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第106話「”電殻”」

 分厚い金属の扉が開き、四人は油断なく部屋の中へと足を踏み入れた。


 だが、その先に待ち受けていたのは——部屋の中央に置かれた台座と、その上のガラスの箱に入った、ソフトボール大の「銀色の立方体」だった。

 表面には黒い線が電子回路のように複雑に走り、丁寧に綿のような緩衝材で梱包されている。


「「「え」」」

「……」


 完璧なまでの拍子抜け。その場の全員が、構えていた武器を下ろして言葉を失った。


「え……? これが、四天王? 嘘でしょ?」


 カノンが目を丸くして、立方体を指差す。


「……面白くない冗談」


 スズナもジト目で呟き、尻尾の力を抜いた。

 ポラリスが興味深そうに台座に近づき、不用意にもそのガラス容器の蓋に手をかける。


「ちょっ、ポラリス危ないって! 罠かもしれないじゃん!」

「ただの石みたいだよ? ちょっと触るだけさ」


 カノンの制止も聞かず、ポラリスがカパッとガラスの蓋を開けた、その瞬間。


『ピコン』


 電子レンジが温め終わったかのような、気の抜ける軽い音が鳴った。

 かと思うと、立方体の表面に走る黒い線が、突如として青緑色の眩い光を放ちだした。


『Artificial Non-biological Transcendent Intelligence*η-Force 起動』


 部屋に響き渡ったのは、感情の一切こもっていない、無機質な機械音声だった。

 どうやら、先ほどの音はシステムの起動音だったようだ。


「待って、今なんて!? あたし横文字分かんないっ!?」


 地球の記憶を取り戻したとはいえ、英語のリスニングまでは思い出す余裕がないカノンがパニックになる。


『起動者補足—該当:七将軍(ゲーツ)第五席 現称”吸血”・旧称”不動の星” ポラリス・アウストラリス・クロニソエスチカ』

「え——」


 ポラリスが、自身の素性を完全に言い当てられて困惑する。


『周囲探知—該当:七将軍(ゲーツ)第一席 ”要塞の暗黒騎士” カノン・サウク 七将軍(ゲーツ)第七席 ”液魔” アーク・ベルトード 他一個体:未登録』


 機械音声は止まらない。

 どんどん事が進んでいく様が、四人にはまるで理解出来なかった。ただ、この銀色の立方体が、自分たちの情報を完全に掌握していることだけは分かった。


『心理解析—結果:全員一致の警戒心  推測—結果:敵対・叛逆並びに侵入者』

『対処選定—結果:処罰』


「処罰……来る! 全員下がって!!」


 言葉の不穏な響きに、カノンが咄嗟に大声で指示を飛ばす。


『魔力充填—完了:詠唱開始』

『いろはにほへと ちりぬるを』


 バチっ。

 静電気が弾けるような、ごく小さな音が鳴った。


「はい……?」


 アークが間の抜けた声を漏らす。

 刹那にも満たない時間の中。

 何の前触れも、攻撃の軌道すら見えないまま——ただ結果として、彼女の左腕が根元からポーンと吹き飛ばされ、黄緑色のスライムの体液が地面にベチャッと散らばった。


『わかよたれそ つねならむ』


「うっ……!」


 声にならない悲鳴を上げ、ポラリスが自身の右脚を押さえてその場に倒れ込んだ。

 押さえても意味はない。その右脚は、膝から下の部分が謎の攻撃によってスパッと切り離され、部屋の遠くへ転がっていたのだから。


(何が起こってるの……? 魔法の予備動作もない。魔力の奔流も見えない……まるで怪奇現象みたいに、結果だけが押し付けられてる……!)


 カノンは戦慄した。これは次元が違う。攻撃を避けることすら不可能だ。

 だが、二百年を戦い抜いてきた彼女の身体が、思考よりも先に動いた。


 スズナの真横の空間が、わずかに歪んだように見えた。

 カノンは腰のレイピアを居合のように引き抜くと、スズナの真横の何もない空間を狙って、手放しで一直線に投げつけた。

 理由なんてない。ただ、長年の戦闘経験で培われた『野生の勘』が、そこが危ないと告げたから。


『うゐのおくやま けふこえて』


 ——。


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