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星と羽虫  作者: 病気
第一章・異能の女たち
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44. 地下牢へ続く扉




 ニャキとメセの後ろを歩いていた澄んだ赤い瞳の女は私の存在に気が付くと、片手で少しだけフードを持ち上げて、怯える子供のような様子でおずおずと声を上げた。


「ああ…ヌビク。やはり会えたな。昨日は、その…ひどく残念なことになったが、私は…とにかくもう一度腹を割って話す機会は持てないか?ホルズはどこに?」


 そう言って先頭に進み出た彼女の肩にニャキが片手を置いた。


「そんなどうでもいいことは後にしてください。ハステさん」


「………」


 しかし、振り向いた彼女のニャキに対する視線はいつになく反抗的だ。昨日の一件についてのわだかまりはまだ解消されていないようだった。


 私もハステもそのまま互いに何も言えずにいると、オーリスが私にそっと耳打ちした。


「ええと…あの…いい?さらにまた誰か来るみたい。今度は反対から…」


 そう言って地下へ続く通路を視線で指した。私たちもまた広間の端へ寄り、その次なる登場人物のために道を空けた。


「やぁー!ハハハッ、お待たせぇー!ボクが最後かな?これで役者は一通り…揃ったようだね!なんか一人多くない?」


 先ほどまでの取り乱した様子はまるで無かったことのように、背後の通路からシギミヒが陽気に躍り出た。今しがた起こった事件については知る由も無いだろう。彼の傍らには小柄な超能力者のダーマが黙って付き従っている、その姿はニャキに従うメセと印象が被って見えた。


 現れた彼らの大理石のような白すぎる顔を見て、ニャキが露骨に顔をしかめた。


「ふむ…やはりメメトー人ですね…。メセ、あの二人のどちらかがそうなんですね?」


 彼女はまるでシギミヒを無視するように、メセのほうへと振り向いた。


 メセは鼻まで掛かったフードはそのままに頭だけを持ち上げ、壇上に現れたメメトー人の姿を確認した。


「そこの女と俺を除けば、適正者は二人、それぞれ覚醒手術の余地がある年齢のはずだ。…背の低くないほうの男はそう若く見えない」


「ではあちらの並みの体格の方のメメトー人ですか」


 その言葉を受け、一瞬だけだがフードの下のメセの瞳が妖しい紫色に光ったのが分かった。


「あいつのようだな」


 対するダーマは、普段のメセのような伏目がちな視線で四人の来客それぞれの顔を確認するようにしばらく眺め回していたが、メセの上でその視線を留めると、まばたきもせず、まるで凍りついたようにじっと立ち尽くした。メセもまた段上の姿を見上げて黙ってじっと見つめ返していたが、二人とも相変わらずいつも通りの無表情である。


「おおい。このお城の主であるボクが直々に歓迎に上がったってのに、みんな愛想が無いねぇ。それで、みなさん?来訪の理由は大体予想出来てるけど、一応説明してもらおうか」


 三人の女たちはすぐにシギミヒの手招きに応じ、私たちの傍までやって来た。しかし今度は先頭を歩いていたのはニャキではなく、メセだった。いつになく急いだ様子でつかつかと歩み寄ってきた彼女はダーマの至近距離で立ち止まると、不意にフードを外し、ほとんど同じ高さの目線から金色の瞳をまっすぐ見据えて口を開いた。


「昨日俺が殺した子供に似てるようだ」


 やはり微動だにしないダーマに代わり、隣のシギミヒが腹を抱えて笑い出した。


「あっはっはっは!豪気だなあ。やっぱりキミなんだね!そう、このダーマはキミが殺したサトヤちゃんの双子の兄貴さ。戦闘以外に何の能も無いボンクラどものくせして、ほとんどまともに戦わないままいきなりキミに殺されちゃってんだから、まったくひどいもんだよ」


 メセはちらりとだけシギミヒの方を向いたが、すぐにダーマへと向き直った。


「兄妹だったのか」


「アハハ、そうだよ。妹のほうはこのグズよりもうちょっとはマシだったけどね。少なくとも口が聞けたからさ。とにかく本当に災難なのはボクのほうさ。ねぇ、そこのメガネのお姉さんならきっとわかってくれるね?こいつら覚醒者を付き従えるためにどんだけ面倒が必要なのか。国が違っても手続きってモノが無駄に回りくどいところはやっぱり同じなんだろう?」


「おい」


 メセはぺらぺらと喋るシギミヒの方へは見向きもせず、ダーマに呼びかけた。


「どうしてこのうるさいのを八つ裂きにしない。おまえがやらないなら俺が代わりにやってもいい。今すぐに」


「メセ!」


 ニャキがすぐに制した。その顔はいつに無く余裕の無い驚愕に満ちていた。普段ほとんど感情を表に出さないメセが何故唐突に怒りを顕わにしたのか理解出来ないといった様子だ。


「メガネさん、キミのところのは野蛮だねぇ。もっとちゃんと調教しなきゃダメだよ。大体さ、メセちゃん?彼の妹を八つ裂きにしちゃったキミが言えた義理じゃないだろう?」


 ニャキはメメトー人を睨みつけながら苛立ちの篭った声で言う。


「誤解してもらっては困ります。彼女は私が命令しない限り人間に危害は加えませんよ。大方メメトー人が人間に見えなかっただけでしょう。そのように教えていませんからね」


「あーあ、レイシストなのかい?道理で冷たいわけだ。まぁ、ボクと話したらすぐにメメトー人のことが好きになると思うよ。あはははは。じゃあ行こうか。こんな入り口で立ち話もなんだろ?応接室は…この先だからねぇ…」


 再び地下へと降りていったシギミヒとダーマに続いてニャキもまた歩き出したが、急に足を止めて険しい顔つきで振り返ると、中指で眼鏡を押し上げながらメセに釘を刺した。


「貴女は元から少し変ですが、昨日の一件から特におかしいようですね。ハステさんに感化でもされましたか?とにかく貴女には再教育が必要です。この任務が終わったら急いで帝都へ帰還しなくては。…ハステさん、ハステさんからもメセに何か言ってやってはいかがです」


 唐突に名前を呼ばれたハステは少しだけうろたえたが、相変わらず反抗的に目線を逸らして言葉を継いだ。


「そうですな、メセ殿。八つ裂きにしてやるは流石に言いすぎかと…」


「…丁度中間の妥協点を見つけましたね…。まあ今回はそれで良しとしましょう」


 嫌味を言うためだけに話を振ったらしい。それくらいのことは普段のニャキでも彼女の性格から考えればよくあることなのだろうとは思うが、それを踏まえても彼女たちの間には以前無かった壁があるように感じられる。昨日の事件以前の道中で和気藹々としているのを見ていたから余計にそうなのだろうが。


 三人組はそのまま地下へと進んだ。私も続いて歩を進めようとすると、残されたオーリスは上階の方が気になる様子で私に目配せをしたので、私は立ち止まってかぶりを振った。


「ホルズが上手く撒いてくれるはずです。僕らも地下へ行きましょう」


「…うん。君がそう言うからには、彼はきっとそうするんだろうね…。本当に一体どうやったの?」


「…何がです?」


「あの赤毛の人、こないだとまったく感じが違うよ。全然別人だよ」


 私は苦笑いする以外に適切な回答を持たなかった。


 石壁の薄暗い地下通路に点在している階段をいくつか下りて進んでいくと、松明の橙の光に満たされたやや開けた部屋が存在するのが見えた。歩きながらニャキが前方のシギミヒに向けて来訪の目的を簡潔に告げる頃に丁度我々は部屋の真ん中に辿り着き、そこで足を止めた。


「…なるほどー。やっぱりそっちが目的だったんだねぇ。ただ、どうやって彼女の存在を知ったかがちょっと気になるね。それさえ教えてくれれば引き換えに譲って差し上げても構わないよ。結局アレはボクには過ぎたシロモノだったからね。キミたちもあの子の姿を見ればボクがどれだけ頑張って試行錯誤したか分かるよ。ハハハ」


 シギミヒは少し乾いたように聞こえる声で笑いながら、ふらふらと後ろ向きに歩き、そこに存在した窓に近付いてその向こうに目をやった。この部屋はさらに地下深くの発掘場を見渡せるテラスのような造りになった部屋であるようだった。


「話が早くて助かりますね。貴方の提案に応じるか否かはその姿を見てからですが。それで、彼女はどこに居るのです?ラン=ダーウェは」


 ニャキは教えられるまでもなくラン=ダーウェという名を知っていた。ただメセの探知能力のみによって彼女の存在を発見したわけではなく、予め彼女の存在自体とその存在位置の目星があった上でノンドにやってきたらしいということがこの時初めて知れた。


「ラン…ダーウェね。…うん」


 何かを探しているようなシギミヒの視線の先を追うと、窓の外の吹き抜けを隔てた向こうに存在する通路に数人の見張りが待機しているのを見つけた。彼らは眼下の発掘現場ではなく、我々の居るこちらの部屋を注視しているようである。シギミヒからそのように指示されているのだろう。しかし彼が通路の側に探していた人物はそこに存在しなかったようである。存在しなかったからこそ、彼はその次の言葉を続けた。


「ダーウェ、ダーウェ。ふーん、そんな苗字だったか。そういや確かにゼームくんがそう言ってたかな。気にも留めなかった」


 おそらくホルズの姿を探していたのだろう。奴にラン=ダーウェという名前を聞かれるのは、少なくとも現時点においては彼にとってまずいことなのだ。


「あの子ならこの先の…地下牢に居るよ。奴隷はみんな地下牢で飼うもんさ。へへ」


 そう言うと彼はまた別の方向に視線を投げた。私たち全員が再びその先を目で追うと、古びた汚らしい木の扉と、その手前に置かれた台車付きの小さな檻が視界に入った。檻の格子戸は半分開けられ、中には何も入っていない。近くの土の上には見覚えのある臙脂の布がくしゃくしゃにされて無造作に置かれていた。


「ふん…。奴隷…ですか」


「そうだよ。誰かが『使用中』かもしれないけど気にしないでね!ワッハッハ」


「………」


 ニャキが眼鏡を通して道端の虫けらの死骸でも見やるかのような目でシギミヒを見た。当のシギミヒはもちろんその視線に気が付き、私の不愉快な予想通りに、大いに愉快そうな満面の笑みで答えていた。


 元々この反応がお望みなのだ。

 下衆が。


「そう!素敵だろう?見たいなら喜んでお見せするよ。ただし、この先は若い人には刺激が強すぎるかもしれないねぇ」


 そう言ってついに腹を抱えてげらげらと笑い出した。


 ニャキが振り向いて言う。


「そういうことなら、ハステさん。貴女は私たちが戻るまでここに待機してください」


「えっ?いや、しかし、危険ですぞ。私と離れて、万一のことがあればなりません。お供致します」


 ニャキのことを快く思っていない現状においても、ハステが自らの任務を放棄するほど無責任な人物ではないということは明らかだ。ニャキ自身もまたそんなハステの反応を予想していたのだろう。矢継ぎ早に言葉を続ける。


「危険という点については少なくともメセ一人が付いていれば十分なのですが、そうでなくてもこの先の光景は貴女が見るべきではありません。これは命令です、ハステさん。ここで待ちなさい。頼れるお仲間もそこに見えることですし、今のうちにくだらない話の続きでもするといいでしょう」


「しかし…いや、ご命令とあれば…」


「もし何か異変があれば…そうですね、そちらの女性の指示に従って動いてください。それが一番…マシでしょうから」


 ニャキは突然視線を向けられ戸惑って口を半開きにしているオーリスを示した。確かに私やハステが先頭に立つよりは、その超能力の分だけ大いにマシである。


 そしてシギミヒはいつも通りにダーマを従えて、牢へ続く扉へと歩みを進めたが、それをくぐる間際にどこかわざとらしい仕草でパッと手を叩いて振り向いた。


「そうだぁー…。キミもここに残りたまえ。部外者だけをここに残しておくわけにはいかないからねぇ」


 彼は指でダーマを指していた。


 その他の者たちは首をかしげるだけだったが、私とニャキは面食らった。


「…彼は貴方の護衛なのでは?ここに置いていかれるほうがよほど貴方にとっては都合が悪いかと思いますが。一体どういうことです?」


 私が黙っていても、必要な質問は案の定ニャキがしてくれた。


 つい先ほどああも取り乱していたシギミヒが護衛の超能力者をここに置いていくなどとは不可解極まりない。地下には彼が仄めかしていた秘密兵器とやらの存在もある。少なくともハステとオーリスに危険が降りかかるのは避けたいので、それを忠告するべきなのかもしれないが、私がここでシギミヒに敵対するそぶりを見せるのもまずい。


「いやぁ、大丈夫、大丈夫。護衛ならいくらでも居るし、ボクは女の子に襲われるほど男前でもないからね!」


 しかし私がどうこう言うまでもなく、ニャキは既に十分すぎるほど警戒していた。彼女は掌を突き出す。


「いいえ、駄目です。それではハステさんを危険に曝すことになります。認められません」


 横に視線をずらすと、先ほどからずっと不機嫌そうに引き締められていたハステの目つきがフードの下でパッとほどけていくのが見えた。


「おぉ…ニャキ殿…」


 ニャキはそちらには見向きもせずに続ける。


「今更隠す必要も無いのではっきりと言いますが、私たちの脅威になり得る存在はそこに居るメメトー人の適性者ただ一人のみであると予め分かっています。その唯一の脅威を私の目の届く範囲の外で私の連れと一緒に置いておくなんて人質として差し出すも同然でしょう。そんな不利な交渉を何の理由もなく飲むと思いますか?それに抑止力は常に睨み合わせておいたほうがお互いにとっても余計な心配がなくなるかと思うのですが、そこまではご理解頂けますか?」


 シギミヒが口元にだけ不適な笑みを残したまま振り向き、その言葉に食い下がった。


「うーん…、そんなに心配なら彼女も一緒に地下へ連れて行ってあげたらどうだい?それでもボクは全然構わないよ。それに人質にするなんて手間の掛かることはせずに、例えば、いや、例えばの話だけどその場で殺してしまうとしたらどうだい?それならダーマくんを使うまでもなく他の手下にでも簡単に出来そうだと思わないかい」


 どのような意図があってそうするのかは不明だが、彼はどうしてもダーマとメセを分断したいらしい。だがそのやり口は随分と露骨で、あからさまに何かしらの罠があることが見え透いている。そもそもニャキがここまでずいずいと山賊の根城の深くまで臆さず入り込んできたのはメセの戦闘能力についての絶対の自信があるが故であり、そうでなければとっくに警戒から交渉は難航しているはずだ。これまでのいきさつからなんとなく把握出来てきたが、シギミヒの計画は細部がどうにも杜撰で、彼自身があまり聡明な人物ではないように思われる。


「純粋な彼女がこの先の不浄な光景を目にすれば、意欲を著しく殺がれてしまうことは明白です。こちらの都合ではありますが、今だけはそれを避けたいのですよ。それに、女性を奴隷としているような方々が彼女を殺すなんてことはしないと思いますけれどね。ハステさん、フードを取って顔をよく見せて差し上げてください」


「え…?はい、了解しました」


「えっ?ちょっと…」


 私とオーリスが両側からハステを制そうとしたが、それよりも早くハステは自らのフードを取り、その透き通るようなまっすぐな銀髪に松明の光を浴びた。


 シギミヒがまるで恋する乙女のように両手の指を胸の前で組み合わせて背筋を伸ばした。


「うわぁ、こりゃ美人だね!しかも銀髪赤目じゃないか!帝国では百年に一人現れるかどうかと言われてるんだろ?これはレアもんだなぁ!いくらだい?」


「売り物ではありません。あと、千年に一人です。私が知る限りでは偶然彼女と近い世代にもうお一方いらっしゃいましたけれどね。まぁ、そちらは男性でしたので、多分ですが貴方の趣味じゃないでしょうし、今はもう居らっしゃらない方です。つまり大陸中を探しても、容貌については彼女の代わりになれる方は誰一人として居ません」


 売り物ではないと言いつつ、何故かニャキはまるで奴隷商人の様に品性に欠ける商い口を並べ立てた。


 ハステの姿をこの下劣なメメトー人の視線に曝すことは忍びない。私は彼女のフードをつまんで被せ直してやりたかったが、拳を握り締めたまま黙っていることを選んだ。


「銀髪かぁ。初めて見たよ。ボクらメメトー人の年寄りみたいな白髪とは結構違って見えるね。まぁ、ボクが元々帝国人の女の子が好きだから何割り増しかで綺麗に見えてるのかもしれないけど…ウハハハハ!」


 堪らなくなったといった感じで、シギミヒが発作的に笑い出した。おそらく彼の中ではもう世にも珍しいこの銀髪の帝国女を、ランに代わる新たなお気に入りとすることが確定したのだろう。


 元々シギミヒの元に下ったつもりはなかったが、こうなればなんとしても生かしておけない。


「どうしてこんなことを…?」


 私がニャキを非難するように言葉を吐き出すと、


「こうしておくことで後腐れが無くなるんですよ。あなたに理解出来る話でもないでしょうけどね」


 待ち構えていたかのように即答した。


 私はすぐにこの後腐れという言葉の意味を理解した。シギミヒに女たちを帰すつもりが最初から無いのと同じように、ニャキのほうでも山賊どもを生かしておくつもりは毛頭無いのだ。おそらくだが、相手が山賊団とはいえ、秘密任務を帯びて行動しているニャキが許可無く大規模な殺戮を行えば彼女が所属する組織からなんらかのペナルティが課せられるのだろう。だがシギミヒがハステを始めとした女たちを手に入れるために先制攻撃してくれれば、彼らを殲滅する正当な理由が出来るのだ。


 ニャキがここで山賊団全体を敵に回さなければならない理由は十分に理解できる。


 彼女らがここへやって来たそもそもの目的は、彼女自身がそう告げたようにラン=ダーウェの確保だったのだろう。そしてその当初の目的はおそらく今も変わらず有効なのだろうが、それとは別にもう一つあるいは二つ目的が増えたのだ。

 まず、昨日メセがサトヤに対して行った『同化』あるいは『能力の回収』と呼ばれる行為についてだ。ニャキはおそらくダーマに対しても同様の行為に及ぶことを目論んでいるだろう。そのためにはダーマを殺害する必要がある。

 また、ゼームが私に教えたように、国から帯びた秘密任務と競合する目的を持つ対立国の人物を生かして放置しておくことは後々の災厄の種にもなりかねないし、その成果を奪取することが出来れば確実な利益になる。シギミヒ自身の殺害もまた一つの目標となり得るのだ。しかし不確定的な不安要素の排除や成果の奪取のためだけに微妙な関係にある外国の要人を殺害し、万一それが公になるようなことがあっては、ただ放置するよりもずっと直接的な災厄の引き金になってしまうのは間違いない。


 山賊長とその護衛を殺害すればどうやっても山賊団全体との戦闘になるはずだし、そのような戦闘を回避しつつ目的を達成する手段を探すよりも、メセの圧倒的な力を行使して敵を殲滅したほうがはるかに手っ取り早い。つまり理由さえ確保出来れば皆殺しこそが彼女らにとって最善の方法なのだ。


「いいですか?彼女は一旦ここで待機させる。貴方の護衛は私たちと共に地下牢へ進む。これが無理だと言うのなら、ラン=ダーウェをこの部屋まで運んでくるというのも構いません。そこは選択なさってください」


 ニャキがそう言ってもシギミヒはしばらくの間、口に片手を当ててボーッとしていた。彼はハステから視線を逸らせないまま、上の空で返事をした。


「えー…?あー、うん。じゃあ…まぁ、それでいいか…。ええと、ダーマくぅん。やっぱりキミも一緒に行くよ。そして彼女らの気が済むまでそっちのメセちゃんと見つめ合っといてあげなさい」




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