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第87話「Laugh with Death.」

 結局、ノースとかいう骸骨はあそこで何をしたかったんだろうか。

 ま、そんな事興味無いし、どうせあの黒い旗を触って俺のスキルレベルが爆上がりしたんだから、別にいいんだけどさ。


「ヒツキ様」

「うん?」

「その……まさかダンジョン突入の初日で、最下層まで踏破されるとは思わず……」

「え?」

「直ちに帝国に帰国しましょう」


 へー。ユーさんよ。

 この勇者様を、見くびって貰っちゃあ困るぜ!

 なんせ、現代兵器の圧倒的火力で、異世界を無茶苦茶に荒らしまくってやるんだからな!


 魔王? 創世の数学者?

 知らないね! レベル400超えの今の俺なら、何ッにも怖くないっ!


「……2枚重なる……繋がるのは避けなければならないはずですが……」

「え? 何?」

「いえ、何でもございません」


 ユーの「もう手遅れかもしれません」という独り言のような小声が、何故か今日イチ怖かった。

 いくら無表情でも、これだけ一緒に行動してたら嫌でも分かる。

 彼女は今、凄く焦ってるんだって。



◇◆◇



 ダンジョンを出ると、気付けばもう夕方だった。


「今から帰国しますか? 馬車の手配などもありますし、明日の朝でも構いませんが」

「え? さっき今すぐ帰るって話じゃなかったっけ?」

「……この近くに、評判の良い宿屋があるので」

「うん? ……うん」


 ユーの提案に流されるまま、俺たちはその宿屋にやってきた。

 そして、受付を済ませたユーが戻ってきて放った一言。


「一部屋しか空いていませんでした」


 ……これ、ダメじゃない?

 ラノベとかアニメでよくある、男女が一つ屋根の下ってやつ。


 えー?  いや? 別に?

 ユーは俺の案内役というか、監視役というか、お目付け役みたいな立ち位置の人のはずだから。

 うん。気にして……ないのかな?


 でも、こっちは健全な年頃の男子なわけで。


 まあよくよく考えたら、夜はあの謎の鉄壁結界で部屋を真っ二つに隔離されるに決まってるよな。

 うん。きっとそうなんでしょう。

 そう思う事にする。


「本日はお疲れ様でした。ヒツキ様」

「うん。ユーも」

「……ヒツキ様」

「え?」


 寝る準備を終え、ベッドに腰掛けた俺に、ユーが冷たい視線を向けてきた。


「勇者が女性に手を出した、なんて事になれば……その先、帝都でどういう扱いを受けるかはお分かりですね?」

「も、もちろん」

「それでよろしいです」


 なんだろう。

 まるではなから俺の理性を信用してないみたいな……。

 あと、普通の高校生にそんな度胸無いし、こっちには心に決めた幼馴染が——。


 もういいや。疲れた。

 今日は早く寝よっ。



◇◆◇



 変な、夢を見た気がした。


 あの巨大な骸骨が、ずっとこっちを見ているような。

 で、俺はずっと、右手に持った拳銃をそいつに向けている。


 そして、時々上下が入れ替わるような、視界がグルンと回って気分が酷く悪くなるような。

 そんな、おかしな夢。


 夢? 変だな。

 あっちの世界でも、俺が夢を見ることなんて、凄く稀だったはずなのに。


 あっち?

 そうだ。夏音……。


『正義とは何だ』


 深い闇の中から、骸骨——ノースが再び現れ、俺に重々しい声で語りかけてきた。


「知るかよ」

『では、死とは何だ』

「お前みたいな奴の事を言うんだろ?」

『クク……それは少し違うな。我は死神、諦めの象徴。死は現象に過ぎない』

「難しい話は大っ嫌いだ。帰れ」

『面白い』

「こっちはちっとも面白くねえよ」


 夢の中だというのに、妙にリアルな疲労感がある。


『"2枚持ち"は大概狂って(おわ)るが、我と其方は違う。混ざり合える』

「えっキモ」

『さぁ、我と契約を——』

「無理無理無理……俺はあのボロい旗触っただけだし。ノーサンキュー。勘弁で」

『え〜いいじゃあん』

「……引くわ」


 まさかの裏声。

 威厳ある死神キャラが崩壊してるじゃねえか。


『これも我と其方が混ざり合う前触れよ』

「離れてほしい。生理的に受け付けない」

『……其方の想い人がどこにおるか、我には分かるぞ?』

「よし契約しよう。今すぐに。さあ」

『……食い気味だな』

「うるせえ。とっととやれよ!」


 夏音の居場所が分かるなら、悪魔とでも死神とでも契約してやる。

 その瞬間、ボワァァッと紫炎が俺の身体を包み込んだ。


『契約成立だ』

「で!? どこにいるんだよ!」

『其方の想い人とは、いずれ魔王城で出会えるだろう』


 ふふ。引っかかったな、骨野郎。


「はい不成立ー! これは要式契約だから、ちゃんとした紙の契約書と印鑑がないなら、ただの独り言として処理されまーす!」

『なっ……!?』


 いやー。

 文系だから、現代社会の授業で民法はちゃんと受けてて良かったー!


「んじゃ! 俺はそろそろ夢から覚めるから!」

『お、おいっ! 待て小僧ォ!』


 焦るノースの声を置き去りにして。

 こうして、俺はその不条理な夢の空間から、強引に脱出したのであった。


 やーい、まさしく愚の骨頂め。

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