第14話。時次郎、初めての歯医者さん。恐怖で時を止めるな!
第14話:時次郎、初めての歯医者さん。恐怖で世界を止めるな!
「嫌だ! 僕は絶対に行かないぞ! 歯医者なんて、大正時代にノミと金槌で治療されて以来、トラウマなんだ!」
リビングのソファーの脚にしがみつき、みっともなく大泣きしているのは時次郎だ。
数日前から「歯が痛い……」とポテチも食べられずにうめいていたため、拓海が無理やり近所のデンタルクリニックへ連れて行こうとしていた。
「今は令和だぞ! 痛くないから早く行くぞ! ほら、サクラさんも呆れてる!」
付き添いで来てくれたサクラが
「時さん、大丈夫だよ。今の歯医者さんはイチゴの味の麻酔もあるんだから!」
と優しくなだめる。
なんとか引きずり回して診察台に寝かせたものの、時次郎は恐怖で全身をガタガタと震わせていた。
優しそうな歯医者さんが
「はーい、時次郎さん、お口を大きく開けてくださいね〜」
と言い、あの恐怖の器具——
キュイィィィン……
と高い音を立てるドリルを近づけた。
その音を聞いた瞬間、時次郎の脳細胞が恐怖でパニックを起こした。
「ヒェェェェエエエ!!!」
激しい恐怖のストレスにより、体内のカロリーが一瞬で全消費される!
ギュルルルルルッ!!!――ピシィィィン。
最悪の空間で世界が止まった。
歯医者さんはドリルを持ったままフリーズ。
時次郎の口は「あ」の形で大きく開いたままだが、器具が数センチ手前でピタッと静止している。
「おい時さん! 先生をフリーズさせるな! 早く解除しろ!」
診察室に同行していた拓海が叫ぶ。
「む、無理だよ拓海……。口を開けっ放しだから、喋ることも……あ、ヤバ、カチコチに……」
時次郎の顎が「あ」の形で完全にロックされてしまった。このままでは、口を閉じることも食べ物を咀嚼することもできない。
「マスター、おじさんの口腔内が固定されているため、固形物の投与は不可能です。喉の奥に直接流し込める、超高密度のリキッドエネルギーが必要です!」
とスマートウォッチからアイリス。
「そんなもの、歯医者さんにあるわけ……あ!」
拓海は診察台の横にある「うがい用のコップ」に目をつけた。
ピンク色の液体が入っている。
「先生、ちょっと借ります!」
拓海はコップをひっつかみ、時次郎の大きく開いた口の奥へと、そのピンクの液体をイッキに流し込んだ。
「ごくん……ブッハァァァ!! これ、ただの『フッ素配合のイチゴ味のうがい薬』じゃねえか!!」
「背に腹は代えられないんだよ! ほら、動け!」
うがい薬の爽快感(?)で一時的に脳が覚醒した時次郎が、慌てて指を鳴らす。
カチ、カチ、カチ!
世界が動き出した瞬間、時次郎は「ハッ!」と時間を1分だけ巻き戻した。
「あれ? 時次郎さん、お口を開けて……おや、虫歯が消えてる?」
歯医者さんが不思議そうに首を傾げる。
なんと、時次郎が時間を巻き戻すついでに、自分の歯の時間を「虫歯になる前」まで巻き戻してしまったのだ。
「へへん、時の調律師にかかれば虫歯なんて一瞬さ!」
治療費もかからず、すっかりドヤ顔の時次郎。
「おい、その技があるなら、最初から歯医者に来る前にやれよ!!」
拓海の怒号が、白い診察室に響き渡るのだった。




