擦れ違う二人の距離
マビルは顔を隠したまま教会を立ち去った。残された三組の恋人達は不思議そうにその様子を見ていたが、すぐに気にすることなく溜息混じりに再び教会内部を見つめる。
慌てて帰るとトモハルは一人で庭に居た、声をかけようとして躊躇して様子を窺う。空を眺めていたらしいが、数分後すぐに歩き出した。結局、黙って追跡する羽目になってしまったマビルは眉間に皺を寄せる。
擦れ違うメイド達に手を振って笑顔を振りまくトモハルに、やはり胸がキリリ、と痛んだ。
トモハルは自室へと入っていった、入ることが出来ないマビルは外で右往左往するしかない。
数分後出てきたので、また追いかけた。
その繰り返しだ、数日何も言えず、ただマビルはトモハルを追いかけている。自分が何をやっているのか解らなくなってきたので、気晴らしに奈留を訪れる事にした。相談できる相手が、奈留しかいなかった。
「ちょーどよかった! ね、ね、三日後暇!?」
「な、何?」
目を輝かせて飛びついてきた奈留に顔を引き攣らせたが、お構いしないに奈留はチラシを見せてきた。紙のそれにマビルも眼を落とす。
「友達がさ、行けなくなったから一緒に行かない? 一泊二日のタラソテラピー満喫コース」
「たらそてらぴぃ?」
「うん、海水を利用したエステだよ。最近流行っててさ」
「わぁ!」
次はマビルが目を輝かせた、食い入るようにそれを見つめて二つ返事で了解する。見慣れない風景と美しい料理の数々、癒しの個室と優雅なエステ。マビルが反応しない筈がなかった。
「五万かかるけど、大丈夫?」
「な、なんとかするからっ」
奈留が指差した先の”五万”は、目に入っていた。マビルはどうしてもそれに行きたかったので、急いでトモハルの元へ戻る。所持金などない、必要な時にトモハルから貰っている。のだが、五万という地球の高額な料金など欲しがったことはなかった。
「トモハル、五万ちょうだい、五万、日本円! 一万円札五枚! おっさんが印刷されてる、一番高級そうな紙ね」
自慢げに踏ん反り返って言い放ったマビルに、唖然とするトモハル。顔を見ることが出来て嬉しかったのだが、そのお金を何に使うのか気になった。
「? 何か買うの?」
「違う違う、旅行! たらそてらぴぃしてくるのっ。一泊二日で」
聞きなれない単語に、トモハルが首を傾げる。
「何それ?」
「知らないんだー、もー、だっさいなぁ。今流行りなんだから!」
自分も先程知ったのだが、鼻で笑ってトモハルに簡単に説明した。
「今流行りの高級エステ」
「そ、そう」
これではさっぱり解らないが、マビル自身がよく解っていないので仕方がない。困惑しているトモハルに何故か苛立ったのでついつい、悪い癖が出た。
「彼氏と行って来るのー、あたしの彼氏、こういう情報を得るのも速いんだから! 素敵な人でしょう?」
「……そ、そう。凄いね」
「だから、五万ね!」
「うん」
『奈留と行く』とは言えずに、また嘘をついたマビルは早速部屋に戻ると旅行の支度を始めた。
「水着と、着替えと」
奈留に貰ったチラシを見ながら、久し振りに楽しいなとマビルは思った。
一方トモハルは、全く知らない単語が気になったので地球へ出向き、久し振りに本屋へ行きタラソテラピー関連の本を手に取ると購入する。来たついでにミノル達が暇だったので、四人で居酒屋で飲むことになった。
勇者四人だが、地球の日本ではただの男性四人組みでしかない。トモハルを筆頭に目立つ容姿ではあるが。
「タラソテラピーって知ってる?」
安くて量が多いが味は二の次、の安居酒屋に入店する。男だけなので雰囲気も気にしない、ただ飲んで食べることが出来れば問題ない。独特な店員の掛け声と賑わうその店内で、早速トモハルは疑問を口にした。
その問いに首を横に振るミノルとダイキだが、ケンイチは軽く頷いた。
「最近流行りなんだよ、健康に良いんだって。暖かい海水のプールに入る感じで、恋人同士でも利用できるから利用者は多いみたいだね。高いらしいけど。施設自体が女の子が喜びそうなセレブ風なんだ、実際エステも出来るみたいだし、宿泊施設もあるよ」
「へぇ」
他愛のない話を交し、深夜帰宅した後買った本を読み耽る。大体ケンイチの説明で把握出来たが、目で見て深く納得した。マビル好みだ。
「俺とは大違いだな」
昼間のマビルがとても楽しそうだったので自嘲気味に笑うと、再度本に目を通しながら呟く。
「マビルの喜びそうな事を逸早く掴んでる、良い彼氏だ」
五万を封筒に入れて机に置いたが、トモハルは眠りながら考えた。
正直、五万を渡したくはない。渡せば彼氏と出かけてしまう、日頃から一緒にいるだろうが、自分がそのきっかけを作りたくなかった。
が、約束してしまった。それに、マビルを祝福せねばならないしそう誓った筈だ。
葛藤に気分が悪くなり、トモハルは五万円を渡さないまま二日過ごす。悪いなと思いつつも、どうしても気が乗らなくて机の上に五万円を放置した。
お読み戴きありがとうございました(^^)
今月でおそらく完結です。




