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第11話◇宿屋が変わっただと?

しばらくして「銀の鈴亭」に到着。


見慣れた看板、ドア。


前に来た時からそれほど日にちは経っていないのに、何だか懐かしさを感じる。


ドアを開けて


「ただいま!」と一声かけると、


ミラさんが


「おー!カイさんじゃないか。

お帰り!今度は少し長くいられるのかい?」


と聞き慣れた明るい声で迎えてくれる。

実は今回は有給を1日取ったので、2泊3日の予定なのだ。

もっと多く有給を取ることもできたが、あまり長くここにいると現実世界に戻れなくなるような気がして、とりあえず1日だけにした。


「ああ、2~3日はいると思うよ。

部屋は前のところがいいんだけど。」


「ギルドの人たちが来てガチャガチャやってたよ。

2階はカイさん専用だから好きに使っておくれ。宿代はギルドが払ってくれたからいらないよ。」


え?俺専用?あいつら何やったんだ。


「あと、うちの旦那が感謝してたよ。

カイさんと新しい武器の開発したんだって興奮して話してたよ。

私には何言ってるのかさっぱりだったけどね。」


「ブラさんには忙しい思いさせちゃって申し訳なく思ってるよ。」


「何言ってんだい。あの人にとって物作りは生きがいなんだ。

あんなに生き生きとしてるあの人を見たのは初めてだよ。

ありがとうね。」


「とんでもない。

それでブラさんは?」


「あれから工房にこもりっきりさ。

でも、それでいいんだよ。

そうじゃなきゃあの人じゃない。」


「じゃあブラさんには会えてないの?」


「いや、食事は私かネラが毎日差し入れてるから心配しなくて大丈夫だよ。」


新伝導剣のせいだな。

ごめん、ミラさん。

と心の中で謝り、鍵を受け取って2階に上がった。


「ん?」


ドアが手前にある。


以前あった奥のドアはなくなっている。


不思議に思いながらドアを開けた。

内部は以前と同じ広さで、家具の種類、配置もまったく同じであった。


「何だ、場所だけ変えたのか?」


と思ったが、ベッドの横にもドアがある。


「あれ?あんなとこにドアがあったっけ?」


と思いながらドアを開けると、


「何だこれ!」


挿絵(By みてみん)


部屋の広さはほぼ同じだが、部屋全体にカーペットが敷かれている。


何よりベッドがデカい。

キングサイズぐらいあるんじゃないか。


ベッド周りには以前同様ラグが敷かれているが、おそらくフェン用と思われるクッション性のよさそうな丸いマットが置いてある。


ベッドに近づいてみると、厚いマットレスの上に羽毛布団がかけられていて、枕は低反発なもののようだ。


窓に目を向けると、窓の横に木製の細長い箱が据え付けられており、


「まさかな。」


と近寄ってみると


「…エアコンじゃん。」


どうりで部屋に入った時、涼しく感じたのか。


カーテンは明らかに遮光カーテン。


「おいおい、これじゃあ現実世界より快適空間だぞ。」


ふと、更に部屋の隅にドアが2つある。


恐る恐る1つのドアを開けると、奥にガラス張りのシャワールーム。

手前には洗面台、ウォシュレット付きの水洗トイレ。

蛇口をひねってみると水はもちろん、温水も出る。

おそらく外にある井戸も水道から水をひいていると思われるので、こんなことも可能なのだろう。


「はぁ…」


半ば諦めの境地でもう1つのドアを開ける。


そこには冷蔵庫、電子レンジ、電気ポット、IH調理器、シンクとちょっとしたキッチンだった。

更には全自動洗濯機もある。


「ここに永住させるつもりじゃないだろうな。」


と、つぶやきながら冷蔵庫を見ると、前面に液晶パネルがついていた。


「何だこれ。」


と触った途端、スイッチが入り画面が明るくなった。


画面には「ISE KAI Online Shop」の文字が。


「異世界オンラインショップ?いやちょっと待て。

なぜISEとKAIの間が空いてるんだ。

これじゃあ伊勢 界オンラインショップじゃねーか!」


一瞬

「ええ、そうでございますが何か?」


とニヤニヤしている社長の顔が頭に浮かび、

ブチ切れそうになったが、一方で


「ジョークでございますよ。」

との顔も浮かび、


「乗せられちゃいかん。どうせ見せかけだろ。」


と、画面をタップした。


すると

「現在構想中。ご意見をお寄せください。」

の文字が。


ほらな、これはさすがに無理がありすぎるだろ。


そもそも、こんなの構想するなよ。


と思いながら視線を下げると画面の下に電話、メールのアイコンがあることに気付いた。


試しに電話アイコンを押すとログイン画面が表示され、どうやら自分のスマホにログインすれば、ここから直接、電話やメールができるようだ。


早速ログインしてみると、電話、メールとも送受信が可能であった。これは使えるかもしれない。


俺が当初から気になっていたのはスマホの扱いだった。

現在はスマホをギルドに預けるルールにしている。

スマホを持ち歩く異世界にはしたくなかったからだ。

スマホを使用したい時はギルドに行き、別室で使用することにしていた。

俺もそのルールに従っている。


だが、問題は緊急連絡時の対応だ。

緊急連絡をしたい場合はもちろん、緊急連絡が来た場合に対応が遅くなる。

これは場合によっては大きなトラブルに繋がる可能性がある。

だが、こうして固定式の連絡手段を各所に設ければ、


…いや、待てよ。


何も各所に設けなくても、ステータス画面から送受信できるようにすればいいんじゃないか。


受信があった場合に、画面がポップアップするようにできれば、より確実だ。


よし。今度社長に提案してみよう。


このジョーク紛いの画面から発想したことにモヤモヤはするが、結果オーライと前向きにとらえよう。


そう自分を納得させると急に疲れがドッと押し寄せてきた。

シャワーを浴びたいが、その気力もない。

とりあえずひと眠りしよう。


「フェン、俺は疲れたからひと眠りするよ。

お前も一緒に寝るか?」


「我は疲れておらんからな。

そばで警戒しておこう。」


「そうか。じゃあ一旦おやすみ。」


数時間経っただろうか。

俺は目を覚ました。

もう夕方のようだ。

身体はまだ痛いが、かなり回復できた。


「フェン?」


と横を見ると、またヘソ天で寝ている。


「やっぱりな。」と苦笑し、


「フェン、起きろよ。」


と声を掛けると、クルンと回転して立ち上がるなり、


「どうした!何かあったか!」


「いや、何もないよ。」


「まあ、そうであろう。我の目を逃れるなど不可能だからな。」


はいはい。

ま、よだれ垂らしてないだけマシか。


「俺、朝食取ってから何も食べてないんで腹減ったんだ。下でミラさんに何か作ってもらうよ。」


「我も食うぞ。」

だろうね。


階下に降り、ミラさんに


「まだ夕食には早いけど、お腹すいちゃったんで、何か食べられないかな。」


「作り置きでもいいならあるよ。」


「うん、それで十分。」


肉煮込みをパンに挟んだものだが、むしろこれぐらいでいい。

フェンはあっという間に平らげ、


「そういえば我も小屋を作ってもらったぞ。」

と言う。


「小屋?」


「ああ、お主がおらぬ間、あの部屋にいる訳にもいくまい。

さすがの我も鍵はかけられぬからな。」


「その小屋、どこにあるの?」


「ついてまいれ。」


フェンに連れられ宿屋の裏へ。

するとそこには立派なログハウスが。


「もしかしてこれ?」


「ああ、我の小屋だ。」


「これを小屋呼ばわりするやつがいたらお目にかかりたいわ!」


「ここにおるではないか。」


お前、もう少し常識身につけろ。


入り口に行くとスイングドアになっていて、フェンの出入りを考えた作りになっている。


「これ、出入りには便利だけど、不用心じゃないか?」


「フフ。この入り口にはシールドが張ってあっての。

我とお主、ミラとネラ、そしてギルドの連中しか入れないようになっておる。」


なんで自分がやったような顔するんだよ。


中に入ってみると、飾り気こそないものの、かなりしっかりした作りで、奥にはフェンの寝床が気持ちよさそうなマットとクッションで作られていた。

うまく隠されているが、冷暖房完備のようだ。


「水と食い物はミラとネラが毎日持ってきてくれるのだ。」


「お前、至れり尽くせりじゃないか。」


「寝心地はお主の部屋のほうがいいがな。」


そりゃあ、あの寝姿みればわかるよ。


「実は水はそこの蛇口から出るのだ。」


と蛇口に近づいて横にあるボタンを前足で踏むと水が流れ出た。


「だが、せっかくミラとネラが持ってきてくれるのでな。内緒にしておる。」


「お前、結構気遣いできるんだな。」


「我は神獣であるぞ。」


ミラもネラも神獣様として扱っているということもあるのだろう。

神獣の住処ということで、周りの住民も近付かないに違いない。


俺にしてみれば、ただのデカい犬としか思えないんだけどな。


宿屋に戻るとミラさんが、


「最近、近くに温泉ができてさ。カイさんも後でいってごらんよ。」


「温泉?」


「なんでもギルドの人たちがたまたま掘り当てたみたいだよ。」


温泉がたまたま掘り当てられる訳ないだろ!

あいつら、また何かやりやがったな。

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