第2話◇フェンリルだと?
次の週、約束通り先方の会社へ行ったら、社長が張り切って出てきた。
だけど、よく見たら何となく目の下に隈ができてて、頬もこけた感じになってる。
「あれ?何か疲れてるんじゃないですか?」
と聞くと、
「私のことはどうでもいいですから、まずは伊勢様に見ていただきたいものがあります。
さ、こちらへ。」
と連れていかれた先には、なんと既に街らしきものが出来ている。
「もう作ったんですか?早すぎませんか?」
「いえ、まだ街のほんの一部を作ったに過ぎません。
まずは雰囲気の感想を頂きたく急ぎ仮作成してみました。
いかがでしょう。
伊勢様が考えておられた街はこんな感じでございますか?
それと、我々に丁寧語など必要ございません。
普段通りにお話いただけませんか?」
なんか急に俺に対して丁寧になり、逆に俺には普段通りにしてくれと言ってくる。
ま、そうしてくれと言うんだからそうするか。
それから街並みを眺めてみた。
確かに売店や食堂などが数件並んでいるにすぎないが、その精巧さたるや、まさに異世界そのものにしか見えない。
「いや、すごいよ、これ!俺が考えていた通りの街だ!」
「ご満足いただけて何よりです。」
「これからNPCとか作っていくのかな?」
「ええ、まずは我々の技術を見て頂きたく、今できる最高の技術を1体に注ぎ込んで作りあげました。」
「1体?」
よく見ると売店の陰にフェンリルが面倒くさそうに座っていた。
俺は走り寄って、
「これ、フェンリルじゃないか?!」
「前回、伊勢様がフェンリルにいたくご執心のようでしたので。」
とどこか得意げ。
「話せる?」
「もちろんでございます。」
フェンリルに
「こ、こんにちは。」
「我に何か用か?」
「いや、用という訳でもないんだけど、触ってもいいかな?」
「仕方あるまい。触るがよい。」
モフモフ。
「うわ、何これ!」
「毛並みの触感については、かなり苦労いたしました。」
確かに今まで触ったことのない素晴らしい感触だ。
だが驚くことに
「こいつ温かいぞ!」
「もちろんでございます。」
「この鼓動…心臓が動いてる!」
「もちろんでございます。」
「呼吸もしてるじゃないか!」
「もちろんでございます。」
「これ、もはや生物そのものだろ…お前ら何作ってんだよ!」
「お褒め頂き恐縮にございます。」
「いや、褒めてないし。」
と、社長と話している間も撫で回していたら、フェンリルが変な声を出し始めた。
「も、もうよいであろう!」
「いや、もう少し。」
撫で撫で。
ゴロゴロ。
「あれ?気持ちいい?」
「そんなはずあるまい!」
社長が
「名前をつけてあげたらいかがでしょう」
「我に名など不要だ。」
「うーん、そうだな……フェン!フェンにしよう!」
「ありきたりな名前を付けおって。
用が済んだのなら我は帰る。」
と、歩いていってしまう。
そこで俺が
「フェン!」
と呼ぶと、反射的にフェンリルが振り向くが、悔しそうな顔をして、また歩き去ろうとする。
「フェン!」
クルっ。…スタスタ。
「フェン!」
クルっ。…スタスタ。
「フェン!こっちおいで!」
フェンリルが猛ダッシュで飛び込んできて急ブレーキ。
「何の用だ!」
と言いながらも少し嬉しげ。
「いや、お前、今めちゃくちゃ嬉しそうに走ってきただろ。」
「そ、そんなはずあるまい!」
「ま、いっか。フェン、これからもよろしくな。」
「お主次第だがな。」
と言いながら去っていった。
「尻尾振り振りしてんじゃん笑」
「伊勢様」
と社長が声をかけてきた。
「あ、悪い、悪い、何?」
「この後、どのように進めていけばよいでしょうか。
何卒ご教示頂ければありがたいのですが。」
「そうだな。
まずはここの平民街を作り進めて、できれば住民もNPCで少し揃えてみて。
あ、フェンみたいに精巧じゃなくていいから。」
「フェンは特別でございます。
あのようなものは我々でもそう何体も作れるものではございません。
あれは傑作中の傑作。
あの毛並み、まるで生きてるかのような呼吸と鼓動。
そして高度なAI。
これを実現するためには」
「あ、そんぐらいでいいから」
「そうだな。俺も時々ここに来たいから、ちょっと休めるようなとこ作ってもらえる?」
「もちろんでございます。
伊勢様が俗世の憂いを忘れてリフレッシュできるような施設でございますね。」
「いやいや、そんな大仰なものじゃなく、ちょっと休めればいいんだよ。」
「多くを語らずとも問題ございません。
お任せください。」
「ほんとに分かってんのかなぁ。」
「まあ、いいや。じゃまた来週来ればいいのかな?」
「はい。ご足労頂ければ幸いです。」
なんか態度がどんどん変わってきてるような気もするが、とりあえずまた来週来よう。
何か楽しみなような、不安なような。




