第19話。敬老の日スペシャル!曾おじいちゃんのとけいの里帰り。
第19話。敬老の日スペシャル! 曾おじいちゃんの時計の里帰り
9月の三連休、拓海は時次郎を連れて、田舎にある祖父母の家へと里帰りをしていた。
「敬老の日」のお祝いに、祖父の形見であるあの大きな古時計の近況を報告するためだ。もちろん、時次郎はその時計から出てきた「中身」なのだが、祖母には「大学の、やたら老け顔の友人です」と紹介してある。
「ほう、拓海の友達の時さんかね。ゆっくりしていってな」
優しそうな祖母が、縁側で温かいお茶と、手作りの『おはぎ』を出してくれた。
時次郎は、祖父母の家の古い柱時計や、大正時代の調度品を懐かしそうに見つめていた。
「……うん、この匂いだ。拓蔵の家も、いつもこういうお茶とお線香のいい匂いがしていたよ」
「時さん、曾おじいちゃんのこと、本当に好きなんだな」拓海が小声で言うと、時次郎は少し寂しそうに微笑んだ。
拓海が小声で言うと、時次郎は少し寂しそうに微笑んだ。
「当たり前さ。時間の隙間で迷子になっていた僕に、『お前は俺の友達だ』って言って、毎日ご飯を食べさせてくれた最初の人間だからね。だから僕は、拓蔵の血を引く君が立ち止まった時、絶対に助けようって決めてたんだ」
その時、祖母が
「そうだ、拓海。物置に、曾おじいさんの古い写真が残っていたよ」
と、一枚のセピア色の写真を持ってきてくれた。
そこには、大正時代の時計店を背景に、気難しそうな顔をした若き日の拓蔵が写っていた。
そしてその背後のガラス窓に——シルクハットをかぶってポテチ(らしきもの)を食べている時次郎の姿がバッチリ写り込んでいた。
「うわっ!? 時さん、お前大正時代から心霊写真みたいなことしてんじゃねえよ!」
「あ、これ僕が拓蔵の弁当を盗み食いした時のやつだ!」
二人が騒いでいると、時次郎の胸の奥で、またしてもあの音が響いた。
ギュルルルルルッ!!――ピシィィィン。
世界が静止し、縁側のお茶の湯気が芸術的な形のまま空中で固まった。
「あ、おはぎの匂いでお腹のネジが……。でも拓海、今回は大丈夫。目の前に……」
時次郎は、お皿に盛られたおはぎを自分で手を伸ばして掴もうとした。
しかし、幼児退行(第6話)のトラウマか、あるいは里帰りのノスタルジーのせいか、彼の指先が急に子供のようにカタカタと震え出した。
「どうした、時さん?」
「……なんだかさ、ここに来たら、拓蔵が死んじゃった日のことを思い出して、急に胸がいっぱいになっちゃって。……僕、また一人ぼっちになっちゃうのかな、なんて」
100年の孤独を背負う時の調律師。
その大きな肩が、少しだけ小さく見えた。
拓海はため息をつくと、お皿から大きなおはぎを一つ掴み、時次郎の口へと優しく押し込んだ。
「バカ言え。曾おじいちゃんは死んだけど、俺がいるだろ。それに、アイリスもサクラさんもいる。お前の時間は、もう一人ぼっちじゃないんだよ」
あんことモチ米の優しい甘さが、時次郎の喉をとおって胃へと落ちていく。
もぐもぐ、ごくん。
ピキィィン!
「……うん、甘くて美味しいや。拓海、ありがとう」
時次郎は涙を拭うと、力強く指を鳴らした。
カチ、カチ、カチ!
湯気が再びゆらゆらと立ち上り、世界が動き出す。
「あら、おはぎ、もう一個食べてくれたのかい? 嬉しいねぇ」
と微笑む祖母。
「はい! 最高の味です、おばあちゃん!」
時次郎は満面の笑みで、お茶をズズッとすすった。
100年の時を超えて、家族の絆はしっかりと今も動き続けている。
拓海は、隣で笑うおじさんの姿を見ながら、少しだけ胸が熱くなるのだった。




