表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/122

第111話「司令塔」

「……ん」

「どうされました? ジルさん」


 本陣の天幕で、魔王城内部の座標解析を続けていたジルが、ふいに微かな声を漏らした。

 彼の横で様子を見守っていた皇女デミトアが、ジルの眉間に寄った深い皺に気付いて顔を覗き込む。


「今、四天王アンチ*イータフォースの反応が完全に消滅した。だが、それと同時に、カノン以外の三人の生体反応の動きが止まった」

「えっ……カノンさんは……?」

「それがだな……一人で最上階に向かっている」


 ジルの言葉に、デミトアは口元を覆い、首を傾げた。


「……私の記憶違いでなければよろしいのですが、最上階では現在、魔王と勇者様が交戦中の……いや、彼一人で攻略する手はずのはずですが」

「ああ」


「……」

「……」


 二人の間に、何とも言えない沈黙が落ちる。

 デミトアが、困惑した様子で恐る恐る訊ねた。


「作戦の説明に、何か齟齬は……?」

「無かったはずだ。ポラリスの奴が、俺が説明した通り、一言一句違わず奴らに伝達しているのを確認している」

「……」

「……」


 再び沈黙。命令違反、あるいは単独行動。軍律に照らし合わせれば由々しき事態だ。


「それ、ちょっと不味くないすか?」


 後ろからひょっこりと顔を出したのは、冒険者ギルド代表代理のクウだった。

 彼は腕を組み、真剣な表情で言葉を続ける。


「なんか、ヤな予感がするんすよ。召喚前、カノン・サウクは確かに勇者の名前を知ってたっす」

「実は……俺は勇者の世界に逆召喚で飛んできたんだが、その短い時間の中で、勇者と親しげにしている少女の姿を見た。カノンにそっくりな容姿のな」


「つまり、魔族であるカノン・サウクと、異世界の勇者アズマ=ヒツキは、何らかの交友関係……あるいは因縁があるってことっすか?」

「だろうな。……まったく、強情な奴だ。おとなしく寝ていればいいものを」


 ジルは呆れたようにため息をついた。


「良かったら、己等(おいら)が見てきてもいいっすよ。こう見えても、そこそこ強いんすから」


 クウが腰の短剣をポンポンと叩いて提案する。だが、ジルは手でそれを制した。


「気持ちは受け取っておこう。だが、不要だ」

「いいんすか?」

「勇者には『一人で倒せ』とテスト課題を与えたが、まぁ……生徒の身内贔屓だ。”補助(カンニング)”は見逃してやるつもりだ」

「へぇ。……じゃあ、もし”時間切れ”になったらどうなるっす?」

「……即時回収、零点で不合格だ」


 ジルが冷淡に言い切ると、クウは肩をすくめた。


「冷たいっすねー、相変わらず」

「お前が議論会の時に言ったんだろ」

「そういえばそうだったっす。あはは!」

「あのなぁ……」


 本陣の張り詰めた空気の中で、ジルの呆れ声とクウの呑気な笑い声が少しだけ響いた。



 ◇◆◇



 ——魔王城、最上階への大階段。


 本陣でのやり取りなど知る由もなく、カノンは石造りの長い階段を一段飛ばしで駆け上がっていた。

 息は上がっていない。バグが消え、二百年分の疲労すらもリセットされたかのように、彼女の身体は羽根のように軽かった。


(アズキ……もうすぐ、会える!)


 そして、カノンが最後の階段を上り切り、重厚な扉を蹴り開けたその瞬間。


 パンッ! ダダダダッ!!


 鼓膜を劈くような、連続した激しい弾丸の発射音が、広大な玉座の間から彼女の耳に飛び込んできた。

 だが奇妙なことに、彼女が部屋に入った途端——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ