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第97話「お祝い」

 翌日。


 勇者召喚という大仕事を終えた一行が戻るまでの間、グロリア王国の宿に残っていたポラリスは、ふと壁に掛けられた電子カレンダーを見て首を傾げた。


「あれ? アーク、今日って何日だっけ?」

「今日ですか? 7月の22日ですね。カレンダーに書いてある通りですが」


 本を読んでいたアークが、不思議そうに顔を上げる。


「あ」

「どうかしました?」

「いやー。誕生日は大事だよねって話」

「……ええ、そうですね?」


 ポラリスはニヤリと笑みを浮かべ、ポンと手を叩いた。


「……よし。アーク、ちょっと何か買いに行こうか」

「ですね。そういうことなら、お手伝いしますよ」


 意図を察したアークが、パタンと本を閉じて立ち上がる。

 ポラリスはアークを連れ、足早に部屋を後にした。バタン、と扉が閉まる音が響く。


「……いってらっしゃい」


 スズナの小さな呟きだけが、誰もいなくなった部屋にポツンと寂しく残された。

 美味しいものを買いに行くのかもしれないのに、置いていかれた亜人の少女は、ふすんと鼻を鳴らして尻尾を力なく床に下ろした。



 ◇◆◇



 数時間後。


 すっかり日が落ちた頃、勇者召喚の事後処理とカノンの検査を終えたジルとカノンが、宿の部屋へと戻ってきた。

 今回は、皇女であるデミトアと、地元グロリアのエマも一緒だ。


「あっ、先生。おかえりなさい」

「ん」


 部屋の扉を開けると、そこにはクラッカーを持ったアークとポラリス、そして何故か口の周りに生クリームをつけたスズナが待ち構えていた。

 パーン! と小気味良い音が鳴り、色とりどりの紙吹雪がジルの頭に降り注ぐ。


「せんせ、はいこれ」

「どうした急に」


 ポラリスから綺麗にラッピングされた小箱を押し付けられ、ジルは眉をひそめた。


「え? 今日、誕生日でしょ?」

「……何で知ってんだよ」

「血が教えてくれたんだよ。君の血液の波長が、今日この日を起点にしている、ってね」

「何言ってんだ、気味が悪いな」


 吸血鬼特有の冗談なのか本気なのか分からない理屈に、ジルは深いため息をつく。  しかし、ポラリスの視線はジルから隣へと移った。


「あと……カノン。何でそんなジルの後ろに隠れてるのさ? 君も今日、誕生日だろう?」

「えっ……?」


 不意に話を振られ、カノンは目を丸くした。


「ジルと同じ日だなんて、奇遇だよね。しかも、今日でちょうど二百歳だね」

「ええっ!? ジルセンとカノンちゃん、同じ誕生日なん!?」


 エマが驚きの声を上げ、デミトアも目を瞬かせている。

 カノン自身も、すっかり忘れていた。バグが消えて頭がクリアになったことで、自分がこの世界で「カノン・サウク」として生まれた日が7月22日だったことを、今ようやく思い出したのだ。


「あ、あたし……そういえば、そうかも……」

「二百歳というのには目を瞑るとして、おめでたいことには変わりありませんね」


 デミトアがフッと微笑む。


「この後、クウさんとアメさんもこっちに来るそうですよ」

「そういえば、せっかくなら一緒にお祝いしたいって通信で言ってたね。空中都市の飛行燃料の補充も出来るから丁度いいーって」


 エマがテーブルの上に、買ってきたオードブルやジュースを次々と並べていく。スズナが目を輝かせてその後ろをついて回っている。


「ほら、カノン。主役がそんな隅っこに居てはいけませんよ」

「え、でも……あたしは……」


 アークが優しく背中を押す。

 二百年。たった一人で血を浴び続けてきた魔族の誕生日は、今まで誰にも祝われることのない、ただ過ぎ去るだけの日付だった。

 けれど今は違う。


「ほら、ジルセンもカノンちゃんも、こっち座って!」


 エマに手を引かれ、カノンはテーブルの中央へと促された。

 隣には、無愛想ながらもプレゼントの箱を手に持ったジルが座っている。


「……二百歳、おめでとう。カノン」


 ジルがぼそりと呟いたその言葉に、カノンは少しだけ泣きそうになりながら、満面の笑みで頷いた。


「うんっ! ありがとう、ジル!」


 未来都市グロリアの夜景を見下ろす部屋で、賑やかで温かい、初めての誕生日パーティーが幕を開けた。


これにて、第四章の前半が完結しました!

ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます!

そして、お疲れ様でした!


これからも、当作をお願いします!


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