第98話「最終確認」
フェルウェード帝国、皇城の大会議室。
そこには、今まさに決行されようとしている「魔王討伐作戦」の最終確認のため、各勢力の代表者が一堂に会していた。
フェルウェード帝国からは、皇帝アウレウス・メ=フェルウェードと、第三皇女デミトア・メ=フェルウェード。
イシュヴァール聖教国からは、聖騎士団団長兼ゾーティア隊隊長のケレン・ゾーティア、副団長のフレッド・クレイドル、そして副隊長のミリア=アードストール。
冒険者ギルドからは、代表代理の姉弟、アメ=フォン=ソオリアとクウ=フォン=ソオリア。
そして、Sランク冒険者『創世の数学者』ジル=アードストールと、そのパーティメンバーであるアーク・ベルトードとポラリス・アウストラリス・クロニソエスチカ。
最後に、最重要人物である異界の勇者、アズマ=ヒツキ。
これだけそうそうたる顔ぶれが揃う厳かな会議——のはずだったが。
「相変わらず、Sランクになったからって、少し生意気すぎじゃない? 獣」
「お前こそ、少しは聖騎士の副隊長らしく落ち着いたらどうだ、ゴミリア」
会議室の端では、開始早々、ジルとミリアの姉弟による冷ややかな貶し合いが始まっていた。
「なっ……! エド、聞いた!? こいつ今、私のことガサツだって言ったわよ!」
「まあまあミリア、落ち着いて。場所が場所だから。な? ほら、深呼吸して」
剣の柄に手をかけようとする勝気なミリアを、副団長のエドが苦笑いしながら必死に宥めている。ケレン団長は我関せずといった様子で腕を組んでいた。
「……なんだよ、あの数学者。態度デカすぎだろ。ネタ枠の癖に」
その光景を不満げに見ていたのが、勇者ヒツキだった。
彼はダンジョンで魔王軍幹部を倒したという自負と、レベル400超えの万能感からか、最近少々増長気味であった。
ヒツキはジルの前に歩み出ると、挑発的に顎をしゃくった。
「おいアンタ。さっきから聞いてりゃ偉そうに。俺が魔王を倒す『勇者』なんだけど。ちょっと身の程わきまえたら?」
「……」
「プッ……ふふっ」
ジルの冷ややかな視線とヒツキの睨み合いを見て、冒険者ギルドのクウが堪えきれずに失笑を漏らした。
何が面白いのか、フェルウェード帝国のアウレウス皇帝とデミトア、そしてアメの三人も、このピリついた掛け合いをニヤニヤと面白がりながら眺めている。
「はいはい、身内の挨拶や小競り合いはその辺にしてくださいな」
パンパン、と手を叩いて場を収めたのは、アメだった。
「聖女ユミィ様が急用で欠席のため、本日は私、冒険者ギルド代表代理のアメが司会を務めさせていただきます。……では、魔王城攻略作戦の最終確認を始めます」
アメの言葉で、ようやく会議室に相応しい緊張感が戻った。席についた面々の表情が引き締まる。
「まず、突入ルートと各部隊の配置についてですが……当初の作戦から、一部変更となります」
「変更? なぜだ」
ケレンが眉をひそめて問う。
「敵の戦力状況が、想定より大幅に低下しているからです」
アメは手元の資料をテーブルの中央に広げ、ジルのほうへ視線を向けた。
「というのも……ここにいる『創世の数学者』ジル=アードストール氏の活躍によるものです。およそ半年前、彼は四天王の一角、”解析学の王”トート=クレーテロンヴィッヒの討伐に成功しました事は承知でしょう。ですが、さらにその3ヶ月後、同じく”呪飼”ギデオン・アウル=フォード氏の洗脳を解除し、彼を我々の陣営に引き戻すことにも成功しています」
会議室がどよめいた。
四天王のうち二人が、既に無力化されている。ヒツキも「本当だったのかよ?」と口を開けてジルを見直した。
「当初の作戦は、トート討伐直後で、なおかつギデオン氏が敵陣にいることを想定した防衛網を突破するものでした。しかし、彼が解放された今、魔王城の結界や魔獣の配置は大幅に弱体化しています。そのため、ジルさんを臨時司令塔として待機、勇者殿に一気に魔王の玉座へと攻め込んでもらいます。聖騎士団のゾーティア隊の方々には四天王の”霊這堂”、元幹部のお三方と、追加の戦力でスズナさんの四名は”電殻”の対処をお願いします」
アメの説明に、誰もが納得の表情で頷いた。
被害を最小限に抑え、確実な勝利を手にするための理にかなった変更だ。
「……へー、やるじゃん」
説明が終わり、各々が最終確認の資料に目を通す中、ヒツキがジルに向かってニヤリと笑った。
「四天王倒したのは素直にすげーと思うけどさ。でも、最後に魔王をぶっ倒して美味しいところを全部持っていくのは、俺だからな」
ヒツキは、ジルという「理系の規格外」に対する劣等感を隠しきれず、敢えて強気な態度で突っかかった。
ジルは手元の資料から顔を上げ、感情の読めない目でヒツキをじっと見つめ返した。
「……まぁいい」
ジルは静かに立ち上がり、勇者を見下ろすようにして、試すような挑発の言葉を投げかけた。
「勇者。お前へのテスト課題だ。他の者の手は借りず、一人で魔王を攻略してみろ」
「はぁ?」
無茶振りに近い提案に、ヒツキは一瞬呆気にとられたが、すぐに勝ち気な笑みを浮かべた。
「言われなくてもそのつもりだって〜の!」
ヒツキは右手を掲げ、スキル『銃司』の黒拳銃を顕現させると、その銃口を天井に向けて自慢げに構えてみせた。
「この俺が、文系として魔王をぶっ飛ばしてやる」




