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第89話「Blind yourself to North.」

 今日は、新たに召喚された勇者——つまり俺を讃えるための、大規模なパレードが帝都メランズで開催されている。

 大通りは帝国中の人間が集まったんじゃないかってくらい賑わっていて、右を見ても左を見ても、歓声を上げる群衆で埋め尽くされていた。


「勇者様ー!」 「万歳! 帝国万歳!」


 そんな声援を浴びると、小恥ずかしいような、でもやっぱり嬉しいんだよなぁ。

 でも、大丈夫か? とも思う。


 この間召喚されたばかりで、いきなり魔王軍幹部を倒しちゃったわけだけど、その情報をこんなに早く大々的に公開していいのだろうか。

 皇帝のおっさんは、俺のあっちの世界の義叔父さんによく似ている。

 義叔父さんもよく口を滑らせて後で痛い目を見る人だったから、やっぱ似てるところがあるよな、あの皇帝。


「ヒツキ様。あまり燥いでしまいますと、勇者としての威厳が損なわれます」

「ちょっとくらい許してよ。俺、まだ未成年の高校生だけど、レベル400超えの最強だしさ」

「過信は死に繋がりますよ」


 えっ。


「縁起でもないなぁ……パレードの最中に」


 俺はオープンカーのような屋根のない立派な馬車に揺られながら、道の左右にいる人々に笑顔で手を振る。

 マジで夏コミの開場ダッシュかよってくらい人が多い。

 てか、これだとテレビとかでチラチラ見る天皇陛下や皇族のパレードみたいじゃない?


 そんな高尚なものでも——。

 いや、勇者が自分を卑下したらダメだな。自信持ってこう。

 それに、おどおどしてたら、いつか魔王城で会えた時に夏音に笑われる。あいつはそういう奴だ。


「……」

「どしたの、ユー」


 ふと横を見ると、俺の隣に座っているユーが、酷く不審そうな表情で真っ直ぐ前を向いていた。


「いえ……帝国は『白馬』を所有していません」

「うん?」


 言われて前を見ると、確かに、今俺たちが乗っている馬車を引いている四頭の馬のうち、一頭だけが見事な純白の白馬だった。

 それがどうしたと言うんだろう。他国から借りてきたとか、そういうのじゃないの?


「……始末します」

「ちょっ!?」

「刺客である可能性が極めて高いです」

「いやいやいや! 今パレード中! めっちゃ人目あるし!」

「関係ありません。ヒツキ様に危険が及ぶ前に排除します」


 そう言うと、ユーは立ち上がり、躊躇うことなく魔法詠唱を始めた。

 判断力と決断力凄すぎだろ。少しは空気を読んでくれ。


空三目(エアリア)


 ユーの淡々とした声が響く。

 途端に、先頭を走っていた白馬をすっぽりと囲うようにして、半透明の立方体の結界が生成された。

 結界内にもさらに細かく結界を重ねてあるようで、外側から見れば、まるで無色透明のルービックキューブの中に馬が閉じ込められているようになっている。

 いきなり先頭の馬が空中に固定されたことで馬車は急停止し、沿道の国民たちも「なんだ!?」「テロか!?」と騒然とし始めた。


(テレス)


 ユーが冷酷に指先を握り込む。

 瞬間、多方面から中心に向かって、結界の壁が超圧縮を始めた。

 嘶く白馬を気に留めることもなく、見えないプレス機が四方八方から迫る。ただ目の前で、ミキサーにかけられた果実のように、ドス黒くも赤みがかった液体が透明な箱の中でグチャァッと吹き出た。


 うわぁ……エッグい……。


『ほう』


 その時。

 俺の脳内に、聞き覚えのある重低音が響いた。


『残念だが、死は飽きた』

「……ノース……!」


 昨日の夢の中に出てきた、あの骸骨の死神だ。

 どこから声が? どこだ?


『後ろだ』


 声に釣られ、思わず振り向いた。

 するとそこには——今さっきユーが結界魔法で完璧に擦り潰し、血肉のジュースに変えたはずの白馬が、何故か無傷で、しかも俺の目の前でケツを向けて立っていた。


「おまっ……え?」


 バカにしてんのか?


 呆気にとられた俺の耳に、死神の嘲笑うような声が届く。


『先日の夢の礼を、くれてやろうと思ってな』


 バッッ!!

 視界が、白い蹄で埋め尽くされた。

 こいつ、俺の顔、思っきし蹴りやがった……ッ!


「ぐはぁっ!?」


 どうやら夢の件は流石のノースもお怒りだったようで、ただの嫌がらせのために使い魔の白馬を蘇らせたらしい。

 鼻血を吹き出しながら馬車の床に転がり、俺は盛大に悪態をついた。


「クソがぁぁ……ッ!!」

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