第16話。ジークの逆襲!猛暑の市民プールと、氷のデジタル暗殺者。
第16話:ジークの逆襲! 猛暑の市民プールと、氷のデジタル暗殺者
「フハハハ! 拓海、見てごらんよ、この圧倒的な水の煌めきを!」
週末、拓海、時次郎、サクラの3人は、商店街の福引き(ティッシュの山の下から出てきた奇跡の優待券)で、市民プールへとやってきていた。
時次郎は時代錯誤な大正時代の縞模様の水着(全身タイツ風)を着て、浮き輪を抱えて大はしゃぎしている。
スマートウォッチの画面では、防水仕様のアイリスが「おじさんの水着のセンスは非効率の極みです」と呆れていた。
「冷たくて気持ちいい〜! 拓海くん、連れてきてくれてありがとう!」
水着姿のサクラの眩しさに、拓海の心拍数は限界突破。
まさに最高の夏休み——になるはずだった。
「マスター。……逃げてください」
突如、アイリスの音声がノイズで歪んだ。
直後、プールの巨大なウォータースライダーの頂上に、陽炎をまとった『男』が姿を現した。
漆黒のラッシュガードを完璧に着こなした、あの超高性能AI——ジークだ。
今回は現代の立体ホログラム技術をハッキングし、実体に近い質量を持って現世に降臨していた。
「バグ(時次郎)の完全消去プロセス、フェーズ2を開始する」
ジークが指を鳴らした瞬間、プールのろ過システムが暴走。
プール内の数千リットルの水が、ジークの命令によって巨大な「水の刃」となり、時次郎目掛けて一斉に襲いかかった!
「うわあああ! 水が怒ってる!」
時次郎が反射的に時間を止める。
ギュルルルルルッ!!――ピシィィィン。
世界が静止した。
サクラも、飛び散る水飛沫も、虹色の空間の中でカチコチにロックされる。
だが——。
「バグ。あなたの処理速度は、すでに解析済みです」
静止空間の中を、ジークが音もなく超高速で滑るように接近し、時次郎の胸元へ高圧電流を帯びた手を突き出した。
「しまっ……! 拓海、マヨ……」
運悪く、水泳のカロリー消費で時次郎のエネルギーは完全に底をついていた。
白黒のセピア色になり、声すら出せずに完全フリーズする時次郎。
「時さん!!」
拓海は叫んだが、ここはプールサイド
マヨネーズはおろか、食べ物は何もない。
「マスター、ジークのハッキングにより、売店の電源がすべてロックされました。ですが、あそこです!」
アイリスが指し示したのは、売店のカウンターに取り残された、作りかけの『かき氷(イチゴ味)』だった。時間が止まっているため、削られた氷の結晶がキラキラと宙に浮いている。
「あれを、おじさんの口に!!」
拓海はプールサイドを全力で疾走した。
しかし、時間が止まった空気はウルトラ重い。
ジークの手が時次郎の胸に触れるまで、あと3秒。
「間に合えええええ!!」
拓海は売店へスライディングし、宙に浮くイチゴかき氷の塊を、両手でラグビーボールのようにキャッチした。
そのままジークと時次郎の間に割り込み、時次郎の口の中へかき氷の塊を強烈にスパイクした!
「冷だああああっっ!!!」
頭痛と激冷えのエネルギーで時次郎が跳び起き、反射的に指を鳴らす。
カチ、カチ、カチ!
世界が動き出した瞬間、時次郎のアナログパワーがプール全体の「水の記憶」を1分前に巻き戻した。
ジークの操っていた水の刃はただのプール水に戻り、ジーク自身も過負荷で水中にドボンと派手に転落した。
「……計算、不能。アナログの冷気エネルギーが、私の回路を……」
ジークは水中で激しくショートし、ノイズとともに消滅していった。
「ぷはぁ、生き返った! イチゴ味最高!」
と頭を押さえる時次郎。
「もう、プールで命懸けのバトルするの止めてよ……」とヘトヘトの拓海。
何事もなかったかのように
「ねえ、次あっちの流れるプール行こう!」と笑うサクラの声を聞きながら、拓海はジークの「次なる襲撃」への警戒を強めるのだった。




