第17話。夏祭りの夜景と、夜空に咲くアナログ花火
第17話。夏祭りの夜景と、夜空に咲くアナログ花火
プールの一件から数日後。
街は「夏祭り」の熱気に包まれていた。
神社へと続く階段を、浴衣姿のサクラと並んで歩く拓海。
時次郎も、なぜかお祭り男のハッピを着て「ワッショイ!」とテンションMAXで露店を冷やかしている。
「綺麗だね、拓海くん」
境内から見下ろす街の夜景は、まるでおもちゃ箱をひっくり返したように輝いていた。
だが、夜空に「ドーン」と第一発目の花火が打ち上がった、その瞬間。
街のすべての明かりが一斉に消え、完全なる暗黒が訪れた。
『マスター。街の全電力をハッキングしました。これでお前たちに、逃げ場はありません』
境内の巨大なLED看板に、ジークの冷徹な顔が映し出される。ジークは街の電力網と合体し、巨大な「デジタル怪獣」のようなエネルギー体となって、お祭り会場へ迫ってきたのだ。
「アイリス! ジークを止められないか!?」
「不可能です、マスター。彼のデータ容量は
今の私の100倍。電力を遮断しない限り……」
「電力がなんだってんだい!」
時次郎がハッピの袖をまくり上げた。
「電気なんかに、人間の夏の思い出を邪魔されてたまるか! 拓海、サクラちゃん、花火、見たいよね?」
時次郎の目が、かつてないほど真剣に輝く。
「時さん……」
「よし、いくぞ! ハッ!!」
――ピシィィィン。
世界が、今日一番の静寂に包まれた。
夜空に弾けかけた大輪の花火が、火花の形のまま空中で完全静止している。
「アイリス、僕の全エネルギーを、この『止まった花火の回路』に同期させてくれ! 街の電気を、アナログの光で塗り替える!」
「……了解しました、おじさん。私の最大出力で、あなたのネジをバックアップします!」
アイリスの青い光が時次郎を包む。
だが、街全体の時間を止めた代償は凄まじかった。
ギュルルルルルルルルルルルウウウウウッ!!!
地球の底から響くような腹の虫の音とともに、時次郎の衣服がサラサラと砂のように消え始める。
完全なる消滅の危機だ。
「時さん! 飯だ、今度は何を食べれば……って、お祭りだからマヨネーズなんて!」
拓海がパニックになる中、サクラが一歩前に出た。
「拓海くん、これ使って!」
サクラが差し出したのは、露店で買ったばかりの『特大あんず飴』と『焼き鳥(タレ大盛り)』、そして『大盛り焼きそば』だった。
「時さん、全部食べて!!」
サクラが、ソフトボール部仕込みの超高速三連投を放った。
シュッ、シュッ、シュッ!時間が止まっているはずの空間を、サクラの想いが乗った食べ物たちが突き進み、時次郎の口の中へ次々と吸い込まれていく!もぐもぐ、ごくん!!
「うおおおおお! 炭水化物、糖分、塩分、フルチャージ完了!!」
完全復活した時次郎が、両手を夜空へ掲げ、豪快に指を鳴らした。
カチ、カチ、カチ!
世界が動き出すと同時に、止まっていた花火が一斉に爆発——いや、時次郎のパワーで『デジタルデータを焼き尽くすアナログの光』へと変化した。
ドーーーーン!!!夜空に咲いたのは、街の夜景を何倍も美しく照らす、見たこともないほど巨大な黄金色のしだれ柳。
その圧倒的な光の波動が、電力網に潜んでいたジークのハッキングデータを完全に消滅させた。
「……これが、人間の、お祭りのエネルギー……。計算、終了……」
ジークは光の中に溶けるように、今度こそ完全にデジタル空間の彼方へと退散していった。
パッと街の明かりが戻り、お祭り会場に歓声が沸き起こる。
「すごーい! 綺麗!」
サクラが目を輝かせて夜空を見上げる。拓海はその横顔を見つめながら、そっと時次郎と拳を合わせた。
「やったな、時さん」
「へへん、僕のネジは、みんなの笑顔で動くのさ。……あ、でも、またお腹空いちゃった。今度はたこ焼きがいいな」
「自分で買え!!」
ジークとの激闘を乗り越え、最高の夏の夜は、笑いとともに更けていくのだった。
(夏の大長編・完。物語は実りの秋へ——)




