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126話 ライエルVS見えざる敵②

 

 ライエルは、今まさに命を狙われているのだ。


 さらに姿なき声は続けた。

「一人でお散歩しちゃダメってママに習わなかったのかよ!? 軽率な金髪兄ちゃんよ! ありがたく思え! テメーらをブチ殺したくてずっと我慢してたんだよ!! よくも仲間のロイを嬲り殺しにし、ラグナの野朗なんて、身体が殆ど溶けてたぞ!! テメーらはアイツらの100倍いたぶって殺すと決めたぜ!!! ギャハハハハハ!!!!」

 死の恐怖に耐えるライエルは頭をフル回転させた。


 牛も壁もコイツの仕業!?

 何故、すぐに僕を始末しない!??

 多分、油断してるからだよな!???

 コイツは僕が単なる乗組員の一人で、非戦闘員だと思って、余裕で殺せるけど、できるだけ、ビビらせて痛めつけてから殺す気なんだよな!????

 信じるぞ??!

 かますぞ????!

 ブラフを!!!!

 

 ライエルは姿なき敵に言葉を放つ。

「あれはシウランとルァがやったことです! 僕は関係ない!! 誓って僕は殺しはやってないです!!! せめて命だけは見逃して下さい!!!」

 姿なき敵は迂闊にもライエルの見苦しい命乞いの言葉に返事をしてしまった。

「知るか! 金髪坊ちゃんよ! テメーみてーな弱っちい奴は散々拷問の玩具にして、壊れるまで遊んでやるぜ! グヘヘ、テメーは全身、箱詰めにして、あの忌々しい赤髪と青髪のメスガキへの宣戦布告のプレゼントにしてやるよ!! ギャハハハハハハハハ!!!!」


 ライエルは決して悟られないようにガッツポーズを取った。


 コイツは油断している。

 しかも僕の言葉が届くということは近くにいる。

 つまり遠距離からの術式じゃない。

 しかも言動から察するに、どうやら僕を嬲るつもりらしい。

 ということは、さっきの牛みたいに、いきなり首を刎ねられるといことはない。

 多分手足、急所を外す攻撃に出ることは読めた。


 ライエルはこの窮地を脱する算段を苦肉にも見出した。 

 そして自慢のサラサラのブロンドの前髪をかき上げる。

「どうやら、海賊共は勉強不足のようだ。僕のことを調べてないな。教えてやる、僕はライエル=シュターデン。シングルのトレジャーハンターだ」


 ライエルが指をパチンと鳴らす。


 すると無数の蝿がライエルを包み込み、まるで黒い霧のようになる。

 黒い無数の蝿が路地に溢れ帰り、周囲の人々はパニックを起こす。

 この路地がおびただしい無数の蝿によって黒く染まり、人混みは黒い塊となった。

 姿なき敵が思わず叫ぶ。

「蝿使いか!? ふざけやがって! 街中の人間、皆殺しにしてやる!!」

 今度はライエルが姿なき声で返す。

「貴方は勘違いをしている。私がただの目眩しの為に蝿を使役したと思っているんですか? 学がない海賊に教えてあげます。蝿の聴覚は人間では聞き取れない微弱な音さえ感知できます。私はずっと貴方の声の方向を特定していたんですよ。すでに貴方の居場所は捉えてあります」

「俺がどこにいるか分かったからって蝿如きに何ができる!! クソがっ!!!」

「さらに貴方の勘違いです。私が使役するのは蝿だけじゃない。この街にいる虫、全てだ。この街にサソリがいて良かった。オブトサソリが貴方の服の中に潜んでいますよ。さぁ神経毒の痛みで派手に踊って下さい、ショーの始まりですよ!」

 ライエルがさらに指をパチンと鳴らすと、姿なき敵の絹を裂くような悲鳴が上がる。

 姿なき敵は全身をサソリの尾の毒針に刺され、激痛の余り、その場でのたうちまわり、自身にかけた術式が乱れる。


 ライエルは顔こそ見えなかったが、人混みから半透明な男が姿を現した。

 どうやら透明になって隠密に暗殺するタイプの刺客らしい。

 身体的特徴も捉えた。

 片手の指が六本ある。


 ライエルはその気になれば、致死量の毒で殺害することもできた。

 だがこれだけサソリに刺されれば再起不能だろう。流石に殺しはウチの問題児じゃあるまいし、やり過ぎだと躊躇ってしまった。


 それがいけなかった。

 痛み苦しみながら、かすれた声で刺客の男は呟く。

「.......使役タイプの能力者なら、知ってるぜ……。確か使役してる式神や獣がダメージを負うと、本体もダメージを負うんだよな……」

 すると男は全身を炎に包み込んだ。

 同時にライエルは全身が焼けただれる感覚に陥る。

 呼吸ができなくなり、意識が朦朧する。

 しかし、最後まで瞳を閉じなかった。

 その目には眼前から煙と共に立ち去る男の影が見えた。

 そして男は再び全身を透明になって姿を消した。

 致命傷を負ったライエルだが、追撃が来ないことでひとまず窮地を脱したことを悟り、かろうじて保っていた意識を失う。


 これだけ騒ぎを起こしたんだ。

 シウラン達ならすぐに駆けつけてくれる。


 ……僕は信じるさ……。



 だが現実は無情だ。

 意識を失ったライエルを起こしたのは、例の酒場のマスターだった。

 そして倒れているライエルに水をぶっかけ、罵声を浴びせる。

「そんなところで寝てんじゃねー! 白人野朗! さっさと失せろ!」


 いったいどれくらい意識を失っていないのだろう。

 

 だがライエルは確信した。


 こんなにも自分がピンチだったというのに、この物語の主役であり、海賊達に逆恨みされている張本人のシウランは呑気に観光していることに。


 ライエルは歯を食い縛りながら、何とかシウランやクロエ達に海賊の襲来を知らせようと、立ち上がった。


 早く、早く知らせなければならない。


 蹌踉めきながらもライエルは雑踏の中を進んで行った。


 その後ろ姿は気高く、眩しかった。


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