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第88話「Recall that sensation.」

 朝。

 ガタゴトという規則的な揺れと、車輪が石畳を転がる音で目が覚めた。

 ふかふかのクッション。

 見知らぬ天井。


「……ん?」


 ……はっ?

 待って、寝起きでまだ頭が回らないんだけど。

 ここどこ?

 俺が体を起こしてきょろきょろしていると、向かいの席から静かな声が降ってきた。


「お目覚めになりましたか、ヒツキ様」

「……ユー」

「はい。ヒツキ様が深い睡眠に入られたようでしたので、昨夜のうちに馬車へ運び込みました。じきに、帝都メランズに到着致します」


 え。

 じゃあ、俺がさっきの変な夢の中で骸骨とレスバしてた時に身体が揺れてたのって。


「私が宿の部屋から背負って、馬車までお運びしました」

「……!」


 はっず!!

 女の子に、自分より背の高い男子高校生がおんぶされて運ばれてたって事!?

 しかも俺、その間ノースと無駄(一部有益)な会話をしながら、ぐーすぴーと爆睡してたって事?


 やっば。勇者の威厳ゼロじゃん。


「涎、垂れてますよ」

「嘘!?」

「冗談です」


 ……冗談なら笑ってください。

 真顔でそんな事言われても、怖いだけなんで。

 俺は慌てて口元を手で覆った。


「垂れてるのは本当ですよ」

「はぁ!?」


 こいつ……無表情のままからかってきやがったな。

 俺は学生服の袖で、急いで口元を拭った。


「ユーなんか知ーらね」

「そうですか」


 ふいっと顔を逸らすと、わずかに衣擦れの音がした。

 横目で盗み見ると、ユーがほんの少しだけ口角を上げ、初めてフッと笑った気がした。



◇◆◇



 帝都メランズに帰還した俺たちは、そのまま真っ直ぐに皇城へと向かい、謁見の間へと通された。

 玉座には、俺を召喚した時のあの威圧感のある皇帝のおっさんが座り、周囲には厳めしい顔つきの貴族や騎士たちがずらりと並んでいる。


 そこでユーが、昨日のダンジョンでの出来事——魔王軍幹部"圧壊"のフランケンの討伐と、最下層でのダンジョン主『ノース』の消滅を報告した。


「何!? ダンジョンの主を討伐した、だと……?」

「まぁ……討伐っていうか、勝手に消えたっていうか」


 俺が適当に誤魔化すと、皇帝のおっさんは玉座から身を乗り出し、満面の笑みを浮かべた。


「そうかそうか! ほんの一日で七将軍を一体と、ダンジョンの主を屠ったというのか! 流石は異世界より顕現せし勇者よ!」

「ははは……どうも」


 周囲の貴族たちも「おお……」「何という力だ……」とざわめき、あからさまに俺を見る目が変わっている。

 何となく分かった。


 この皇帝、絶対身内とか自分に利益をもたらす味方にはとことん優しいけど、少しでも使えないと判断した途端、冷酷に切り捨てるタイプだ。

 あっちの世界にいた俺の義叔父(おじ)さんがまさにそういう性格だったから、直感で分かる。


「でさ。ここに居ても暇だし、早く攻めない?」

「攻める……?」

「決まってるだろ。魔王城だよ」


 謁見の間が水を打ったように静まり返る。


 ……ふふふ。こういう強者ゼリフ、一回言ってみたかったんだよなぁっ!

 あっちの世界でフデキと呼ばれてバカにされてた頃の反動かもしれない。


 でも、実際にレベル400オーバーの強者になった訳だし?

 変な事口走ってもバチは当たらない。はず。


 それに、俺が急ぐのには明確な理由があった。


 魔王城に行けば、夏音と会える。

 あの夢の中で、ノースは確かにそう言ったのだ。



 目を閉じると、鮮明に蘇ってくる。

 あの日、あの長い下り坂の光景が。俺の背中に押し付けられた温もりと、腰にきつく巻き付く華奢な腕の感触が。


 ブレーキが効かないと悟った時の、恐怖で跳ね上がる心臓の鼓動が。


 でも、やっぱり、光に包まれる直前——俺が夏音に最後になんて言ったのかは、どうしても思い出せないのだ。

 だから、必ず見つけ出して、直接確かめなきゃいけない。


 俺は右手を掲げ、スキルを発動させた。

 黒い拳銃が、手の中に現れる。


「ボッコボコにする。俺が勇者として、魔王を」


 気持ちが高ぶりすぎて、俺はそのまま銃口を真上に向け、引き金を引いてしまった。


 パンッ!


 光の弾丸が真っ直ぐに天井へと吸い込まれ——。


パリパリパリッ……ガシャァァン!!


 玉座の間の天井に吊るされていた、超絶豪華なクリスタルのシャンデリアの端っこを見事に粉砕した。


「あっ」

「……ヒツキ殿。頼むから、我が城の国宝級のシャンデリアを攻撃しないでくれるか」


 皇帝が引きつった笑顔で突っ込みを入れる。

 周囲の近衛兵たちが一斉に槍を構えかけたが、皇帝が手で制した。


「……ごめんちゃい」

「はぁ……」



 背後から、ユーの深くて冷たい、心底呆れたようなため息が空気を撫でるのが分かった。

 そして、俺が破壊したシャンデリアの金属片——あるいは跳ね返ってきた光の弾丸の欠片が、パラパラと俺の頭上に落下してきて。



「いてっ」


 締まらない声が、謁見の間に響き渡った。


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