第86話「Piece of cake.」
実は俺、機関銃が使える事に気付いちゃったんだよねー。
ショットガンで跳ね返された経験から、今度はもっと連射が利くものを試してみたのだ。
結果として、俺は両手にゴツいアサルトライフルやサブマシンガンを顕現させ、ダンジョン内の魔物を文字通り片っ端から蜂の巣にしていった。
「まさか、前人未到の百階層まで来てしまうとは。それも、たったの数時間で」
血液特有の鉄分の匂いが漂う中、後ろをついてきていたユーが淡々と呟いた。
彼女のメイド服には、相変わらず汚れ一つない。
「FPSやってるのと変わらないっしょ。エイム合わせてトリガー引くだけだし」
「……えふぴーえす、とは?」
「あー、こっちの言葉で言うと……なんだろ、的当てゲームみたいな?」
「なるほど。てっきり、ヒツキ様は最初からここまで行けると分かっておいでだったのかと」
「いやいや、まさか」
俺のスキルは、魔物たちからすれば理不尽と不合理そのものだっただろう。
姿を見る前に光の弾幕で制圧されるのだから。
ま、後で心のなかでお線香でもあげておこう。
この世界にそんな文化があるか知らないけど。
「……ヒツキ様。この先が、ダンジョンの主の部屋です」
ユーの足が止まった。
通路の最奥。
そこにそびえ立っていたのは、見上げるほど巨大な、黒曜石のような材質で作られた両開きの扉だった。
扉の表面には、苦悶に満ちた無数の顔が浮き彫りにされている。
「確かに、凄いオーラだ……」
先程までの軽い気分が、冷水でも浴びせられたようにスッと冷えた。
扉の隙間から、ドロリとした濃密な冷気が漏れ出している。
息を吸うだけで肺が凍りつきそうだった。
肌をビリビリと刺すようなプレッシャーが、扉越しにすら伝わってくる。
こういうのは雰囲気に呑まれないことが大事なんだよ。
適当に強気な話に合わせてたら、何事もうまく行くし……。
俺は唾を飲み込み、両手に構えた機関銃を強く握り直した。
スコープに片目を合わせ、銃口を扉に向ける。
「では、開けます」
「うん」
ユーが手を翳すと、巨大な扉が『ギギギギ……』と鼓膜を劈くような重低音を響かせながら、ゆっくりと左右に開いていった。
真っ暗な空間。
否、ただの暗闇ではない。
底なし沼のように深く、光を呑み込むような闇だ。
その闇の奥底から、二つの巨大な『青白い火の玉』が浮かび上がった。
ズズン……ッ。
地響きが鳴る。
火の玉がゆっくりと高い位置へ移動していくにつれ、闇の中にその全貌が浮かび上がった。
それは、巨大な骨だった。
「なっ……」
俺は機関銃を構えたまま、思わず声を漏らした。
見上げるほどの、圧倒的な巨体。
二十メートル……いや、三十メートルはあるんじゃないか?
ボロボロの漆黒のローブを纏った、巨大な骸骨。
剥き出しの白骨は青白い燐光を放ち、眼窩に灯る炎が俺を静かに見下ろしている。
うーん。
骨・死霊系がラスボス? っていうのは、ゲームのテンプレートではあるんだけど……実際、生で見ると凄いな。
迫力どころの話じゃない。
てか、でっか!?
「……ほう。まさか、この最奥まで来ることができる者が現れようとはな」
空気が直接震えるような、深く重い声が脳内に直接響いた。
「お前が、ダンジョンの主だな」
「いかにも。我は"諦"のノース=ポンルカリ=クレーテロンヴィッヒ」
「"諦"? ってことは、こいつも七将軍とかいう……」
「いえ。幹部ではないようです」
ユーがすかさず補足を入れる。
「クレーテロンヴィッヒという姓は存在しますが、その名を冠した魔王軍四天王は、既に討伐されました」
「まぁよい。そんな事は、我にとって至極どうでも良いのだ」
ズゥン……。
ノースと名乗った巨大骸骨が、ゆっくりと身を屈めた。
そして、建物の柱ほどもある巨大な骨の指先を、俺の胸元へとそっと突き当ててきた。
ヒッ。
正直、骨の冷たい感触が服越しに伝わってきて、めちゃくちゃ気持ち悪い。
「我は、其方に全てをくれてやろう。だから、新しい世界を見せてくれ。——『理屈』から脱却した、狂気の世界を」
ノースはそう言い残すと、俺の目の前の地面に、ボロボロの不気味な黒い旗をドスッと突き刺した。
次の瞬間。
サラサラサラ……ッ。
三十メートルもの巨体が、まるで風に吹かれた砂の城のように、一瞬にして崩れ去り、光の粒子となってパッと消滅してしまったのだ。
「……」
「……」
いや、は?
え、終わり?
こういうのって、こう、ダンジョンの主とアツいバトルを繰り広げたりとかして、俺が新しい武器を覚醒させてドカーンと倒して、なんとか宝物をゲットする展開じゃないの!?
「……もういいや。とにかく、勝てた? みたいだし」
肩透かしもいいところだ。
で、残されたこの旗は何?
「ヒツキ様、あまり不用意に触れては……」
「大丈夫だって」
ピタッ。
俺が軽い気持ちで旗の柄に触れた瞬間。
ボワァァッ!!
視界いっぱいに、ノースの巨大な骨顔が紫炎となって浮かび上がり、俺に向かって不敵に笑いかけたような気がした。
「うおっ!?」
炎がスッと消えた後、俺は再び右手に熱い違和感を感じて、パッと手のひらを開いた。
『スキル「銃司」 Lv.435』
うーん。ノースさんや。
あんた、経験値貯め込みすぎですよ。
道中であれだけ大量の魔物を倒しまくって、ようやくレベルが10上がったってとこだったのに、何で触っただけで250以上もレベルが跳ね上がるんですか。
これ、絶対バグだろ。
俺は心の中で、精々成仏してくださいと、今は無い巨大な骨に手を合わせた。




