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呼ばれた声の向こう  作者: サク


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10/12

10 届かない言葉


茶会は、午後の光がいちばんやわらかくなる時間に開かれた。


卓のあいだは広すぎず、花も香りの強くないものが選ばれている。庭に面した客間はよく整えられていて、窓の外には初夏の葉が静かに揺れていた。華やかすぎず、それでいて寂しくもない。人を迎える場として、申し分のない設えだった。


その中心にいるクラリスは、やはりよく似合っていた。


襟元の線は落ち着いていて、裾の重みも歩いたときにちょうどよい。可愛らしい顔立ちはそのままなのに、装いがそれを少し抑えて、別の美しさを先に立てている。以前のクラリスは、ただそこに立っているだけで光を集める人だった。今はその上に、静かな重みが加わっていた。


エリンは少し離れた席から、その姿を見ていた。


今日は夫人たちのための茶会で、エリンは家の娘として端に控えている。必要があれば立ち、勧められれば短く応じる。そのくらいの位置がいちばん自然だった。今この場の主はクラリスで、その隣に立つべきなのは母なのだと、もう十分にわかっている。


「まあ、本当に感じのよいお席ですこと」


最初にそう言ったのは、よく通る声の夫人だった。


「若い方のお席というと華やかさに寄りすぎることもありますのに、今日は落ち着いていて、とても居心地がよろしいわ」


クラリスはやわらかく微笑んで礼を言う。

返し方は短すぎず、仰々しくもなく、相手の言葉をきちんと受け取りながら、すぐ次の会話へ渡せる長さだった。


別の婦人が続けた。


「ご年配の方にも、あれだけ自然にお言葉をかけていらしたでしょう。ああいうのは、若い方にはなかなか難しいものですわ」


「本当に」と、さらに別の声が重なる。

「少しも気負ったところがなくて。さすがヘイスティングス家のお席ですこと」


ヘイスティングス家のお席。

その言い方に、エリンの指先がかすかに止まる。


褒められているのはたしかにクラリスだ。

けれど同時に、家の空気も、積み重ねも、そこへ一緒に織り込まれている。


クラリスはまた礼を言った。

笑みも言葉も揺らいではいない。けれど、エリンにはわかった。クラリスがほしいのは、今向けられているような言葉だけではない。


庭が美しいとか、感じがよいとか、そういうことではなくて。

もっと細かなところ――誰にどう笑いかけたか、どこで話をやわらげたか、そういう手つきのほうを、クラリスは見てほしかったのだと、エリンにはわかった。


バートン夫人が、満足そうにカップを置いた。


「それにしても、こういうお席はお人柄が出ますわね。どなたにお声をかけるか、どう受けるか、それだけで空気がまるで違うもの。今日のお席は、本当にどなたにも心地よかったでしょう」


近い。

近いけれど、まだ違う。


バートン夫人は庭や花だけを見ているわけではない。今日のクラリスのふるまいにも、きちんと目を向けている。けれどそれでもなお、言葉は場の主としての感じのよさへ落ち着いてしまう。クラリスが密かに置いた流れの細さそのものまでは届かない。


そこまでわかってしまう自分が、少しだけ嫌だった。


クラリスは微笑みを崩さずに応じる。


「そのようにおっしゃっていただけて、ほっといたしました」


言い方は美しい。

少しも間違っていない。けれど、その「ほっと」がどのくらい本当で、どのくらい表に出してよい形をしているのかを、エリンは考えずにいられなかった。


ほどなくして話題は別の夫人の旅行談へ移り、卓の空気はまたなめらかに流れていく。誰も場を乱さないし、居心地を損なわない。茶会そのものは見事な成功だった。


それでも、ふとした折にクラリスのまなざしが一瞬だけ止まる。

誰かの言葉を受けて笑ったあと、ほんのわずかに間があく。

エリンにしかわからないほどの薄い間だった。


そのたびに、胸の奥で昔の癖が動く。

そこは少し違う。今ほしかったのはその言葉ではないでしょう、と、昔ならもっと近くで言えただろう。あるいはクラリスのほうから、わかるでしょう、と無言で促してきたかもしれない。


今は違う。


エリンはカップを持ち上げ、少し冷めた茶をひとくち飲んだ。

香りはやわらかく、温度は少し足りない。けれどそれを誰かに言う必要はないし、言わなくてもこの席はきちんと続いていく。


視線を上げると、ちょうど向こうでクラリスが笑っていた。

見事な笑みだった。無理をしているようには見えない。今日の主として、きちんと美しい。


だからこそ、余計に思う。

クラリスは今、十分に褒められている。けれど、ほしい言葉はまだ届いていない。


そのことを見抜けてしまう自分は、昔のままなのだろう。

それでも、その見抜いた先へ手を伸ばさない自分は、もう昔のままではなかった。


茶会の終わりが近づき、人々がゆるやかに立ち上がり始める。

挨拶の輪がほどけていく中で、クラリスが一瞬だけこちらを見た気がした。


気のせいかもしれない。

けれどもし本当に見たのだとしても、エリンはただ静かに会釈を返すだけにとどめた。


あのわずかなずれに、昔ならすぐ言葉を渡しただろう。

今はもう、その役目へ戻る気はない。


茶会は成功だった。

誰が見てもそう言うだろうし、実際その通りなのだと思う。

ただ、その成功のすぐ下に、届かなかった言葉が薄く残っていることだけを、エリンは知っていた。


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