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第12話◇異世界に温泉だと?

「俺、風呂に入りたかったから、

今から行ってくるわ。

フェンはどうする?」


「我は小屋で待っておる。」


「じゃあ、また後でな。」


ミラさんに場所を聞いて温泉に向かった。


しばらく歩くと行列が見えてきた。

行列の後ろに並び、前の人に話しかける。


「結構盛況だね。」


「そりゃあ、みんな温泉なんか入ったことないから興味津々さ。

30分ぐらい待たなきゃならないようだぞ。」


へぇ。NPCも風呂に入れるんだ。


「もちろんでございます。」


「うわ!ビックリした!

何でお前がここにいるんだよ。」


いつの間にか社長が後ろに立っていた。


「視察にきましたら、伊勢様が見えましてな。」


「嘘くさいなぁ。

俺の行動を監視してるだろ。

それより何で俺の心の声が分かるんだよ!」


「まさか。そんなプライバシーを侵害するようなことは致しませんよ。

心の声については、

まぁ、以心伝心ってやつですかな。

そんなことより、立ち話も何ですから、

こちらへどうぞ。」


以心伝心って、お前と通じ合いたくないよ。

またはぐらかしやがったな。


と思いながら社長についていくと、

従業員控え室のようなところへ通された。


「さっきの話だけどさ、

NPCって風呂に入れるのか?

というか、

風呂に入る必要あるのか?」


「いずれのヒューマノイドも動力源があり、

そこから発生する熱を排出する必要が

あります。


もちろん冷却機能もありますが、

それでも追いつかない場合、

人型ヒューマノイドでは、

人間における汗腺のところから、

水蒸気を出して排熱します。

ですから見た目は汗をかいているように見えますし、それを拭き取ったりもします。


毛皮を持つヒューマノイドの場合は、

口、舌、鼻の先、肉球が排熱部位となります。」


「中に水分が入ったりしないのか?」


「そこは何重もの防水処理がされておりますので問題ございません。」


「でも水蒸気なら汚れる訳じゃないんだから、

風呂に入る必要はないだろ?」


「おっしゃる通りでございます。

汚れを取る目的であれば風呂に入る必要は

ございません。


ただ、彼らは人間の感情をベースに

作られておりますので、多くのものが

「風呂=気持ちいい」

というイメージを持っております。


また、感覚器もほぼ人間と同じですので、

風呂に入ると心地よく感じる者が多いのです。

もちろん例外はおりますが。


毛皮を持つ者の中には、毛が濡れることを嫌がる者もおりますね。」


「それであんなに並んでるんだ。」


「そうだと思われます。

さ、伊勢様もお入りください。

後ほどご感想をお聞かせいただければ

と思います。」


「ああ、それじゃあ入らせてもらうよ。」


脱衣場へ行き、衣類を脱ぎ、小型のロッカーに脱いだ衣類を入れ、ゴム輪のついた鍵をかけ、そのゴム輪を手首につける。


「まさに銭湯だな。」


と思うと、壁に富士山が描かれた、

タイル張りの銭湯の浴場が頭に浮かんだ。


「さすがにそれはないだろ。」


おそらく木造で、ヒノキとまでは言わないが、木で作られた浴槽だろう。


そう考えながら浴場の入り口を開ける。


「…どこだここ。」


挿絵(By みてみん)


そこはまさに古代ローマの大浴場であった。

大理石ではないだろうが、白い石造りの浴場。


浴槽もかなりの大きさがあり、

湯も溢れんばかりに満たされ、

モウモウと湯気が立ち込めている。


手早く洗い場で身体を流し、

浴槽に浸かった。


「ふぅ。気持ちいい~。」


身体に染み入ってくるように

ジワジワ温まってくる。


向こう端ではライオン像の湯口から

湯が流れ出ている。


ん?ライオン?


目を凝らしてよく見ると、

それはライオンではなくフェンであった。


フェンのヨダレを垂らしている様子が思い浮かび、思わず笑った。


「わはは…は…は?」


湯気でよく見えないが、フェン像の近くに人間の石像がある。


ミケランジェロのダビデ像を思わせる

筋肉隆々の姿でタオルを腰に巻き、

ポーズをとっている。


あのポーズ、どっかで見たことあるな。

ああ、ボディビル大会とかでよく見る

ポーズだ。


そして顔は硬貨に描かれたあの顔。


マジでやめてくれ。


自分の身体と見比べ、急に恥ずかしくなり、

すぐに浴槽から上がった。


脱衣場に戻ると、ビン入りの牛乳、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳が売っていた。


浴場とギャップありすぎだろ。


手早く着替え、控え室に戻ると、社長が待っており、


「いかがでした?」

と聞いてくる。


「浴場は素晴らしかったよ。

脱衣場とギャップはあるが、あれはあれで面白いかもしれない。」


「そうでございましょう?

あの浴場は硬質セラミックを使用しております。

大理石を使おうかとも思いましたが、平民街の銭湯ですからね。

それはやりすぎかと。」


お前の感覚、どうなってるんだよ。


「それよりあの石像だよ!

何だよあれ!」


「素晴らしい筋肉でございましょう?

私も最初見た時、思わず


「ナイスカット!」


と叫んでしまいました。」


「そこじゃない!

何で硬貨の顔使うんだよ!」


「ここで像を作るとしたら、

伊勢様以外は考えられません。

ええ、そこは譲れません!」


何でそこまでこだわるかな。

まあ、あれは社長の理想の伊勢様で、

俺はただのカイだ。

そう思うことにしよう。


「それにしても、よく温泉を掘り当てられたな。」


「ええ、部下が棒を持って歩いていたところ、

突然、棒が指し示すところがあり、

そこを掘ったら温泉が湧き出たそうです。」


いや、それもしかしてダウジング?


ダウジングで温泉を掘り当てたってこと?


そんな話、信じるほうが難しいわ!


ま、突っ込んだところで本当のことは

言いそうにないし、ここは流すとしよう。

俺もどんどんスルー能力が鍛えられるよ。


「今のところ温泉はここだけか?」


「はい、いまのところは。

ですが湧出量がかなり多いので、

他にもいくつか作ろうと考えております。」


「そうだな。各所で違った温泉にすれば、

客も温泉巡りが楽しいんじゃないかな。」


「そうですね。

早速指示することにします。」


「NPCがそれほど温泉が好きなのであれば、

毎日のように入りたいだろうし、

温泉に愛着もわくだろう。


どうだろう。


住民のNPCには入浴パスを持たせて

無料にするというのは。


その代わり、持ち回りで月に1回とか

清掃や設備維持のために働いてもらうんだ。


入浴パスにその実績が記載されるようにして、労働実績が認められない者からは

入浴パスを取り上げる。」


「1度湯に浸かっただけで、

民の処遇まで考えが及ぶとは!


まさに名君とはこのこと!


これほどのお方がこの国を統べている

と知れば、どれほど民は感激するでしょう。

もっと知らしめなければ。」


「いや、また変なことするなよ!


って今、国って言わなかったか?

言ったよな!」


「はてさて、そんなことを申しましたかな。」


「あからさまにとぼけるなよ!」


「今日はこれで宿にお戻りになるのでしょうが、明日もギルドに来ていただけるのですよね。」


また平然とスルーしやがった。


「ああ、明日もギルドに行くよ。

さすがに新伝導剣はできていないだろうが、

俺から提案したいことがあるんだ。」


「伊勢様から直々にご提案とは!

私、ワクワクして今夜は眠れそうに

ありません!」


遠足に行く子供かよ。


さて、宿屋に戻るか。


宿屋に戻った俺は、

フェンと夕食をとってから部屋に戻った。


「温泉はどうであった?」


と、フェンが聞いてくる。


「すごく気持ち良かったぞ。

(あの石像を除けば)」


「あんなものに入るやつの気がしれんわ。」


「フェンは苦手なんだ。」


「この見事な毛並みが乱れるのが嫌なのだ。」


見事な毛並みとか自分で言うなよ。

ただ毛が濡れるのが嫌なんだろ?


「フェンも気持ちいいと思うぞ。

今度一緒に入ってみないか?」


「断る。」


「強情だな。

今日は魔法のテストで疲れたから、

特に温泉の湯が身に染みたよ。」


「魔法のテストごときで疲れるとは、

やはりジジィだな。」


「うるさいよ。

確かにあの重たい剣を振り回すのは

キツイけど、それ以上に魔法で叫んでたから、喉も痛いんだよ。」


「魔法で叫ぶ?」


「ほら、

『ロックバレット!』

とか

『ファイヤーボール!』

とかさ。」


「何も叫ぶ必要あるまい。

いい歳して恥ずかしくないのか?」


「そりゃあ恥ずかしいさ。

別に好きで叫んでる訳じゃないよ。

だって叫ばなきゃ発動しないんだろ?」


「いや、システムが認識できる程度に

声を出せば十分だ。」


「…え?」


「フフ、さてはお主、遊ばれたな。」


「なんだと!

やりやがったな、あの野郎!!」

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