第15話。大ピンチ!実家の最強母ちゃん、突撃の怪
第15話:大ピンチ! 実家の最強母ちゃん、突撃の怪
「拓海! アンタちゃんと自炊してんの!?」
ある土曜日の朝、予告もなしに拓海の部屋のドアを爆破せんばかりの勢いで開けたのは、実家の最強の母・よしこ(52歳)だった。
商店街の福引きの景品を持ってくるようなレベルではない。彼女は「仕送りの米」と「大量のタッパー(惣菜入り)」を両手に抱え、台風のようにリビングへ踏み込んできた。
「うわっ、母ちゃん!? なんで急に……!」
焦る拓海の視線の先には、ソファーでパンツ一丁になり、ポテチの粉をまき散らしながら昼寝をしている時次郎の姿があった。
「あら? 拓海、アンタ友達が泊まって……って、随分と年上の、むさ苦しいおじさんじゃないの!」
よしこの鋭い目が時次郎を捉える。
「ひゃぁっ!? 誰だいこの大声のマダムは!」
飛び起きた時次郎。拓海は冷や汗を流しながら、
「こ、この人は俺の……大学の、コスプレサークルの大先輩で!」
と滅茶苦茶な言い訳をする。
だが、よしこはそんな言い訳を無視し、部屋の惨状(散らかったポテチの袋、溜まった洗濯物)を見て、額に青筋を立てた。
「アンタたち! 若いくせにこんな汚い部屋でダラダラして! ほら、今すぐ片付けなさい! あと、そこのおじさんもステテコ姿でうろつかない!」
「ひえぇ、拓海の母ちゃん、大正時代の拓蔵より怖いよ!」圧倒される時次郎。
だが、よしこがタッパーを開け、
「ほら、お腹空いてるんでしょ。肉じゃが作ってきたから食べなさい」と言った瞬間、
部屋中に醤油と砂糖のたまらない甘い匂いが広がった。
その匂いに、時次郎の胃袋のネジが完全に弾け飛んだ。
ギュルルルルルルルウウウウウッ!!!――ピシィィィン。
「あ」世界が止まった。
よしこは肉じゃがを小皿に盛り付けようとした、鬼の形相のままフリーズしている。
「おい時さん! 母ちゃんの前で止めるなよ! バレたらどうするんだ!」
「だって……この肉じゃが、拓蔵の奥さん(拓海の曾祖母)が作ってくれた味と、全く同じ匂いがするんだもん……。あ、ダメ、カチコチに……」
時次郎の目から涙がこぼれ、そのまま凍りつくように静止空間にロックされてしまった。
「マスター、お母様の肉じゃがの温度が低下し始めています。完全に冷める前に、おじさんに投与してください」とアイリス。
「わかった!」
拓海はよしこの手からそっと小皿を奪い取り、時間が止まって硬くなっている肉じゃがのジャガイモを箸で掴んだ。
それを時次郎の口へ押し込む。
もぐ、もぐ、ごくん。
「う、美味い……! 100年経っても、お母ちゃんの味は受け継がれてるんだぇ……!」
大号泣しながら時次郎が指を鳴らす。
カチ、カチ、カチ!
世界が動き出した瞬間、よしこの目の前の小皿から、肉じゃがが綺麗に消え去っていた。
「あら? 私、まだ盛り付けてないのに、なんでお皿が空っぽなのかしら……?」
不思議そうに首を傾げるよしこに、時次郎は満面の笑みで言った。
「お母さん! あなたの肉じゃがは世界一です! お礼に僕が、この部屋を0.1秒でピカピカにしてみせましょう!」
「あら、口の美味いおじさんねぇ。じゃあ、ササッと掃除しちゃって!」
すっかり意気投合するよしこと時次郎。
結局、その日は母ちゃんのマシンガントークと時次郎のやらかしで、部屋は一日中笑い声が絶えないのだった。(第15話・完)




