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星と羽虫  作者: 病気
第一章・異能の女たち
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43. 闖入者たち




 朝なのか既に昼なのかはよく分からないが、日中の一定の時間になると上手い具合に格子付きの窓から入る光が枕元に当たるようになっているようだ。眩しさと暑苦しさでそれ以上眠ることが出来なかったので、体を起こさざるを得なかった。見ると、入り口の扉に設置された小窓に昨日の粗末な夕飯とまったく同じ内容の朝食が置いてある。汁は既に冷めていた。


「おはよー!眠れたかな?」


 ベッドの上で食事を開始して間もなく、戸の外から呼びかける声と錠を解く音が聞こえた。パンを咀嚼しているとメメトー人の男が一人入ってくる。


「もてなしは気に入ってくれたかい?」


 シギミヒは私の正面に位置していた椅子にどっかりと腰を下ろし、にやにや笑いながら掌を上に向けた。


 私はそれを気にせず、やたらと硬いパンをもう一口齧る。


「部屋も食事も素敵だ。…あと同居人も」


 たまたま私とシギミヒが同時に視線を向けた先の床にゴキブリが二匹走っていた。今私が食べているこの朝食も彼らが口にした後なのかもしれない。


「満足してくれたなら良かったよ。発掘が終わったらここでホテルでも経営しようかなぁ」


 その時、扉の外で荷車かなにかの車輪の音ががらがらと鳴るのが聞こえた。ベッドに腰掛けている私の角度からは見えないが、シギミヒが戸の外に立ち止まったそれに向けて声を掛けた。


「おい、なんでこっちに運んで来るのポンコツ。地下の第一待機所までって言ったでしょ」


 私は山菜汁の残りを一気に飲み干すと、パンを咥えたまま立ち上がった。


「ダーマ」


 そこには臙脂色の覆いが被せられた小さな荷台を押すダーマの姿があった。


「…これは?」


「それは例のボクのお気に入りの奴隷、ランちゃんだよ」


 相変わらず口を聞かないダーマの代わりに背後でシギミヒが答えた。

 布で隠されたそれは人一人を収容するための檻としては明らかに小さく見えた。中型の犬か何かのためのものにすら思える。


 ダーマはすぐに荷台と共に歩みを再開したので、私は急いでパンを噛み千切り、水筒だけをベルトに身に付けてすぐにその後を追った。シギミヒも部屋から出てそのまま付いてきた。


「昨日話したように、超能力者の存在を目当てにそれを探知してやって来たのであれば、お客さん方の望みは彼女かもしれないからね。だとすればボクの部屋まで来てもらうのもなんだし、便宜の良い場所まで運ぼうってね。もし目的が違ってたとしても面白い見世物になるし。あはは」


「廊下の罠も使えるし、むしろ部屋まで来させる理由が必要かと思ってたけど」


「いやいや!だから彼女らにはとっておきの秘密兵器を使うんだってば!あんなしょぼいのがそれだと思っていたのなら心外だなぁ」


 つまり秘密兵器とやらは移動できる類の罠ではないらしい。それは彼女らをおびき寄せる先である要塞の地階に設置してあるということなのだろう。


 食堂を過ぎ、階段に差し掛かると、ダーマはその車輪付きの小さな荷台を両手でひょいと持ち上げ、頭の上に乗せた。その際、被せられていた臙脂色の覆いが揺らぎ、その中に隠された小さな檻がちらりと見えた。


「うっ」


 私はさっと顔を背けた。


 奇妙なほどに濃い暗闇に閉ざされた格子の内側から、一対の金色の瞳が確かにこちらを見ていた。感情を読めるほど凝視してはいないが、極端に見開かれたそれには世界に対する漠然とした、それでいてひどく強烈な恐怖以外の何の感情も宿していないように感じられた。


「あぁ、ハハハ、そうそう、それそれ。ボクはその顔を見たいんだ」


 明るい調子でそう言ったシギミヒを私はほとんど無意識に睨みつけた。


「キミはいい反応してくれるねぇ。女の子たちもそんな目でボクを見てくれるといいなぁ。へへへ」


 昨日ゼームと会話した廊下を通り過ぎ、一階の詰め所まで戻ってくると、そこに居た見張りの賊の一人がシギミヒを見つけて駆け寄ってきた。


「親分、丁度いいところに」


「その品性の無い呼び方はやめろってば」


 舌打ちしたシギミヒに対し、相手の男もまた舌打ちで返しそうな不満げな表情を浮かべたが、一瞬狼狽した後、言葉を続けた。


「…シギミヒさん。つい今しがた、例の三人組の来訪者が来たんだが…」


「やっぱり来たね!」


 シギミヒはぱっと表情を一変させ、楽しげに両手を組み合わせたが、見張りの賊の顔は曇ったままだ。


「話通りの手練だったが、話以上に好戦的な連中だったぜ。どうなってんだ。説得して剣を収めさせるまでにこっちに怪我人が出ちまった」


 案の定、サディスティックなメメトー人は手を叩いて喜んでいる。


「うはは!それ面白いね!突然襲い掛かってきた旅人を山賊が宥めるなんて、とってもシャレが利いてるじゃない!」


 見張りの賊はついにはっきりと舌打ちした。


「シャレで死んだら超面白ぇが当事者になったら笑う暇もねえんだよ。今、表の奴らが連れて来てるから早くそっちのガキに応対させてくれ。俺たちは事前の指示通り採掘現場で待機させてもらうぜ。剣を抜く前に殺されるのだけは御免だからよ」


「あぁ、そうしてもらおう。頼んだよ、ヌビクくん。いきなり襲って来られてもまずいし、ボクはダーマくんと一緒に一旦ちょっと下がって…。え?ダーマくん?あれ?ちょっと待て。あいつどこ行った」


 いつの間にかダーマの姿が見えなくなっていた。急にせわしなくきょろきょろしだしたシギミヒに向けて、男はため息を吐きながら答えた。


「ダーマなら今、荷台を抱えて地下に降りてっただろ。あんたが命令したんじゃないのか、シギミヒさんよ」


 シギミヒは一瞬両手で頭を抱えた後、すぐ振り返って地下に続く階段へと駆けていった。


「アァー!ツテー・ル・フリッキ・ドゥイー!!オイ、いい加減にしろポンコツ!オマエはボクの護衛だろ!早く戻って来いよ!何ちんたらやってんだ!フリッキ・ドンブ!!」


 取り乱したシギミヒの絶叫は地下へと遠ざかって行った。


「チッ…自分じゃなんも出来やしねえクズが…。護衛さえ居なきゃとっくに殺してる…」


 おそらくわざと私に聞こえるようにそう言い残した見張りの男も地下へと消えていった。


 だだっ広い詰め所にはただ一人私だけが残されることとなった。その場に立ち尽くし、正面の段差から入り口を見下ろしていると、噂の来訪者はすぐにやってきた。

 通路の先から現れた人物が、昨日まで行動を共にしていた三人の内の誰でもなかったことに私は少なからず驚かされた。この瞬間まですっかり忘れていたのだが、ここを目指してやって来ている集団はあの女たち以外にももう一組居たのだった。


「ああーっ!本当に生きてやがった!」


 血まみれの賊に伴われた見覚えのある金髪男が現れ、私を正面から指さした。どうやら五体満足のようだが、頭部に巻かれた包帯は以前よりもさらに増量している。

 彼は私を指さすのと逆の手で、背後に向けて拳を振り回しさらに怒鳴る。


「おい、豚!あそこに居たぞ!」


 続いてやって来た豚と呼ばれた背の低い肥満体の中年も、大きな三白眼をさらに丸く大きく見開いてこちらを見た。


「マジかよ!すげえ!オーリスよ、あんたの言ったとおりだったな!」


 そして彼はその背後からやって来た長身の女性に言葉を渡す。


「ヌビクリヒュくん!」


 夢の中とは違う。やっぱりそう呼ぶんだな。


「やあ、やっと会えたね!無事で良かった。私が送ったお手紙は届いたかな?」


 オーリスは笑顔を作って片手を挙げたが、その表情は少なからず硬くなっているのが分かる。無理も無い。彼女はここがどれだけ危険な場所なのかよく理解しているはずなのだ。


 結局、やって来た三人組というのはニャキらのことではなく、金髪の剣士セリトと傭兵団の副隊長リデオ、そして夢で私に来訪を告げた超能力者オーリスだ。彼女らが森に入ったのはまだ二日も前のことではないだろうが、それでも三人の女たちより早くここへ着いたということは、それだけオーリスの探知能力がメセのそれと比べて遥かに優れているということなのだろう。


「おい、ヌビク!貴様、ここがどこだか分かってるのか?一体どうしてこんな場所に一人で居るんだ。まさかまた私たちを裏切って賊どもに付いたわけじゃないだろうな!」


 段差の下に居るセリトが早速いつもの調子で私を怒鳴りつけてきた。


「またってなんだよ。説明しようか。一から話したら長くなるけど」


「じゃあいい!さっさと帰るぞ!こっちに来い」


 セリトがそんなまるで何も考えて無さそうな台詞を口にすると、彼の背後からリデオが口を挟んだ。


「おい、待てよ。実際おかしい。なんだって拘束もされずに一人で待ち構えてやがったのか理由が解せねえ。ヌビク、分かってんだろうな。俺たちはおめえを助けるためにはるばるここまでやって来たんだぜ」


 疑り深いリデオの、共に行軍した時とは既にまるで違う冷たい視線を受けて、私はようやく自分が今置かれている異様な現状を弁解する手立てが無いことに気が付いた。この場所に入り込むことが出来た理由は山賊の一味と繋がっていなければ説明が付かないのだ。そして私は実際彼らの敵の一人であるホルズの仲介によってここに来た。


 私が不安に駆られたことを感じ取ったのか、オーリスが急いでリデオと私の間に割って入った。


「彼にまったく敵意が無いのは私にはよくわかるよ。たとえ長くなっても、一から説明してもらったほうがいいんじゃないかなあ…」


「この場所でのんびり話すのか?それ自体が罠かもしれねえぞ。賊どもが何故か俺たちをすんなりここに入れたことからして、あからさまに何かがあるのは間違いねえからよ」


 何から話を切り出すべきか必死に考えを巡らしていると、オーリスが向き直って私の背後に視線を向けた。


「あっ、誰か来るよ」


 リデオとセリトもその視線の先を目で追う。私もゆっくりと振り向いた。

 この時私にどのような天才的な弁解が思い浮かんだとしても、それを徹底的に破壊する最悪の役者がこの場に加わったのだった。


「おーい、今帰るって言ってなかった?だったら俺も連れてってくれや」


 その姿を見て、段差の下に居る金髪と肥満体がこちらを指さして異口同音に叫んだ。


「うわああーっ!てめぇーっ!!」


「よう、相変わらずひでーマヌケ面だな」


「一体いつの間に、どうやって逃げ出しやがった!」


 セリトとリデオがでたらめに両手を振り回しながら叫んだが、段上のホルズは煩わしそうに片手をひらひらさせながら言う。


「んなこたどうでもいい」


 そしてわざとらしく肘で私の肩にもたれ掛かった。


「悪いな。こいつは今、俺の味方なんだよ」


 段差の下の二人はまたしても示し合わせたように同時に飛び上がった。


「はぁ!?」


「いや、待って。一から説明するよ。長くなるけど」


 私が一歩後ずさって両の掌を見せてみたが、リデオとセリトは共に抜刀した。


「てめえーっ!やっぱり裏切ったんだな!」


「畜生め!俺は薄々感付いてはいたんだ。示し合わせたように化け物どもが俺の班を襲ったのも、あの状況でこいつだけ何故かほとんど無傷で生き残ったのも、なんてこたねえ、こいつが全部仕組んでいやがったからさ」


 今度は私がびっくりして飛び上がった。


「ひどい誤解だ。僕が内通者だなんて有り得ない。傭兵団に加入したのはここの山賊討伐依頼が来るより前の段階なんだから。ここにいるホルズも含めて、僕が連中と初めて会ったのはノンドに着いてからだよ」


 リデオがそれに何かを答えるより早く、セリトが口を挟む。


「なんだと!…そうか…分かったぞ…!その赤毛を捕らえた晩、貴様が夜中に外に出たのは、そいつを解放するためだったということか…!」


「いや…それは…どうして今言うの。僕が言った事聞いてた?」


「裏切ったタイミングなんて別にいつだって辻褄が合うぜ。俺たちがノンドに到着してから各自自由に行動できる時間は十分すぎるほどあった。初日のおめえらの行動の詳細については不明な…ん…?ちょっと待て。セリト、その日おめえもこいつと一緒に居たはずだよな…」


 リデオが隣のセリトから一歩身を引いた。


「は…?待て待て。その目はなんだこの豚野郎!オレが賊に与するような人間に見えるのか!ナメるのも大概にしろ!」


 大騒ぎする二人の後ろで、オーリスがいつもの調子でおろおろしている。


「二人とも、落ち着いて…。疑心暗鬼になってもしょうがないよ。この場では誰も嘘なんかついてない。私にはわかるから…」


 リデオは一瞬セリトの目を見てから、すぐにまたこちらに向き直った。


「そうだな…おめえが裏切るような人間じゃないのはわかるぜ。今は味方同士で疑り合うよりこっちの裏切り者をどうにかするのが先決だ」


 どうしてセリトのことだけそんなに簡単に信用するのかまったく理解出来ないが、彼ら二人の互いのやけに馴れ馴れしい会話から察するに、ここにやって来るまでの二日間の道中で、この似た者同士の凶悪な二人の間に友情めいたものが芽生えていたのかもしれない。


「俺たちがここへやって来た目的は二つある」


 リデオが敵意剥き出しの目で私を睨みながら続けた。


「一つは森で遭難した仲間の救出。これは生存者が誰も居なかったということで終了だ。もう一つの目的は…殺された仲間の仇討ち…」


 否応無しだった。殺気が走った。


「ダミとトルシュ、そしてラリャンサの仇だ」


 他に選択肢が無かったので仕方が無かった。私は後ろに飛び退いて叫ぶ。


「ホルズ!」


「あいよ!」


 リデオがそのずんぐりした肥満体からは想像も付かない瞬発力で、身長以上の高さの段差を一気に飛び越え、私を目掛けて刀を振り上げた。予め心の準備をしていたのであろうホルズは私の呼びかけによって即座に動き、リデオの一撃に刃を重ねた。金属の甲高い音が響く。


「クソが!一体どうやってその狂犬を手懐けやがったんだ!」


「あぁ、そっちのお仲間は豚の手懐け方しか知らねーだろうしな」


 下でオーリスが叫ぶ。


「うわー!やめて!そんなことのために連れてきたんじゃないよ!話し合うんだよ!」


 セリトもそれに同調した。


「そうだ。落ち着け。ヌビクの野郎はまだ話し合う余地がある。殺さず生け捕りにするんだ。脚の一、二本は折っても構わんが」


 彼は左手に握り締めた刀をちらちらと見せびらかして、その場に居る負傷した二人の賊を威嚇している。


「つまり山火事は殺してもいいんだな?」


 リデオとホルズが睨み合っている隙に、私も呼びかける。


「こんなはずじゃなかった。ホルズ、おまえも彼らを殺さないでくれ。誤解が原因である以上、悪者は誰も居ないんだ」


「殺さずになんとか出来る相手だったら戦ったところでつまんねーしそうしてやるが、あいつはどうかなあ…」


「頼む」


「下がってろ!」


 ホルズが空いているほうの手をかざして合図を出したので、私は考えるよりも先に再び飛び退いた。次の瞬間にはリデオとホルズの刃が触れ合っていた。


「ネズミみてーにすばしっこい豚だ!あっちの金髪以上だな」


「プライドの高ぇ金髪の坊ちゃんには悪いが、俺はあんな若造とは比較にならねぇぜ。埒が明かねぇし、本気を見せてやる。次の一撃で終わりだ」


 リデオは斬り付けた勢いのままホルズの背後へ走り抜けると、振り向きざまに右手の刀を頭上に掲げ、左手を背後に隠した。


「ん?構えたな。見たことねー構えだ」


 そう言いつつもホルズはリデオに距離を詰めて行く。


 その構えは私には見覚えがある。これまで得物を一本しか抜いていなかったが、リデオの専門は二刀流であることを私は既に知っていた。


「今、左手で刀を抜いたぞ!気を付けろ!右手の構えは『囮』だ!」


 リデオが驚いたように私を見た。


「こいつ!」


 リデオの足が浮いた瞬間、ホルズが唐突に踵を返し、上階へ続く階段へと退却した。


「なるほど。右手はわざと殺気をばら撒いてるってか。さながら正面に居ながらにして不意打ちするって感じか。実際左手の動きがまったく読めねーし、尋常じゃねー技だな」


「ああっ!逃げんのかコラァ!」


「場所を移すだけさ!こっちに来な!」


 そう言い残してホルズは開放された扉の向こうへと消えていった。既に冷静さを欠いているらしいリデオはすぐさまそれを追う。


「応援を呼ばれるのはマズい。そっちの『三人』の賊はおめえに任せるぜ!」


 入り口からセリトらと伴ってやって来た賊は、最初にシギミヒに伝令した一人を除けば、その場に残っているのは二人だけだった。『三人』というのはどうやら私も含まれているらしい。


「待て、一人で行くな!待ち伏せされているぞ!貴様一人では荷が重い!」


 セリトもまた空いた片手を使って段差をよじ登ると、私の真横を素通りして上階へ向かう扉へと走った。


 扉をくぐる際に彼はようやく私の方へと振り向いた。


「これは私の勘だが、貴様は後回しにしても問題無さそうだ…。そこに居る連中にオーリスを襲わせなくさせることくらいは出来るんだろうな?いいか、これは命令だ。またすぐ後で会おう」


 そしてセリトも二人の後を追って階段を駆け上って行った。


 唐突に過ぎ去った嵐の後に残された私とオーリスと二人の賊たちはどうしていいか分からず、しばらくの間ぼさっとしていた。


「何がなんだかわからねえ…」


 その場に居た血まみれの賊の一人がそう言った。彼らはおそらく理由も告げられずに、今日やって来る三人組の来客を怪我させることなく中に招き入れろと指示されているのだ。


「あわわ…どうしよう…またとんでもないことに…」


 相変わらずの様子で、オーリスが私と賊たちの間で忙しなく視線を移動させ始めた。復讐に逸る血気盛んな二人の男たちを山賊の巣窟まで案内するという時点で、ただでは済まないことはそもそも分かっていそうなものだが、彼女はどうもその危険を察知出来る能力とは裏腹に、あるいはそれがあるが故なのか、なりゆきに身を任せすぎるところがあるようだ。その点は私も人のことを言えたものではないが。


「うわー!また誰か来る!」


 混乱したオーリスがまたも大声を上げて飛び上がり、そのまま階段を駆け上って私の傍までやって来た。


「そろそろシギミヒの野郎が戻って来てもいい頃か」


 賊の一人がやる気無さそうに言った。


 オーリスが応じる。


「だ、誰?」


「俺たちのリーダーだよ。今、地下に居るんじゃねえかな」


「違うよ、外から誰か来る。三人。えーと、あれ?この人たちは知ってるな…」


「あー?」


 オーリスの予言どおり、すぐに固い土の地面を踏む複数の足音が響いてきた。予想外の闖入者たちがあったものの、ようやくやって来た彼女らこそが本来想定されていた三人組の客人だ。三人は昨日までのような薄着ではなく、全員がフード付きのマントを目深に被って、体や顔の大半を隠していた。当然の用心であると言えるが。


「意外な方がいらっしゃいますね…。それに流血沙汰もあったようです。外に見張りすら居ませんでしたし、一体何が起こっているのですか?」


 先頭を歩いていた長身の女がフードの下の眼鏡を光らせた。ニャキだ。その傍らにはメセもいる。小柄な彼女の被るフードはぶかぶかに大きく、両目どころか鼻まで完全に隠れている。ちゃんと前が見えているのだろうか。


「貴方たちがここの関係者ということはないんでしょう?責任者にお会いしたいのですが」


 ニャキはそう言いながら臆せずずいずいとこちらへ歩み寄って来る。賊たちは警戒した様子ながらも、武器を抜くことも行く手を塞ぐこともなく、女たちのほうをじろじろ見ながら通路の端に寄った。


「今度は一体何だ?」




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