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呼ばれた声の向こう  作者: サク


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7/11

7 息を浅くしなくても

ソーンフィールド家の集まりは、思っていたより小さな席だった。


春の名残を残した午後で、客間の窓は高く、外の光が白い卓布の上へやわらかく落ちていた。花は多すぎず、香りも強くない。声は明るいのに、どこか軽やかだった。


エリンは案内された席で、背筋を伸ばして腰を下ろした。


一人でこういう場へ出るのは初めてではない。けれど、これまでと同じではなかった。以前なら隣にクラリスがいて、どこへ目を向ければよいか、考える前に呼吸が合っていた。今日はそれがない。ただそれだけのことが、思っていたより手元を頼りなくした。


それでも、始まってしまえば席は進む。


挨拶を交わし、近くに座った令嬢の家名を聞き、最近の慈善市の話にうなずく。ソーンフィールド家の姉妹は感じがよく、誰も露骨に人を試すような空気を持ち込まなかった。だからこそ、エリンは自分の置き方を自分で決めなければならなかった。


話題は自然と、季節の装いへ移っていった。


今季はどの色が多いか、どの店の薄絹が評判か、刺繍見本で見た新しい意匠はどうだったか。誰もがよどみなく話す。聞いているぶんには疲れないが、少し気を抜くと同じあたりを回り続けるのだとも思った。


向かいの席の令嬢が、刺繍の話の途中で言葉を止めた。


「ほら、あの……今季よく見るでしょう。蔓草みたいに流れるのに、小花が途中で切れて入る……」


「東方の意匠に似たものですわね」と、別の娘が曖昧に受ける。

けれどそれでは足りないらしく、話はそこで少し宙に浮いた。


エリンは、考えるより先に口を開いていた。


「蔓を続けず、途中で余白を入れる型のことでしょうか。今季は、その切れ目へ小花を詰めるより、少し空けたほうが軽く見えるようです。糸色も二色を重ねるより、近い色で濃淡だけをつけたほうが、春らしいと思いました」


「ああ、それですわ」


言葉を探していた令嬢が、ほっとしたように笑う。

そこから糸の色合わせの話が続き、布地との相性の話になり、思ったより会話が広がっていった。


「でも、流行そのままにすると少し重たく見えることもありますね」とエリンが言うと、数人が自然に耳を傾けた。

「去年の意匠を少し崩して入れたほうが、かえって新しく見えることもあると思います」


その場が、ほんの少しだけ静かになった。


大げさな沈黙ではない。ただ、さっきまで流れていた会話が一瞬だけ形を持った。そこで初めて、エリンは少し話しすぎたのではないかと思った。


「それ、好きだわ」


斜め向かいから声がした。


見れば、テア・ソマーズが頬杖をついたままこちらを見ていた。

さっきまでは少し退屈そうに見えたのに、今は目がはっきり覚めている。


「新しいものをそのまま追う話はよく聞くけれど、崩し方の話をする人は少ないもの」


軽い調子だったが、言い方はまっすぐだった。

エリンは何と返せばよいかわからず、曖昧に微笑むだけにとどめた。


会話はまた続いていった。芝居の話になり、慈善市へ出す小箱の色合わせへ移り、そのたびにエリンは必要なときだけ口を開いた。空いたところをそのままにしておくのが落ち着かなかった。


しばらくすると、菓子が運ばれてきた。


砂糖を薄くまとった焼き菓子と、果実を挟んだ小さなタルト。誰かが、今年はどこの果実が甘いのだったかしら、と笑いながら尋ね、別の令嬢が、それなら西の領地のものがよいと聞きましたわ、と答える。明るく、やわらかく、どこにも角のない会話だった。


その中でエリンは、ふと気づく。


気がつくと、息を浅くしなくても済んでいた。

誰かの隣に合わせて気配を置かなくても、自分の声の長さで話してよい。それだけのことが、思ったより胸を楽にした。


帰り際、皆が立ち上がって別れの挨拶を交わし始めたころ、テアがさりげなくエリンの近くへ来た。


「前から静かな方だとは思っていたけれど」


そう言って、テアは少しだけ笑う。


「今日は、その先が見えて面白かったわ」


「面白い、でしょうか」


「ええ」


言い切られて、エリンは返事に困った。

静かだとか落ち着いているとかなら言われたことがある。けれど、面白いと言われたのは初めてだった。


「きれいに話す方はいくらでもいるけれど、言葉が少しあとに残る人は少ないの」


テアはそう言って、まるでそれが当然の感想であるかのように肩をすくめた。


「またご一緒できるといいわね」


その言葉は、よくある社交辞令にも聞こえた。

けれど声の置き方に、少しだけ本気が混じっていた。


エリンは小さくうなずく。


「ええ」


それだけの返事だったのに、テアは満足そうに笑った。


帰りの馬車に乗り込んでから、エリンは窓の外へ目を向けた。

通りすぎる春の庭、石畳の上に伸びる影、家々の窓に残るやわらかな光。ただ、胸のどこかに、少しだけ明るいものが残っていた。


一人で立つというのは、思っていたほど空っぽではないのかもしれない。

誰かの代わりではなく、自分の言葉として受け取られた気がした。


馬車が角を曲がり、ソーンフィールド家の窓の明かりが見えなくなる。

エリンは膝の上で手を重ね、静かに息をついた。


まだ何かが始まったわけではない。

それでも、今日の午後は、自分の知らない扉がひとつ静かに開いたような気がした。

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