第4話◇オフィシャルエンブレムだと?
さて、次の週。
「少しは進んだかな?」
と出向いたところ、社長が更にげっそりした顔になっている。
「ちゃんと寝てる?」
と聞くと
「ご心配には及びません。」
と声だけは元気だ。
「さ、こちらに。」
と社長に促され、例の通路を通って街へ。
「おー、ずいぶん出来上がったな」
と感心していると、社長は満足げだ。
向こうから、ジャスが馬に乗り、他の騎士を連れてこちらに来た。
「お、ジャスじゃないか。
すっかり団長らしくなったな。」
煌めくような鎧をつけ、マントを翻す姿は格好いい。
「お褒めいただきありがとうございます。」
とジャスが馬を降り最敬礼。
「だから大げさなんだって。
そういや、何で団長のジャスが巡回してんの?」
と聞くと
「小隊長はまだ着任したばかりで慣れておりません。
何かあって伊勢様にご迷惑をおかけするようなことがあってはなりませんので、しばらくの間、私も同行することにしております。」
いや、あんたも着任したばかりだろ、と心のツッコミを押し殺し
「さすが団長、責任感強いね。
でも全小隊に同行する訳じゃないんだろ?」
「フフッ、まさか。2隊だけですよ。」
「え?3隊交代の中の2隊?」
どんなブラック企業だよ!
しかも何でそこで
「フフッ」って笑うんだよ!
「あ、申し訳ございません。
団長たるもの全隊に同行すべきですよね。
団長失格です。
いかような処罰でもお与えください!」
「ちがーう!団長は本部でどっしり構えてればいいの。
何かあった時に団長の所在が分からないでは困るでしょ?
しかも、3隊交代の中の2隊って16時間勤務じゃん。
寝る時間もないでしょ。」
「いえ、寝ておりますが?」
「そうじゃない!
とにかく、今後は緊急時でない限り、団長は日中の間だけ本部の団長室で勤務のこと。
わかった?」
「はい…」
と、すっかり元気を失っていた。
「ま、団長の責任感、勤勉さが素晴らしいことは確かだ。
これからも騎士団をよろしく頼むよ。」
と言うと、途端に表情が明るくなり、
「ありがとうございます!
このジャスティス、身命を賭して業務に努めます!」
身命賭さなくていいっての。
「はいはい。
せっかくだから、騎士団に案内してもらおうかな。」
「それは是非!お連れ致します!」
ジャスに連れられ、街外れの騎士団に到着。
何かの紋章が入った団旗らしきものが翻っている門をくぐると、結構大きな広場があり、カン、カン、カンと団員同士が木剣を打ち合っている。
「あれは鍛錬?」
とジャスに聞くと、
「はい。戦闘はVR主体と聞いてはいますが、騎士団員たるもの、剣も満足に振れないようでは話になりません。
また、VRではなく、物理戦闘になることも予想されます。
ですので、攻撃というより、防御主体の鍛錬をしております。」
なるほど。それはそうだ。
街に来るものは武器も持てるのだから。
「素晴らしいね。よく考えている。
ジャスを団長にしてよかったよ。」
と言うと、ジャスは今にも泣きだしそうな顔をしながら、
「ありがとうございます!
そのお言葉を胸に今後も精進致します!」
なぜか、社長がそっぽを向いている。
今日は機嫌が悪いのかな。
本部内に入り、まずは宿泊室へ。
大きな両開きのスイングドアがついており、内部もかなり広そうだ。
「広そうだな。
余裕のある環境は大事だからな。」
と言いながらドアを開けると、
「えっ?」
と固まった。
中は確かに広いが、一面にハンモックが吊るされており、その数は20はあるだろう。
「なんじゃこりゃ!」
と声を上げると、ジャスが得意げに
「緊急事態が発生した場合に備え、すぐに出動できるような体制をとっております。」
「いや、緊急事態が生じた時のために1隊を待機させているんじゃないか。
そもそも緊急事態など、そうは発生しない。
ここはテーマパークなんだぞ?
ああ、それでスイングドアだったのか。
これじゃあプライバシーも何もあったもんじゃない。
個室にしろとまでは言わない。
2人部屋がいいだろう。
交流、あるいは牽制にもなるしな。
そして各自のベッドと机、椅子程度は用意するように。
分かったな。」
「はい…」
「じゃあ次は食堂を見せてもらおうか。」
食堂は学生食堂によくあるような、大きな長机があり、椅子が並んでいた。
「食事は時間も不規則ですし、団員は野営をすることもございますので、その訓練も兼ねて各自が自炊することにしています。」
「なるほど。それは考えたな。」
「あと、屋内にVR戦闘用の鍛錬場がありますが、まだVR設備の調整中です。」
とのこと。
そして最後に団長室へ。
団長室は比較的大きな机と椅子。そして来客用の応接セット、本棚とシンプルな作り。
そして、机の後ろに、あの門に翻っていた旗が飾られていた。
旗の中央に狼に跨って剣を天にかざしているいかにも勇者風の男が描かれている。
気のせいか俺に似ているようでもあるが、まあ、デザインとしては格好いい。
そして、その図柄の下に文字が書かれていた。
その文字は、
「ISE Master Of This World」
「なんじゃ、こりゃあ!」
「オフィシャル エンブレムです!」
と社長が嬉しそうに答える。
「オフィシャル?」
「はい。
伊勢様の御真影を使ったものは、全て我々が管理しており、偽物が出回らないようにしています。
右下に小さなホログラムがあると思いますが、それがオフィシャルグッズの証です。」
「俺の御真影?この旗と何の関係が?」
「真ん中におられるではないですか。
何と凛々しいお姿でしょう!」
うん、うんとジャスも頷いている。
「え?これ俺なの?」
「伊勢様以外に誰がおりましょう。」
「いや、問題はそこじゃない!
問題ではあるけど…その周りを取り囲む文字だよ!
なんだよ!ISEって!」
「よくお気づきになられましたな。
さすがのご慧眼。
ISEの文字だけ金糸を使っております。」
「ちがーう!何で俺の個人名使うんだよ。
肖像権侵害に個人情報保護違反で訴えてやる!」
「はっ、はっ、はっ、伊勢様も大げさな方ですなぁ。なあ?」
とジャスを見やると
「ほんとうに。フフッ。」
「なんか俺がおかしいこと言ってるみたいじゃね?
と・に・か・く、俺の個人名を使うのは禁止!」
「それは困りましたなぁ。」
「なんで?」
「先ほどオフィシャル エンブレムと申し上げたではありませんか。」
「ああ、そう言ってたな。だから何。」
「ですから、ここの主要建物にはこのエンブレムを模した旗が翻っておりますし、主要設備にもこのエンブレムが飾られています。
また、制服にエンブレムをつけているところもございます。」
「俺の許可なしに?」
「ちょっとしたサプライズってやつですよ。」
「こんなサプライズはいらない!」
「さ、そんなことより次はギルドに行きましょうか!」
「そんなことよりって、軽く流すんじゃねーよ…」
そんなこんなでギルドに到着。
ギルドの建物は周りの建物に比べひときわ大きい。
そして、例の旗が翻っている。
見ないようにして、大きなドアを開けると、中はかなり広く、色んな種族のNPCでごった返していた。
飲食もできるようで、一角に丸テーブルと椅子が並べられており、そこで酒を飲んでる者もいるようで、大きな声で盛り上がっていた。
「NPCって、酒も飲めるの?」
「ええ、人間同様に飲食可能ですし、味覚もあります。」
「すごいな。酔っ払ったりする?」
「そうですな。
人間が酔っ払うのとは正確に言うと違うのですが、アルコールによって、性格、動作、体調が変化します。
ただ、個体差はありますね。」
「なんか、それも人間っぽいな。」
「食べ過ぎると排出するまで動きが鈍くなります。
排出も人間同様で」
「いや、そこの説明はいいから。」
そんなやり取りをしていると、見るからに酔っ払って見える男から声がかかる。
「おい、おい、ここはジジィが来るとこじゃねえぞ!」
あれ?これって、異世界ものお約束の
「ここは子供が来るとこじゃねえぞ」
ってやつ?
ってか、ジジィって改めて言われると何かムカつくな。
ホントのことだけど。
「君達!このお方をどなたと心得る!」
「社長。あんたこっちの世界で時代劇見てるだろ。いいから構うなって。」
さて、ギルドならカウンターがあるはずだよな。
見ると、
「あった、あった。」
いくつかに仕切られたカウンターがあり、受付嬢が並んでいた。
「ウサ耳いたー!」
ウサギの耳をした受付嬢のところへ早速行く。
「ご登録でいらっしゃいますか?」
いやー、ホントにウサ耳受付嬢をこの目で見れるなんてね。
感激だわー。
と、感激の瞬間に浸っていたら、胸元のエンブレムが目に入る。
「うわ、マジかよ」
一気にげっそりした気分に。
「どうかなさいましたか?」
「いや、すまん。なんでもないよ。そう。冒険者登録したいんだけど。」
「では、こちらの用紙にお名前を記入いただけますか?」
と用紙を渡された。
名前だけでいいのか。
ま、みんな来たばかりだしな。
さて、本名なんか書いたら面倒なことになるし、と「カイ」とだけ書いた。
「カイ様でいらっしゃいますね。
では、こちらの水晶玉を正面からご覧いただけますか?」
「ほう、これは?」
と社長に聞くと、
「それは顔認証システムでございます。
そのデータがこれから作られるカードに組み込まれます。
かなり精度が高いシステムですので、どんなに似た顔でも他人と誤認することはございません。」
「へぇ、どれどれ。」
と水晶玉を覗き込むと、
「結構でございます。
ではしばらくお待ちください。」と奥に引っ込んでいった。
すぐにまた出てきて
「こちらがカイ様のギルドカードになります。
皆さん冒険者ランクはFランクからのスタートになります。
冒険者ランクは討伐、採集など、あちらの壁に貼ってある依頼をこなすことでポイントが貯まり、一定のポイントになりますと、冒険者ランクが上がります。
依頼を失敗しますとポイントも下がり、一定のポイントを下回りますと冒険者ランクも下がります。
Fランク以下にはなりませんが、場合によってはこちらの判断で出禁とさせていただくこともございますのでご承知おきください。」
タチの悪いやつへの保険だろうな。
社長もちゃんとリスク管理考えてるじゃん。
「依頼は自分のランクの1つ上までのものしか受けられません。
また、初回は、冒険に出る前にギルド内にございます屋内鍛錬場で簡単な講習を受けていただきます。」
「わかったよ。じゃあ講習を受けさせてもらおうかな。」
そして、地下にある屋内鍛錬場へ案内された。




