第1話 ◇異世界を作れるだと?
俺の名前は伊勢 界。65歳。
この名前のせいで随分からかわれもしたが、逆にこの名前のおかげで異世界転生ものの小説やアニメを見まくった。
そんな俺も、65歳になり、これまで数十年勤めた会社に定年再雇用により、現在はパートとして働いている。
今の生活に不満はないが、何度も異世界に行けないものか、ずっと夢見てきた。
行けないのは分かっているので、この世界に異世界を作ってみたらどうだろう、異世界テーマパークなんて面白いんじゃないかと、AI相手に、結構本気で設定を練ったこともある。
そんなある日、定年に備えて登録していた求人サイトを眺めていると、
「新規事業企画募集。事業収益は不問。
とにかくこれまでにない斬新な事業企画を募集。
企画案が通った際は、新事業アドバイザーとして採用。
待遇要応談。」
という募集に目が止まった。
「何だこれ?」
その会社について調べてみると、10年程前に設立された比較的新しい会社らしいが、どうやら特殊な技術力を売りにしているらしく、この10年でかなりの業績をあげているようだ。
そこで、以前練っていた異世界テーマパーク案を出してみることにした。
といっても本当に簡単なプロットだけ。
案が通るとも思っていなかったが、せっかくあそこまで練った案を誰かに見てもらいたかっただけだった。
数日後、提出した案について、もう少し詳しく聞きたいので、来社してもらえないかとの連絡があった。
面倒だなと思ったが、会社が休みの土曜日で構わないとのことだったので、それならと気楽な気持ちで行ってみることにした。
あの案について聞かれても答えられる自信はあったし、むしろもっと聞いて欲しい気持ちが強かった。
で、先方の会社に到着。思っていたより大きなビルだったが、目立つほどでもない。
営業時代を思い出しながら受付へ。
受付で来社目的を伝えると、すぐに応接に通された。
しばらく待っていると、比較的若い男性が入ってきて、名刺を出しながら
「伊勢様でいらっしゃいますね。
お待ちしておりました。
私は人事部長の仲村です。
早速で恐縮ですが、会議室に社長以下役員が集まっておりますのでお越し願いますか?」
と言われ、会議室に行くと、
「伊勢様がいらっしゃいました。」
と言いながら人事部長がドアを開けてくれた。
中には10人程いるだろうか。
特に目を引いたのが、上座に座っている丸眼鏡をかけた神経質そうな人物。
するとその人物が立ち上がり、
「社長の氷室です。
他はみんなうちの役員ですが、挨拶はあとでいいでしょう。
早速ですが、あなたの案をまずは簡潔に我々に聞かせてください。」
と事務的な口調で言い、演台を指差した。
「いきなり?」
と驚く間もなく演台に連れていかれたので、こうなったらと腹を括り話し始めた。
これまで異世界転生ものを小説やアニメで見てきて、いつか行ってみたいとずっと夢見てきたこと。
ただ、現実には不可能なので、いっそこの世界に異世界を作ってみたらどうだろう。
それをテーマパークにすれば、来場者も楽しめるのではと、AIを相手に設定作りに夢中になり、それが一つの趣味になってしまったこと。
それから、具体的なイメージを話し始めた。
入場時に異世界風の衣服に着替えて、ワープのような演出をされた空間を抜けたら、目の前に異世界の街の門が現れる。
門をくぐって街に入ると、目の前を甲冑をつけた騎士が馬に乗って通り過ぎ、売店では獣人が大きな声で呼び込みをしていたり、帯刀した冒険者が笑いながら歩いていたりと異世界そのものの光景が広がっている。
ふと会議室にいる人達を見ると、みんなの目がギラギラして何か怖い。
特に社長なんて、身を乗り出さんばかりにしてこちらを凝視している。
ちょっと入り込み過ぎじゃないの?
なんて思ってたら
「さ、続きをどうぞ」
と社長にうながされたので、
「ここで一番重要なのが、高度AIを組み込んだNPCなんです。
今出てきた人達はみんなNPCなんですよ。
ですがロボット技術を含め、来場者に違和感を抱かせず、ある意味自我を持ち、普通に話すことができ、長期間に渡って、来場者のことも含め記憶を維持できるようなものを現在の技術で作るのは難しいというのが難関でして。
この後、フェンリルとの出会いなんかもあるんですが、フェンリルといったら、異世界好きにとって憧れの魔獣です。
だからこそフェンリルには毛並みや質感を再現し、乗って走ることもできる。
そして会話まで。
でもそこまでいくとさすがに無理ですよね笑」
と笑うと
「ドンっ!」
と社長が強く拳を机に叩きつけ、
「我々ならできます!」
と強い口調で言い切った。
「我々なら?」
と聞くと、社長は、
「これから話すことを内密にしていただけますか?」
「ええ、これでも長年金融系の会社で働いてきたので、守秘義務については身についていますし、文書を交わしても構いませんよ。」
「いえ、伊勢様を信じましょう。では」
と社長は列席者を見回しながら
「実は、私含め、ここにいる10人は、10年前に異世界から転生してきたのです。」
「まあ、転生と言いましたが、生まれ変わったのではなく、転移したといったほうがいいかもしれません。」
「我々がいた世界は、工学技術が高度に発展しており、ここにいる10人は、その最先端技術者だったのです。」
「この世界には我々の世界に存在した素材がなく、すべての技術をこの世界で実現することはできません。
また、社会全体に高度技術の理解がない中で、むやみに我々の技術を公開してしまうと、この世界への影響は無視できないものとなってしまう可能性もあり、可能なレベルで技術を小出しにしながら、この10年過ごしてきました。
ただ、我々は元々経営者ではなく技術者ですから、金儲けより、我々の持てる技術を存分に発揮できる舞台を求めていたのです。」
周りの面々が皆大きくうなずく。
「そこに伊勢様の提案があったのです。
最初は興味半分だったのですが、お話を聞いてみると、何と素晴らしい提案でしょう!
これなら我々の技術が思う存分ふるえそうです!」
と鼻息が荒い。
「じゃあ、人間そっくりのロボットなんか作れたりするんですか?」
と聞くと、
「我々のいた世界ではヒューマノイドと呼んでいました。
ヒューマノイドと全く同じものは材料がないので無理ですが、軽量チタンやカーボン素材を使って骨格を作り、医療用シリコンゴムやTPU、ハイドロゲルなんかを組み合わせれば、かなり近いものが作れると思います。」
「AIについてはどうですか?」
「それはお任せください。
元の世界では制限はありますが、自我をもったAIでの利用はごく当たり前でしたから」
「でも、費用がとんでもないでしょう。」
「ははは。これでもうちの会社はかなり儲かってましてね。
費用の心配はありません。」
「それよりもう少し話を聞かせてください!」
結局、その日の遅くまで話し続け、夜中に解放されたものの、
「また来週お待ちしております。」
と、次回の約束までしてしまった。




