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帰りたくないから口実を探す

 二人して向かい合って食べる、マビルは昔に戻れたようで嬉しかった。細長い塩気のあるポテトフライ、定番のハンバーガーに、オレンジジュース、周囲の喧騒さえも、何故か胸を躍らせた。 

 しかし、トモハルは不機嫌そうに外を見ている。

 何度か声をかけようと思ったのだが、怖くて躊躇した。話題を探すが、思いつかない。愉しいのだが、息苦しい。


「……大人になったから、遠慮しなくても高い物食べさせてあげられるよ」


 ぼそ、っと呟いたトモハル。

 ……そうではない、ただマビルは。


「これが、食べたかったんだよ」


 昔二人で楽しく食べたハンバーガーを再現したかっただけだが、時の流れでそれは簡単には戻らなかった。ぎこちなく答えたマビルに、トモハルは小さく「そう」とだけ呟くと、大口を開けて簡単にハンバーガーを食べ終える。小さい口のマビルは、顔は勿論衣服も汚さないように丁寧に食べているので、まだ半分以上残っていた。肘をついて、街の雑踏を見下ろしているトモハルに追いつこうと一生懸命食べた。退屈そうだったからだ。

 二人は昼食後も特に目的なく、ふらついただけだった。マビルは何も購入していない、手ぶらで店に入ると夕飯を摂る。

 周囲はライトで照らさないと見えない暗闇で包まれる時間になった、二人は静かに車に乗り込む。


「……帰ろうか」

「そ、そだね」


 車は静かに動き出す。マビルにも解った、一直線でトモハルの地球の自宅に向かっている。

 まだ、時間的に遅いわけではない。映画を観たり、夜景を見たり。遊べることはたくさんある、何故ならばここは地球だからだ。電気が通っているので惑星クレオと違い、深夜も不便ではない。


「む、昔はさ、もっと遅くまで二人で遊んだよね」


 帰りたくなくて、まだ一緒に居たくてマビルはそう言った、トモハルから返事は無い。

 ちらりと盗み見れば、横顔が不機嫌そうだ。朝からそうだった、唇を尖らせるとついにマビルがこめかみを引き攣らせる。


「ねぇ、何怒ってるわけ」


 いい加減苛立ちが頂点に達した、マビルは単刀直入で訊いてみる。自然と強い口調で、いけないなと思いつつも温和でなどいられずに。


「……怒ってないよ」

「怒ってるじゃん、何その態度」


 急発進した車に、マビルの身体が前後に揺れる。顔を顰めて物言いたげに口を開いたが、運転が荒くなり言葉を出せなかった。その速さとエンジンを無意味にふかす音に恐怖を覚えたマビルは、小さく悲鳴を上げる。

 昔は、こんなことなかったのに。運転が上手いトモハルの隣に、安心して座っていた。

 道を逸れて、コンビニの駐車場に停まった車にようやく胸を撫で下ろす。トモハルは無言で降りると、ジュースを買いに行った。

 心臓がまだ、跳ね上がっている。 

 別人の様なトモハルに、戸惑いを隠すことが出来ない。


「……はい」


 フルーツジュースだった、昔飲んだ甘い缶ジュース。

 手渡され、喉が渇いていたので夢中で一気に飲んだマビル。飲み終わるのを見計らって、トモハルは呟いた。


「俺はミノルの家に泊まるから、これから呑みに行くんだ。彼氏に迎えに来てもらいなよ、地球に居るんだし」


 マビルの手が強張る、思わず缶を落としそうになった。意外な展開に狼狽する。


「え、そうなの? きょ、今日は会う予定じゃないし」

「とりあえず、俺の家まで送るから。彼氏が来られないなら城に戻ってもいいし」

「あ、あたしも一緒に呑むよ。まだ早いよ、疲れてないし」

「……駄目だよ」


 動き出した車は、拒否されて口を噤んだマビルを乗せてトモハルの自宅へと近づいていく。

 スカートを握り締め、マビルは何度も口を開く。必死に頭を回転させた。


「ほ、星が綺麗だから、観に行かない?」

「……ミノルが、待ってるんだ」

「少し、少しだけ! ほら、この辺りに公園あったでしょう?」


 引き攣った笑顔をトモハルに向ければ、トモハルは溜息を吐いて車の方向を変えた。ほっと胸を撫で下ろし、マビルは時間を稼いだことに安堵する。

 ついたのはマビルも知っている高台の公園だ、星が綺麗に見られる有名な場所である。夜景も評判が良い。


「でもさ、マビル。空気が淀んでいるから、クレオから見たほうが綺麗だよ」


 駐車し、降りてはしゃぐマビルを他所にトモハルは夜空を見上げると苦笑した。足を止めたマビルは、哀しそうに唇を噛む。

 違う。

 そういう問題ではない、マビルはトモハルと居たいだけだった。星が見たいは二の次だ、だがその想いは届かない。


「帰ろう」

「う……」


 腕を捕まれ無理やり車に乗せられると、マビルは再びスカートを握り締めた。エンジンがかかる、車が動く……家に、帰る。


「映画! 映画観よう! 今何がやってるのかな、あたしが好きなのあるかな!」

「だから」


 思わずトモハルの手に触れたマビルだったが、その手は払い除けられた。

 呆然と自分の手を見るマビル、舌打してトモハルはエンジンをふかす。


「帰ろう。早く帰ろう」


 公園の街灯では暗くてよく見えないが、トモハルの表情は強張っている。


「な、なんなのあんた、今日! つっまんない男!」


 マビルが怒気を露にし叫んだ途端、車が停止しする。ハンドルを強打し、シートベルトを外したトモハルは、マビルの視界から消えたように思えた。

 が。


お読み戴きありがとうございました、次、作者一番好きなシーンなのです(//▽//) 月曜日更新予約しました、時間がありましたら立ち寄ってください。

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