127話 囚われのシウラン①
ライエルが死にかけている中、シウラン、ルァ、デーヴァの三人は川で舟遊びに興じていた。
小さな船をシウランは櫂で巧みに操作して、小さな滝の川を下る。
マイナスイオンと清流からの水飛沫で三人は涼をとっていた。
ルァがハッパを吸いながらぼやく。
「せっかく陸に上がったんだから、別のところ観光したかったわ。東南ではケシの実で珍種のハッパが売ってるらしいわ。後で寄りましょう」
次にデーヴァが、
「この国は熱帯地域なのに、露出の多い服を禁止しています。この暑さで長袖を着る文化は非効率です。それに変わった風習もあります。左手で握手することは宣戦布告を意味するそうです。興味深いです」
シウランが船を漕ぎながら、
「潮風と違って、川の風は気持ちいいな! 涼しいぜ! ルァ、泳いでもいいか?」
「駄目よ、そしたら誰が船を漕ぐのよ。私は嫌よ」
デーヴァも首を振る。
「シウラン、海と違い、川の流れは急です。着衣水泳には溺れる危険性があります。またこの淡水の生態系には危険な生物もいるのでオススメできません。泳ぐなら海のビーチを提案します」
「わかったよ。川で涼んだら、生春巻きってヤツ食べに行こうぜ。腹が減った。あ、あそこにワニいるぞ。美味そうだな、食えねーかな?」
それを聞いてルァが溜息をつく。
「ワニを見て、美味そうって発想する女の子は多分あなただけよ……。そういえばなんか街の現地人が宙吊りの壺を目隠しして割ってたわね。あなたも参加してみれば?」
シウランが無邪気な笑顔で快諾すると、デーヴァが思案顔をする。
「不可解です。何故人は壺を割るだけであんなにも、楽しくはしゃげるのでしょうか……」
それに答えるように、ルァは優雅にハッパを吸う。
「デーヴァ、安心なさい。この船漕いでるヤツなんて、多分いい年して鬼ごっこでも夢中になるヤツなんだから」
ライエルが死にかけているのに、シウラン達は観光を満喫していた。
愚かなシウラン達は油断していた。
海賊は海で襲撃する存在だと誤解していた。
そんなことはない。
海だろうが、陸だろうが、川だろうが、海賊はシウラン達の寝首を刈る気満々である。
ここでデーヴァが異変に気付く。
「シウラン、気のせいでしょうか。先ほどのワニが群れになって、この船に集まっている気がしますが……」
気のせいではない。
今シウラン達の乗っている船の周囲は大量のイリエワニ達にすでに囲まれている。
シウランも思わず身構える。
しかしルァはハッパを吸いながら余裕そうにしていた。
「ここは川よ? 私の水魔法の独壇場じゃない。こんなチンケな水トカゲなんて蹴散らしてやるわ」
ルァが片手で掌印を結ぼうとした。
その刹那だった。
三人が皆川辺のワニ達に目を奪われているその瞬間だった。
突然、シウランの身体に幾重の鎖が巻き付いた。
シウランが自身に巻きついた鎖を認識する。
それを凝視ししてしまったルァとデーヴァ。
一瞬の硬直。
次の瞬間にはシウランは忽然と姿を消してしまった。
集まっていたワニ達が散っていく。
あまりの突然の出来事にルァとデーヴァの二人は言葉を無くす。
そして深く痛感する。
海賊達にしてやられたと。
一刻後、海賊達のアジトにて。
シウランは身体中鎖で拘束され、椅子に縛りつけられていた。
鎖で拘束されたからと言って、むざむざ無抵抗になるシウランではない。
道中はかなり暴れた。
危うく縛っていた鎖が破壊されるところだった。
しかし海賊達も必死だ。
巨竜を失神させる麻痺毒や、大量の阿片を使い、シウランの行動を不能にした。
薬でぐったりしたシウランは周囲を見渡す。
そこには因縁のあるルーファウス、ウェッジ、ユーリ、ジーク、他にも知らない海賊達がいた。
ルーファウスが高らかに笑う。
「いいざまだな、小娘。この時を待っていたぞ! 忌々しいガキに復讐する機会をな! たっぷり拷問してから魚の餌にしてやる!」
シウランは脅しの言葉には動じず、ただ周囲を見渡す。
そして持てる力を振り絞って鎖を破ろうとすると、ターバンを巻いた男がよろめく。
「ルーファウス、コイツ。薬が効いてねーのか? 凄い力で俺の鎖を引きちぎろうとしている……」
シウランはその言葉で自身を拘束している人物を確信した。
そして、何事もないかのように要求を告げる。
「おい、海賊ども、今すぐこれを解け。今なら全員半殺しで許してやる」
シウランの言葉にウェッジが激昂する。
「テメェ! 状況がわかってんのか! お前はこれから嬲られるんだぜ! ラグナやロイの仇を取ってやる!」
シウランが返す。
「なんだ? アウトストラロピテクスとの強制配合でもすんのか?」
「どんな発想してやがるこのガキ! そんな悪趣味なことするわけあるか! どこの変態だ!
ルーファウスが呆れる。
「まぁ、俺も元聖騎士だ。女、子供を痛ぶるのは趣味ではない。ちゃんと専門家を連れて来ている」
ルーファウスの傍らにはまるで骸骨のようにやさ細った老人が目をギラギラさせながら、シウランを見つめていた。
「イヒヒヒ、元気な赤毛のお嬢ちゃんだ。私の芸術を見せてやるよ。獄悶のギュネイだ。さて、どんな鳴き声が聞けるかね、クヒヒヒヒヒ」
異様な存在感と、漂う雰囲気に、シウランだけではなく、ルーファウスやウェッジ、ユーリまでドン引きしている。
ルーファウスは少し汗をかきながら、ギュネイに尋ねる。
「流石、プロだな……。ちょっとスプラッターは苦手でな。何から始めるんだ?」
ギュネイは、キヒヒと笑い、笑みを歪める。
「まずはそのお嬢ちゃんの心を壊す。クヒヒヒ、いい声で鳴いてくれよ。さぁショーの始まりだ」
だがシウランは恐怖に怯えていなかった。
この絶望的な状況でも屈することはない精神と打破する目論見があった。




