界の左上にレベル、HP、MPが表示された。
「できれば人間の感覚器や神経に直接接続できれば、もっと臨場感が出るのですが、今回はドローンから、体勢、目の動き、位置、そしてお持ちになっているギルドカードの内容を読み取り、それらをデータ化して投影しております。」
いや、何、残念がってるの?
今回はってどういうこと?
と、不安な気持ちに襲われている俺に構わず社長は続ける。
「また、お持ちになっている武器ともリンクしておりまして、相手を切った感覚が感じられるように工夫しました。」
あー、そうですか、それはご苦労なことで。
「では、敵はゴブリンにしましょうか。早速出しますね。」
と社長が言った直後、前方10m先あたりに突然ゴブリンが現れた。
異世界ものでは弱い魔物代表のゴブリンだが、小柄で緑色の肌、ボロボロの腰巻をつけ、こん棒を持っている姿は、まるで生きているかのように見え、普通に恐怖感を感じる。
そして頭の上にはレベル、HP、MPが表示されている。
「通常は出現と同時に動き出すのですが、今はこちらで一時的に機能を停止しております。」
「まるで生きているみたいだな。」
「はい。高解像度の映像、3D技術を使用しております。
そろそろ戦ってみますか?」
「戦うってどうやって?」
「難しいことはございません。
ただ切りつければいいのです。
ですが敵も攻撃してきますので、剣で防ぐなり、よけるなりしてください。
では始めます。」
と社長が言うなり、ゴブリンが「ギャギャーッ!」と声を上げた。
「話せるのか?」
「いえ、VR魔物は基本的に話すことはできません。
鳴き声を上げるだけです。
効果音とでも思ってください。」
「効果音には聞こえないよ!」
次の瞬間、ゴブリンが突進してきたが、それほど早くはない。
だが、うまく躱せるほど俺も若くはない。
ここは迎え撃つしかない。
ゴブリンがこん棒を振り下ろしてきた。
俺はそれを小剣で受け止めた。
「ガンッ」と音がした瞬間、俺の手に受け止めた衝撃がかなり来た。
「うっ、結構キツいぞ、これ。」
「レベル1の魔物ですから大したことはございません。」
簡単に言うけど、受けてるの俺なんだよ!ともあれ、力比べは得策ではないので、受け止めた力を利用して1歩下がり、持っていた小剣を思い切り振り下ろした。
「ズバッ!」
無我夢中でやみくもに振り回したお粗末な振りだったが、それでも綺麗な剣筋となり、ゴブリンの肩から斜めに切り裂いた。
切り口がパックリ開くと同時に〇〇な〇〇がブシューッと噴き出した。
グロい、グロすぎる。
「ウギャーッ!」と鳴き声を上げながら、ゴブリンは消滅していった。
「お見事でございます!」
見ると、ウサ耳受付嬢も「すごーい!」と拍手している。
何だか嬉しさがこみ上げてきて、俺もつい「よっしゃー!」と剣を掲げていた。
だが、我に返ると同時に恥ずかしくなり、急いで剣を下ろし、
「ゴホン!確かに楽しかった。」
「伊勢様にお楽しみ頂き、望外の喜びでございます!」
「だが、問題点も多々ある。」
「それはどのような?」
「まず、俺が楽しかったと感じたのは、俺がこれまで似たゲームをたくさんやってきたことで耐性ができていたことが大きい。」
「耐性といいますと?」
「何だよ、あのグロいリアルさ。
〇〇の〇〇がブシュッとするところなんて、一般のお客さんはまともに見れないぞ!」
「ですが、生物を切ったらあのようになるのは普通のことでは?」
「そりゃあ一般に流通している食物の調理過程ではそういうこともあるだろうさ。
でも、これは戦闘中という特殊な状況で、相手も生きているとしか思えない異生物なんだぞ!
しかも肝心なことは、これはあくまで擬似戦闘で、テーマパーク内のアトラクションの一部なんだ。
そこにそういうリアルさは必要ない。」
「…そうですか。」
「敵にこちらの攻撃が当たった場合、剣ならば切れ目が入るぐらいで十分。
そして何かが飛び散る演出を加えてもいいだろう。
〇〇以外のな。」
「…はい。」
「そしてだ。俺みたいなジジィがやみくもに振り回した剣がたまたま当たったぐらいで、一撃で倒せるなんておかしいだろ?」
「それはクリティカルヒットでございますから。」
「クリティカルヒット?」
「はい。クリティカルヒットが決まった場合、通常の数倍のダメージを与えることができます。伊勢様の攻撃は全てクリティカルヒットになるようにしております。」
と、嬉しかったでしょ?と言わんばかりの態度に腹が立つ。
「ダメダメ!相手もレベル1とはいえ、レベル1のジジィの攻撃が偶然当たったぐらいなら、せいぜいダメージ1だろうな。」
「レベル1の通常攻撃で与えられるダメージは相手のレベルにもよるが、1ダメージを基本にしよう。
レベル1のHP、MPはともに10、レベル2になってそれぞれ20に上がるようにしよう。ここで言うレベルは個人総合レベルだ。」
「承知致しました。」
「ジョブシステムも取り入れよう。
小剣、片手剣はいずれもジョブは初級剣士とし、スキルシステムを導入して、初級剣士なら斬撃、なぎ払い、連続切り、突進突き、防御としてパリィとカウンターを覚えてる。」
「スキルを使うと、勝手に剣がその軌道を描き攻撃してくれる。」
「ジョブとスキルはステータス画面を開くと名前だけ記載される。
裏で熟練度が貯まっていき、一定に達したら剣士に昇格だ。」
「総合レベルアップ、ジョブの昇格時には演出を入れたらいいんじゃないか?
例えばプレイヤーの視覚に、
「おめでとうございます!『剣士』への昇格資格を得ました。ギルド、またはステータス画面からクラスチェンジを行ってください。」
の文字を効果音とともにポップアップさせるとかさ。」
「いやはや、伊勢様の広博かつ卓絶なる見識には恐れ入るばかりでございます。」
「いや、ごく一般的なゲーム知識を使って言ってみただけさ。
細かい部分はもっと詰めていこう。
みんなも調べてくれ。」
「承知致しました!」
「伊勢様、私、ここで少しシステムをメンバーと詰めていきたいのですがよろしいでしょうか?」
「ああそうか。
じゃ、俺は宿屋にでも行ってみるよ。
あんまり無理すんなよ。」
「分かっておりますとも。」
と伊勢は去っていった。
すかさず社長はいつの間にか集まっていたメンバーに向かって、
「聞いたか?また無理するなとのお言葉!」
「聞いていたぞ!」
「前にも言ったが、無理するなとはお前らなら出来るはずだとの信頼のお言葉に他ならない!」
「その通り!」
「何としても今日中に伊勢様に満足いただけるシステムを作り上げるぞ!」
「おうっ!」
と、またも伊勢の知らないところで、勝手に盛り上がってる技術者集団であった。




