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第44話 指輪



 あんたから話しかけてきたくせに、なんであんたがびっくりしてんの?なんなの?


「失礼、覚えていただけているとは思わず」


 思わないのに声かけたの?そんなことある?

 もし私が覚えてなかったら、あんた、侯爵令嬢からよくてガン無視悪けりゃ警備の人呼ばれてたけど。


「……まさか。忘れるわけがございませんわ。なんと言ってもジールお兄様のご友人ですもの」


 数少ない、ね。

 あんなに気難しい、独立独歩すぎるジールと仲良くやれる人なんて、ベンジャミンくらいしかいないんじゃないかって思ってたもんね。

 実際、士官学校でだって誰とも同室になれないなんて言ってたし。

 それってこれから騎士様になるのにどうなの?とは思うけど。だって、よくわかんないけど、軍とかって協調性とかチームプレイとかが一番大事じゃない?ジールに全然似合わなすぎる言葉。

 ──って、え、クロード何?なんでそこでさっきより複雑そうな顔すんの。ジールの友達嫌なの?でも嫌って顔でもないよね?

 いや、ほんと何。


「……その、ジールよりエレナ様へ預かり物がございまして」

「え!?」


 嘘っ!マジで!?ジールから預かり物!私に?

 やっぱり卒業式なの覚えてくれてたんだ!

 びっくりしすぎて固まってたら、クロードはチラとその目を私の後ろへと滑らせた。

 まさか、ジール?

 と思って慌てて振り返れば、胡散臭い──いやいや、万人受けするようなキラキラしい笑顔を振りまく第一王子の前で、負けないくらいキラッキラな目で彼を崇める第三王子が。

 本当にお兄ちゃん好きだな。

 なーんだ。私のお兄ちゃんは来てないんじゃん。

 私のってか、エレナちゃんのだけども。

 まあちょっと期待しちゃったけどわかってたことではある。

 再びクロードへ視線を戻せば、ちょうど彼もこちらを向くところだった。

 ……待てよ?

 今、私と同じ方向見てたよね。ってことは、第三王子の動きを確認したってことだよね?

 まさかこの人、あの子が私のそばを離れるタイミングをずっと待ってたとか?

 え、もしそうだとしたら中々に気が利くし危機管理能力がカンストしてる。

 ダグラス先生に対してすら敵対心バリバリあるのに、クロードがエレナに、なんて来ようものなら絶対面倒くさいことになる。


「エレナ様、私が今からお渡しする物は確実にジールからですが、その。物が物ですので、受け取りましたらすぐさまどこかへお仕舞いください。できますか?」


 何その注意事項。

 ジール、あの人妹に一体何を渡そうとしてんの?卒業パーティーで?お祝いの品じゃないの?


「エレナ様? できますでしょうか」

「……ちょ、す、少し、少しお待ちになって」


 念押ししないで?危機管理能力がカンストしてる人に言われてるって事実も相まって、ますます怖いんだが。

 もーなぁにー?何をよこそうとしてるのあの兄はぁ。

 ロザリーが気合い入れたおかげでゴッテゴテに飾られたエレナちゃんには、隠す場所に困ることはないけれど、ええっと、何を使おうかな。

 エレナの目の色に合わせたふわふわキラキラな青いドレスに、お揃いのショート丈のレースの手袋。ダイヤをふんだんに使ったネックレスには大きなサファイアが一粒。

 それと肩から掛けられていたメチャクチャなボリュームのファーのショール。これだ。

 なにかしらの物体がどれだけの大きさかにもよるけど、これだったらどうにか隠せるでしょう。


「その、いや。うーん。このショールをそんな風に……まあ、グレイフォードのご令嬢だしなあ」


 なんでも、社交界では大流行中だけどあまりにも値が張るものだからほとんどのご令嬢が手が出せないらしい。

 女の子のおしゃれとか興味なさそうなクロードもひと目見てその価値がわかるとか、そんなものを小娘にポンと差し出す侯爵家って。

 いやまあ、いいんだけどね。エレナだし。

 それはそれとして置いておいて、ショールを両手で抱えるようにして持ってそっとクロードへ差し出した。

 さ、ここの真ん中にどーぞ置いてください。


「まあ隠せるし、な。うん。あー。大丈夫……か?」


 なによ。あんた今手ぶらなんだから、まさかそんなおっきな物持ってるわけじゃないよね?

 身につけてるスーツのポケットかなんかに入ってるんでしょ?このショールで十分隠せると思うんだけど。なんで渋る?

 嫌なよかーん……。


「……この際お聞きしますけど、あの放浪兄様は可愛い妹のあたくしに、一体どんなとんでもない物を寄越そうとしていますの?」

「とんでもないもの……。いや、まあ確かに否定はできないけど、それよりこの形状の物を俺が渡す方がまずい……」


 なにやらブツブツ呟いてますけど、ねえ、質問の答えは?

 ちら、とあたくしをうかがう黒目。

 うーん、と唸りながら右手を自身の胸ポケットに突っ込んで。

 待って待って、答えないまま出す気なの!?


「いいですか、すぐにショールで包んでくださいね」


 わーん再三の念押し!

 マジでなに〜〜?

 ほんとやだもう、マジであの兄行動が意味不明過ぎてついていけない!

 流石にショールを抱える手が緊張で強張った。

 落としたりしたらどうしよ。

 とかやってる間に、クロードの手が胸ポケットから引き抜かれ、そこから出る手前で一瞬動きが止まり、それから覚悟を決めたように一気に取り出された。

 素早くショールの上に握られた手が置かれ、なんの重みも感じないまま引かれて。


「今は見ずに隠──」


 瞬間。


 ぶわあ、と。


 レジーナ王妃が姿を消した時の比にならない光の渦が巻き上がって、小さなエレナちゃんの体と目の前に立つクロードを包み込んだ。

 目が眩む、どころじゃない。

 文字通り視界が光に潰されて、おさまった時には周囲の人間がみんな両手で顔を覆って騒いでいた。

 騒ぎ声を聞くに、どうやらみなさん、強い光に視界がシャットダウンしてしまったらしい。

 そしてなぜか無事な私とクロードがふたりで立ち尽くし。


「……」

「……」


 不自然に宙で止まるクロードの右手と、ころん、とショールの上に佇む小さな小さな指輪。

 艶々の、真っ青な、まあるい。

 …………………………えっ。


「いや……、あいつふざけんな」


 ぼそ、と心の声を代弁するように言葉を溢してくれたのは、さすがジールの唯一の友達と言うべきだった。

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