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第125話 ライエルVS見えざる敵①

 

 シウラン達のインダス海航行は順調に進み、当初の目的地であるバリネシア島群諸島の手前、シャム王国のマライ港湾都市まで辿り着いた。

 

 ここは海のシルクロードの中心と言われ、東西の海上交易の窓口であった。

 東方海域最大の港街である。 


 だがここから先は、発展途上国ばかりなので、物資の調達も期待できない船旅となる。

 シウラン達はここで水や食料の補給物資を調達すると共に、長い船旅の休息を取ることを決めた。


  もっともシウラン達は、今までの船旅で物資の調達や情報収集はイズモに丸投げしてきた。

 無論、今回もその腹づもりで、シウランは未知の国の文化を観光する気満々だった。

 イズモも最初から期待していなく、

「お前らはホテルで休んでろ、ごゆっくりとな」

 とヤケクソ気味に告げて一人で港市場に向かおうとしたが、クロエとその弟、ジャックは常識があるので、当然イズモの手伝いに付き添った。

 非常識なシウランとルァ、デーヴァはさっそくホテルを出て、当たり前のように街へ観光に繰り出した。

 ライエルを置きざりにして。

 何かを察したのか、ペットの子猫のキアさえ、ライエルから離れて、シウランについて行った。


 そう、ライエルは先日シウランにでっち上げの嘘を吹聴したせいで、シウランから疎まれていた。

 シウランは義理人情に厚く、仲間を大切にする性格だ。

 だからこそ、ライエルが自分の薄っぺらい見栄のためについた、下らない作り話のラブストーリーで純真な心を欺いたことが許せなかった。

 シウランはライエルをもっとボコボコに殴り続けたかったが、それでは弱者をなぶることになる。

 だから、しばらく口を聞かないことにした。

 相棒のルァもデーヴァもライエルの行為を軽蔑し、距離を置いた。

 結果、ライエルは一人きりになってしまった。 


 哀れな男である。

 自業自得の因果がライエルを孤立させた。


 ライエルはホテルのベッドで休もうと思ったが、孤独感に耐えられなくなり、ホテルを出た。

 南国の陽が眩しく照らす。

 人が賑わう雑踏の中、肩を落として、ライエルは歩んでいった。

 気晴らしになるかと思ったが、賑やかな人々の声の雑音がさらにライエルの孤独感を蝕んだ。

 そのノイズがライエルを嘲笑してるかのようにさえ、錯覚させた。

 ライエルはぶつぶつと独り言を呟き始めた。

「どうせ私なんか……私なんて……仕方ないじゃないか……」

 そう、ライエルは狭い船旅でストレス障害を抱えていたのに、シウランのシカトが決め手となり、完全なノイローゼに陥ってしまっていた。


 これがいけなかった。

 シウラン達は海賊達に狙われているということをすっかり忘れてしまっている。

 いや、シウランは狙われているのは自分だけだと勘違いしていた。

 燕の海賊、刻の刃は幹部二人、その他部下多数をシウラン達のせいで失っている。

 怨嗟の感情はシウランだけではなく、その仲間にまで及んでいた。

 幸い、物資調達のイズモはベテランハンターのクロエに護衛してもらっている。

 シウランも頼れる相棒のルァがいるから、側にいるデーヴァも安全だ。


 ここに一人、かつてギャングに拉致された輝かしい実績を持ち、はたから見ても貧弱そうな絶好のカモがいる。


 海賊達はラグナの件から学習し、シウラン達が単独行動する機会を伺っていた。

 特に今まで痛い目を見ていたルーファウスは念を押した。


「赤髪と青髪のメスガキ共が一緒にいる時は絶対に手を出すな! ラグナみたいにドロドロにされるぞ!」


 そして海賊の刺客の一人、がうわ言をぶつぶつ呟く、金髪の西洋人のいかにも軟弱そうなライエルを狙った。 


 格好のカモがネギを背負っている。


 そのライエルは標的にされてるとは知らずに、自己嫌悪に陥りながら、街外れまでフラフラと歩いていたのだ。

 刺客から見れば、殺してくださいといわんばかりの愚行だ。

 そんなことも知らずにライエルは少しでも憂さを晴らそうと酒場でヤケ酒を飲もうとした。

 しかしライエルが酒場に近づいた途端に店が閉店してしまう。

 こんな看板をぶら下げて、

『白人お断り。外人はさっさと帰れ!』

 ライエルが見渡すと周囲の人々がライエルを遠巻きに煙たがっていた。

 ライエルはなんだか、この国が嫌いになった。

 

 僕が何したっていうんだ……。


 赤道近くの灼熱のような暑さ、肌が焼けるような強い陽射し、滲み出る汗が鬱陶しかった。

 不衛生な街並みだ。

 路上で、牛が糞尿を漏らしても、誰も片付けない。

 ロクに舗装されてないせいか、ライエルの靴は泥塗れだ。


 ここはロクでもない街だ。

 もうホテルまで引き返そう。


 そうライエルが思い、振り返った時、それは起きた。


 なんと先ほどいた牛の首から上が、突然、無くなり血飛沫を上げていた。

 力をなくした首無しの牛の胴体は、ばたりと地面に崩れ落ちた。

 次に、驚いたライエルが寄りかかろうとした壁が真っ二つに裂けた。


 何が起きているのか、ライエルは半ばパニックを起こしていた。

 すると姿なき声がライエルの鼓膜を襲う。

「ちっ! 運の良い野朗だ。偶然とはいえ、全部避けやがって! 牛さんが可哀想だろーが! テメーが避けたせいで首から上が無くなったんだ! ゲハハハッッ!!」

 咄嗟にライエルは周囲を観察する。

 雑踏の中は人が溢れている。

 しかし、声の主と思える姿はなかった。

 どこから攻撃されたのか、そもそもこれは遠距離から放たれたものなのか、それとも人混みに紛れているのか、ライエルにはわからなかった。


 だが確信したことはある。

 自分は今襲われているのだ……!


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