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第107話「学習」

 スズナの真横の空間へと投擲されたカノンのレイピアは、空中で見えない『何か』と衝突し、一瞬バチッと青白い光を放ったかと思えば、次の瞬間には細かな鉄屑となってバラバラに砕け散った。


「スズナ、無事!?」

「……ん」


 幸いにも、カノンの勘による迎撃が間に合い、不可視の攻撃がスズナを捉える事はなかった。

 だが、安堵する暇もない。残酷なシステムの”処理”は冷徹に続いている。


『異常検知—内容:非命中』


 ふっと、不可視の攻撃のプレッシャーが一時的に止む。だが、銀色の立方体から流れる無機質な音声は止まらない。


『原因推測—結果:偶然の防御  心理解析—結果:全員一致の継続中の敵対意思』


 ジリ……ジリリリリ……ッ。


 不気味な放電音が、部屋の空気を振動させる。鼓膜を直接なぞるような嫌な音が、四人の皮膚をチリチリと掻き立てていく。


『対処再選定—結果:粛清に移行』

『詠唱再開』

『あさきゆめみし ゑひもせす』

「カノン……っ!」


 ポラリスの叫びと同時だった。

 今度は、カノンの真横の空間が歪んだ。

 カノンは身体を捻り、(すんで)のところでその謎の攻撃を躱した。彼女の頬の横を、青白い閃光が音もなく走り抜け、背後の金属壁に深く丸い穴を穿つ。


「電気! ってことは、今のは極小で超高圧縮された雷魔法……!」


 あろうことか、カノンはその速すぎる不可視の攻撃を、自らの目で”視認”していた。  魔力が無く魔法を使えない彼女だが、二百年という途方もない時間を最前線で磨き抜いてきた戦闘センスは、ここにきてついに真価を発揮しかけていたのだ。


 カノンが攻撃を躱している間に、体勢を立て直した二人が動く。


「ふぅん……痛いじゃないか」


 ポラリスが自身の切断された右脚の断面に血液を這わせ、どす黒い血液魔法で瞬時に新たな脚を形作って修復する。

 同時に、アークもまた、地面に散らばった黄緑色のスライムを自身の肩へと集め、瞬く間に左腕を元通りに再構成させていた。


「なるほどね。あの歌の一節ごとに、超高速の魔法攻撃を放てるってことか」


 ポラリスは余裕の笑みを浮かべ、背中から巨大な黒い羽をバサリと展げた。彼の赤い瞳が細められ、今か今かと次の攻撃を本気で避ける、あるいは迎撃する気でいる。

 腕を失っても脚を失っても即座に再生できる彼らにとって、単発の攻撃は致命傷にはならない。カノンが軌道を見切れるのなら、勝機はある。


 だが、敵は感情を持たない『演算機械』だ。


『異常検知—内容:非命中』

『原因推測—結果:必然の回避  心理解析—結果:心理的余裕並びに再生能力の確認』


 立方体の表面を走る光が、青緑色から警告を示す赤色へと変色した。


『対処再選定—結果:抹殺処理に移行』


「……っ!?」


 その言葉の響きに、四人の背筋が同時に凍りつく。


『二次魔力充填—400%完了:多重詠唱開始』


 一節ごとの単発攻撃という彼らの予測と余裕を、システムは即座に学習し、塗り替えてきた。

 絶望的なエラー音が、部屋中に鳴り響く。

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