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答えは目の前にあるのに

 一方お金がないと奈留と遊びに行けないので、マビルはトモハルを捜した。旅行の日は迫ってきている、しかし何故か会えない。

 焦ったマビルは思い切って部屋に行ってみた、ドアが開いたので勝手に入る。

 軽く見渡すと机の上に封筒があったので、誰もいないが周囲を窺いつつ中を覗いた。一万円札が五枚……五万円が用意されている、安堵してそれを掴み踵を返した。自分のモノだ、会えなかったから渡してもらえなかったのだろうと解釈する。

 ふと見れば、壁に写真が貼ってある。マビルの写真だ。

 その隣に、マビルとアサギが二人で写っているものが貼ってあった。

 アサギよりも自分の写真が多かった事に少なからず動揺したマビルは、部屋から出ることをやめて暫しそこに佇む。写真の自分は、笑顔だった。当然だ、愉しかった日々の写真である。

 トモハルと出かけると、毎回写真を撮ってくれた。一緒に撮る事もあったが大概は「可愛いから」とトモハルがマビルを一人で撮っていた。それが心地良くて、ポーズをキメて挑発的に写ったものだ。

 写真の中の自分は、小生意気だが微妙に照れ笑いを浮かべている。今では出来ない表情だと思い、皮肉めいて口角を上げる。

 五万円入りの封筒に気を取られていたが、机を見れば写真立てが二つ並んでいた。

 勇者一同の写真と、マビルとトモハルが二人で写っているものだ。


「…………」


 勇者一同は小学生の時である、まだユキが勇者であった頃のものだ。マビルはその時、関わっていないので写っていない。二人で写っているものは、再会して直ぐのものである。こちらもかなり古いものだった。若干幼いマビルと、まだあどけなく頼りないトモハルが遠慮がちだが寄り添っていた。

 他に机の上にはタラソテラピーの本があった、所々付箋がついている。その本の下から、書類。

 封筒を置き、思わず手にするとパラパラとめくる。計画書だった、トモハルの字で色々書かれている。時折マビルには読めない漢字が混ざっていたが、どうやら街にタラソテラピー施設を造るらしくその件についてだ。

 更にその下からノートが出てきた、思わず中身を見てしまう。日本では一般的な有名文房具メーカーの何の変哲もない大学ノートである。

『マビルの彼氏は、完璧なようだ。容姿も申し分ない上に、マビルのことを知り尽くしているらしく喜ばす術を解ってる。

 とても、敵わない。マビルはとても、嬉しそうだった。

 五万が必要らしい。俺なら全額出してあげるけど、彼氏はマビルに金を出させるそうだ。そこまでお金はないのかな?

 どちらにしろ、五万を渡したらマビルは行ってしまうから、渡したくないという本音。

 で、気持ち悪い。明日は薬湯を貰おう。』

 日記だろうか、一番最後はそう記されていた。一旦ノートを閉じると反対から読んでいった、どれもこれもマビルについてだ。

『マビルが、俺がデザインしたドレスを気に入ってくれたようだ。よかった、やった甲斐があった。着る事はなくても、嬉しい。

 だから今日は良い日だった。』

 座り込んで読み更けた、毎日書いているわけではないらしいが、中身は日記で間違いなかった。

 一冊読み終わった、それより前が読みたくなったので探してみるが見当たらない。几帳面なトモハルのことなので、棄ててはいないだろうと推測し、辺りを見渡す。

 その時、物音がしたので思わずマビルはクローゼットの中に潜り込んだ、いつかもこうして入っていた。心臓の鼓動が速くなる、固唾を飲み込み身動きしないよう軽く瞬きを繰り返す。

 いつも、誰かから逃げてばかりいるマビル。こうして以前クローゼットの中に入ったのは、ミノルが来たからだった。あの時、トモハルは確かに自分を必死で護ってくれていたのを思い出して、少しだけ、哀しくなった。手を繋いで逃げてくれた、抱き締めながら庇ってくれたトモハルを思い出して、とても切なくなった。

 ドアが開く、トモハルが入って来て、お金の封筒を手にして慌しく出て行く。自分を捜しに行ったのだろう、とマビルはクローゼットの隙間からぼんやりと眺めていた。

 静かになるとそこから出て、もう一度日記を読み、困惑気味に部屋を後にする。

 マビルで埋め尽くされていた部屋から、出て行った。

 それでもマビルは簡単な答えを自ら消去した、辿り着かない答えは捻じ曲げられる。


「ふ、ふん……。いつあたしに見られてもいーように、用意周到なんだよねっ」


 立ち止まって部屋のドアを睨みつけると、マビルは俯いて歩き出した。

 口にしたものの、心は晴れない。納得いかないのだ、どうしてあそこまで自分に関するものが部屋に溢れていたのか。

 答えは、すぐそこにあるのに。


「あ、マビル! ほら、五万だよ」


 俯いて歩いていた為か、トモハルに気づかなかった。直前で弾かれたように顔を上げると、引き攣った笑みを浮かべてしまう。


「……ありがとう」

「気をつけて行っておいで」

「うん」


 トモハルは、笑顔だった。

 手渡された五万円の入った封筒を握り締めながら、マビルは思ったのだ。

 あの日記は、嘘だ、と。

 遠慮がちにそう告げられてお金を受け取ったマビルは、じっとトモハルを見たが。不思議そうに笑うとトモハルは、すぐにマビルから離れていく。

 苦渋の選択だった、旅行の直前でトモハルは金を渡した。

 けれどもそんなことが解らないマビルは、案の定擦れ違ったまま。普段通り、そこで別れた。



お読み戴きありがとうございました(^^)

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