寂しい旅行
奈留と旅行を満喫していたマビルだが、恋人達が多く来ていたので羨ましくなった。
入口の自動ドアが開くと深紅の絨毯が受付まで敷かれていた、その上を堂々と歩く。上品な微笑で出迎えてくれるスタッフに笑顔で帰した奈留は、手続きを済ませた。その間マビルは手荷物をスタッフへと預け、近くのソファに深く腰を下ろしている。
部屋へと案内され、ウェルカムドリンクとして手作りのミックスフルーツジュースを飲みながら簡単に説明を受けた。
夕食まで二人が行うプログラムは、全身エステである。顔に一時間、全身に二時間の計三時間要するので早速館内着に着替えて指定の場所へ向かわねばならない。その後は自由なので海水温浴を満喫する。
エステの最中は個室で他人とは接しないが、施術が終わり水着に着替えてタオル片手に海水温浴へ向かうと様々な人がいた。
美容エステだけではなく、マッサージも充実しているので男性にも心地良い場所なのだ。女性が多いと思っていたマビルだが、意外そうに目を開いて見ていた。どうやら男性だけで来ている人もいるらしい、マビルは知らなかったがアスリートにも人気が高いのである。
しかしやはり多いのは恋人達だった、水着で楽しそうにメニューをこなしているので、マビルは何故かとても羨ましくなり、早く城に帰りたくなった。最高級のコスメを使い、肌は磨かれ潤った筈だが心が乾いた。
夢のような場所で、美味しい料理に見目麗しい装飾品たちを見つめつつ、楽しい時間を過ごしていた。しかし楽しいが、ぽっかり心に大きな穴が空いているのも確かである。食事も恋人同士が多かった、男性のアスリート組は日帰りコースだったのだ。女性同士もいるのだが、殆んどが仲睦まじい恋人同士である。
「…………」
「どした、真昼。ぽんぽ、痛い?」
「……別に」
白身魚のムニエルを食べていたマビルの手が止まる、奈留が不思議そうに声をかけるが呆けたまま食が進まない。残した分は、奈留が喜んで食べていた。
寝る前にもう一度海水温浴に出向き、そのまま大浴場で海水を流すと暖かな身体でベッドに横になる。一人きりでシングルベッドに転がって、隣のベッドで寝ている奈留の寝息を聞きながら。
瞳を閉じて眠りについたマビルは、ほんの少し夢を見た。
いや、夢を”描いた”。
今日見た、タラソテラピー中の恋人達。手を伸ばして彼氏が待っているので、その手に掴まる。二人して海水に浸かり、順番に仲良くプール内を廻って行くのだ。
「……いい、な」
彼氏がタオルを持っていてくれて、水から上がれば優しくタオルで包んで拭いてくれる。僅かな時間だが、離れ離れになって着替えを済ませると食事だ。
「いい、な……」
何故か涙が溢れてきたマビルは、横になったまま瞳を擦った。唇に涙が流れた、塩辛い涙の味。
トモハルは、赤色の海水パンツを履いていた。以前二人でプールにも行ったし、海にも行った。マビルの浮き輪を引っ張って、沖へ連れて行ってくれたのを思い出した。
トモハルはその時マビルしか見ていなかった、マビルだけのものだった。
それがたまらなく嬉しかったということに、気づいてしまった。
いや、気づいていたので苦しくなった。
過去の自分がとても羨ましいのだ、トモハルと何の隔たりもなく一緒に居られたあの頃の自分がとても羨ましい。
過去の自分に、嫉妬した。
望んでも今は届かない自分の待遇に嫉妬しても仕方がないが、羨ましくて羨ましくて自分を呪った。




