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第43話 卒業



 ジールのことは、とりあえず納得した。

 もうあそこでグダグタ言ってもどうにもならないだろうし、それよりもサイラスお兄様と喧嘩にならない状態が大事だ。

 もう決闘なんて見るのごめんだし。

 本当に、兄弟同士で殺し合いとか、この世界どうなってんの?制作者の趣味思考がだいぶ見え隠れしてる。


 さて、それよりまたさらに問題なのが、ソフィア王立魔法学院の方だ。

 五回生が終わると生徒によっては進学と一時休学とで別れることになるらしい。

 貴族の中でも将来を魔法使いとして決めてる人はそのまま進学、貴族みたいなそこまで魔法の勉強いらないし、むしろ家同士のつながりの方が大事とかいう人は休学となる。

 そうすると、そのまま辞めちゃう人と三年くらい経って復学する人とで別れるから、今度は六回生以上は新学期パーティーなるものも開かれる。

 ちなみに、五回生については一時区切りとして盛大な卒業パーティーで、これが学院最大のイベントになるらしい。


「パーティー、パーティー、パーティー! そんなにパーティーが好きなの、貴族って」


 他にやることないのか。ないんだろうな。

 新しいドレスや宝石のついたアクセサリーをたくさん買ってもらえるのはいいけど、それを着るとなると話は別だ。

 なによりあのコルセットがほんと無理。苦しすぎ。

 あんなもん着けようなんて最初に考えた人、もしかして内臓詰まってなかったのかな。


「なによりなぁ、第三王子がネックすぎる」


 いいんだけどね、可愛いからさ。でもあまりにも話を聞かないのと、普通に性格がタイプじゃないせいでどうにも扱いきれない。

 はぁー、とため息ばっかついちゃう。次から次へとまったくもう。いつまであの俺様王子様に付き合っていなくちゃならないのか。


「いやまあ、ヒロインが入学してくるまでだけどね」


 あと四年くらい?ああだけど。それはそれで問題なんだよなぁ。断罪も処刑も困ります。


「お嬢様、お目覚めでしょうか?」

「はぁい。……じゃなくて、コホン。入ってよくってよ」

「失礼いたします。おはようございますお嬢様」

「ええ、おはよう」


 朝食を運んできてくれたロザリーに、ギリギリでエレナちゃんで対応。あぶなーい。

 いやまあロザリーには素が微妙にバレてはいるけどね。用心に越したことはない。


「エレナ様、魔法学院初等部のご卒業、おめでとうございます」

「ありがとう」

 

 エレナちゃんの死を背負ったヒロインが一歩一歩近づいて来ているようで、個人的にはあんま嬉しくないけどね。


「そうだ。今朝はあたくし宛に何か来ていたりしたかしら?」


 ジールからお祝いとかなんとか届いてないかなーって、一瞬期待した。

 だけど、私が何を言いたいのか瞬時にわかったらしいロザリーの、なんとも気遣わしげな顔で全てを察した。

 あ、大丈夫です。ちょっと聞いてみただけなので。

 「お嬢様……」ってちょっと哀れんだ感じの声出すのやめてくれ。なんかだんだん恥ずかしくなってくるでしょう。


「今朝は目一杯可愛くしてね。なんと言っても、卒業パーティーなのだから」


 別にそんな特別感は持ってないけど、とりあえず話変えるのに言ってみた。すると優秀な侍女はすぐに表情を取り繕って綺麗にお辞儀をした。


「お任せください。このロザリー、どのご令嬢をも圧倒するよう全力でお支度させていただきます」


 いや、そこまではいいかな……。




#




 そしてそれは、第三王子がエレナちゃんを見つけて満面の笑みで近寄ってきた際に唐突に記憶に蘇った。


「うっっっわ!」

「エレナ!?」


 思い出した!

 十回生の入学パーティーでヒロインが攻略対象に初エンカウントすんだったんじゃん!

 何呑気にパーティーやだとか言ってたの私!それ以前の問題だわ。

 そうそう、そうだ。

 そのパーティーで右も左もわからないヒロインが、モブ令嬢にぶつかって転んでしまったところを、最初に選んだ攻略対象が手を差し伸べてくれる──そんなプロローグだった。

 そして、それを遠くで見ていた悪役令嬢による、イジメ乱舞が幕を開け、そして最後は断罪されてジ・エンド……。

 刻一刻とその時は近づいて来てたことにどうして最初に思い至らなかったんだろう……!


「エ、エレナ? どうしたのだ? どこか、その、具合でも……?」


 ヒロインはこの第三王子を選んでて、パーティーではこれが手を差し伸べるのか。

 ……ん?

 あれ、でも待てよ?

 そもそもの話、私──もといエレナちゃんがそれに嫉妬していじめたりしなければいい話で、そんでもって私は別にどうぞどうぞの心境。

 あれ?これはもしかして、ヒロインとエンカウントしちゃっても問題なさげでは?


「エレナ……?」

「は……! あ、えと、フレデリク様、ごきげんよう!」


 何度声かけられてた!?今気づいた!

 いや、フレデリク王子の存在にはもちろん気づいてたけど、思考がとんでもない方向へフルスロットルしちゃったせいで完全に忘れてた!

 あまりに慌てたせいで、エレナちゃんらしからぬ元気いっぱいな挨拶しちゃった……。恥ずかしい。

 第三王子も目をまん丸にして「あ、ああ……」とか曖昧な返事になってる。

 うーん、見れば見るほどお顔の好みはヒロインとばっちり一緒だから、なんかうまくどうにかして仲良しとかになれないかなぁ〜。それでまあるくおさめて心穏やかに過ごさせてもらいたいなぁ〜。


「ごほん。あー、それより、それよりだな!」


 無理矢理話を逸らしたな?

 いやまあ、いいんだけどね。挙動不審だったのは私の方だからね。


「エレナよ、今日は可憐な装いだな。そのドレス、色といい形といいよく似合っているな!」


 おわ……。さらっとそういうこと言えちゃうの、すごいな。

 大好きな顔でそんなこと言われちゃったら、顔が真っ赤になるのが止められない。


「やっと卒業だ。これでようやく、エレナも社交界デビューが迎えられるというもの! つまりはおれがエスコートできるということだ」


 え?なんだっけその話?

 そんな話あったか?


「そうだ! これからはおれがエレナのドレスも装飾品も見繕おう! 早速明日にでも針子を呼んで新しいドレスを仕立てさせようではないか。もちろん、すべておれと揃いのものだ」


 え、えぇ〜〜!?

 なになになに、話が勝手にどんどん進んでく!誰か助けて!

 これからずっと第三王子がエスコートしてくるとして、ぜーんぶお揃いのドレス着たりすんの?いや、そんな、恥が過ぎない……?


「え、っとぉ……」


 なんて答えよう!?

 どう答えても失敗する気がしない?大丈夫!?大丈夫じゃないな??


「静粛に。これより王立魔法学校初等科の卒業パーティーを執り行う」


 カアン、と高く大きな音が鳴り響く。

 その瞬間、第三王子の視線が私から外れた。いや、助かった。時間の先延ばしなだけで助かってはないが。

 学院で一番大きな今いる講堂は天井もめちゃくちゃ高い。

 高いというか、天井が見えない。

 え、そんなことある?って感じだけど、どこまでみてもてっぺんが見えなくてどこまでも続いているような錯覚がする。

 そんな部屋で、一番目立つ段の上に立つ髭の長いお爺さん。

 誰?見たことない人出てきたな。


「学院長のお言葉である」


 深々と頭を下げるもんだから、元々地面につきそうだった髭の先がべたぁっと渦を巻いた。いいのかそれで。


「みなさん、ご卒業おめでとうございます」


 ブウン、と音がして光が集まり、忽然と姿を現したのは波打つ金髪に紫色の瞳が綺麗な超絶美人。

 いや、あれは……?

 まさか王妃レジーナでは?

 うわ、うっわあ。

 ゲームでも脇役にはもったいないとか言われ続けたレジーナ。それをリアルで見れるなんて感動……。


「これからしばし、それぞれの道を歩むでしょう。けれどもこの学院で学んだこと、得た友人、そして経験はこの先もずっとみなさんを助けることでしょう」


 しかも、ゲームじゃ聴けなかった卒業生へのお言葉なんて聞ける日が来るなんて。

 なんて言ったって、舞台の卒業式じゃお言葉どころか断罪式に様変わりだもんね!

 言ってて悲しくなってくる。ほんとどうにかして回避させてくれ。


「わたくしの話などはこの辺りにして、ロベルトにこの場を戻します。ではみなさん、今宵はどうぞ楽しんで」


 同時に、オーロラの光が王妃レジーナを包んだ──と思えば、彼女が居た所にロベルト殿下が立っていた。


「兄上のお言葉だ!」


 隣でさっきまで大人しくしてた第三王子は、その瞬間、パッと前へ行ってしまった。エスコートとか言ってたのは?別にいいんだけど。そういうところはまだ五年生らしい。

 というかそれより、王妃レジーナが消えたとき、まるで光に紛れるように分解?されてる感じで変だった。

 違うな、なんか見覚えがある。あれは……。


「……バーチャルとかいうやつ?」

「遠隔魔法ですよ、エレナ様」


 はっ!?

 えっ、あ!?びっくりした!

 突然の声に振り返った先にいたのは黒髪黒目の、あ、えと!


「クロード・クロムウェル?」


 どう?当たりでしょ!?ジールの唯一の友達の人!

 なんて、テンションばり高でいったのが悪かったのか。


「……」


 すごく微妙な顔して黙られた。

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