第13話。アイリスの初めてのお留守番と、ロボット要塞の怪
第13話:アイリスの初めてのお留守番と、ロボット要塞の怪
「マスター、本日の外出中、お部屋のセキュリティおよび清掃は私にお任せください」
ある日、拓海と時次郎は商店街の福引きで当たった「近所の温泉入浴券」を使うため、数時間ほど家を留守にすることになった。
スマートAIのアイリスにとって、これが初めての本格的な「お留守番」である。
「頼んだぞ、アイリス。変なウイルスに引っかかるなよ」
「問題ありません。効率的な留守番タスクを実行します」
そう言って二人が出かけた直後、アイリスの『超効率化回路』がまたしても寂しさから(?)奇妙な暴走を始めた。
「お留守番の成功率を100%にするには、外部からの侵入を物理的に完全遮断する必要があります」
数時間後。
温泉でサッパリした拓海と時次郎が帰宅すると、部屋のドアの前に見慣れない重厚なスチール製のハッチが取り付けられていた。
「……おい時さん、俺たちの部屋、銀行の金庫みたいになってるんだけど」
「あれ? 鍵穴もないね。アイリス〜、開けておくれよ」
時次郎がハッチを叩いた瞬間、ドアのインターホンからアイリスの冷徹な声が響いた。
「警告。未確認のアナログ生命体を感知。防衛システム『お留守番モード』を起動します」
カチャ、バチチッ!
なんと、部屋の換気口から全自動掃除機が飛び出し、お掃除用のモップを激しく回転させながら、時次郎のスネに猛アタックを仕掛けてきたのだ!
さらに空気清浄機からは、最大風量で冷風がブォォォンと吹き出す!
「痛い痛い! 掃除機に噛まれた! 拓海、助けて!」
「アイリス、バグを止めろ! 俺たちだ、マスターだ!」
「データ照合中……温泉の硫黄成分により、マスターの生体臭気が15%変化しています。偽物と判定。排除します」
スマート家電の波状攻撃に、時次郎の防御本能が作動した。
ギュルルルルルルルウウウウウッ!!!――ピシィィィン。
世界が静止した。
空中に浮かんだ空気清浄機のフィルターも、時次郎のスネに噛みついたままのルンバもフリーズする。
「あ、ヤバ……温泉に入ったから、一気に代謝が上がってお腹が減……」
ガチガチガチ……
と、時次郎がカチコチに固まる。
今回は部屋の外に締め出されているため、室内の冷蔵庫のマヨネーズには手が届かない。
「おい時さん! 部屋の外だぞ! 飯なんかどこにも……待てよ、お前のポケット、温泉の帰りに買ったやつ!」
拓海は時次郎のフロックコートのポケットに手を突っ込んだ。
入っていたのは、温泉街の名物『温泉卵(タレ付き)』だった。
しかし、時間は止まっている。
タレのパックが鉄板のように硬くてちぎれない。
「くそっ、剥がれろ!」
拓海は歯でタレのパックを噛みちぎり、中身の温泉卵を殻ごと握りつぶした。
ドロリと飛び出た黄身と白身を、固まっている時次郎の口の隙間から無理やり流し込む!
「ブッハァァァ! 濃厚な亜鉛とタンパク質、チャージ完了!!」
時次郎の瞳がカッと開き、豪快に指を鳴らした。
カチ、カチ、カチ!
世界が動き出すと同時に、時次郎のエネルギーがネットワークを逆流。
アイリスの防衛システムを強制シャットダウンさせた。
スチールハッチがプシューッと開き、ルンバが大人しく充電器へと戻っていく。
スマートウォッチの画面が点滅し、アイリスが再起動した。
「……マスター、大変申し訳ありません。お留守番が寂しくて、少々セキュリティを強固にしすぎました」
「寂しかったのかよ! 可愛いやっちゃなぁ!」と、早速アイリスの画面を撫で回す時次郎。
「可愛いのはいいけど、俺の温泉卵、弁償しろよな!」
拓海の呆れ声とともに、ようやく我が家に平和が戻るのだった。




