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120話 激闘! 大海の主


 眩い朝日が果てしなく広がる青い大空に登る。


 照り返す眩い陽射しと反射する熱波で、甲板にいるシウラン達は汗を垂らす。

 暑さだけではない、いまあるそこの危機への緊張と恐怖の感情が入り混じり、冷や汗が湧いていた。


 険しい表情のイズモが重い口を開く。

「シウラン、お前。前にプレシオサウルスの首を捻じ切ってなかったか? ……今回もどうにかならんのか?」

 シウランが難しい顔をしながら、答える。

「あん時は長い首を海面から出してたからなぁ……。動きもトロかったから殺れたけどよ……」

 ルァが首を横に振る。

「相手はモササウルスよ? 神出鬼没で、一瞬で海面にいるプレシオサウルスだって丸呑みにして、海中に引き摺りこむのよ!? この船だって、いつ襲われてもおかしくないわよ!?」

 ライエルがおずおずと提案する。

「ルァの水魔法なら? 海上なら水魔法は存分に発揮できるのでは?」

 ルァが震えながらハッパに火をつける。

「水魔法で大津波や大渦は作れるけど、この船も巻き添えになるわ。むしろ海中の生き物には水魔法は相性が悪いの。水弾も水斬の威力も海中なら威力は半減よ……」

 シウランがデーヴァに尋ねる。

「デーヴァ、さっきの反応にシャインは感知できなかったのか? あんなにでっかい海竜だぜ?」

 デーヴァが無情にも首を振る。

「観測システムでは一瞬だけ感知できましたが、シウランの叫び声と共に、反応が無くなりました。シャインは水深15メートルまでしか観測が出来ないんです。海中探査は仕様対象外なんです」

 イズモが取り乱す。

「おいおい水深15メートルを一瞬で飛び跳ねるなんて、どんな怪物だよ……。大海の主に出くわして、生き延びた船乗りはいねーぞ……。どうする?! どうすんだよ!? こんなところで死にたくねー!!」

 ライエルはすでに遺書を書こうとしていた。

 ここでシウランが意を決する。

「こうなりゃ海中戦だ! 海の中で泳いで闘うしか、道はねー!」

 ルァがうんざりした顔で観念する。

「脳筋な戦法だけど、それしか抵抗できる手段はないわね……。水魔法でサポートするけど、モササウルス相手に通用するかしら……」

 暗い雰囲気の中、既に水着に着替えていたクロエが槍も奮って、喝を飛ばす。

「らしくないわね。海トカゲ如きに取り乱すなんて。ハンターとしての腕を見せてやるわ。さっさと着替えて来なさい! 一番銛は頂くわよ! ライエルも着替えて来なさい!」

 ライエルが思わず面食らう。

「……え? ……私……?  先輩、私泳げないし、戦闘、得意じゃないですよ……?」

「だからよ! 私に策があるわ!」

 

「ライエルの水着姿初めて見たけどダセぇな……。ステテコパンツかよ」

 シウランとルァ、クロエが下着のように布面積の少ないビキニで肢体を華々しく、堂々と着飾ってる中、ライエルは恥ずかしそうに前を隠す。

「仕方ないでしょう? 僕、泳ぐことなんてないと思ってたから、イズモさんのパンツ借りてるんですよ!?」

 イズモは気まずそうにタバコを吸いながら、ライエルに今生の別れを告げる。

「あー生きて帰れるとは思ってねーけど、万が一生き延びても、そのパンツは捨ててくれ。なんか性病とかもらいそうだから返さなくていいぞ」

 その言葉にライエルは歯軋りする。

 すると、クロエがシウランに指示する。

「シウラン、貴方のありったけの力でライエルを船から投げ飛ばして。出来るだけ遠くに。全力で思いっきり投げ飛てちょうだい」

 ライエルが何をこの人は言ってるんだ、という顔を一瞬するが、途端に重心を喪失する。

 シウランがすでにライエルを持ち上げていたのだ。

 そして全身全霊の力を込めて、水平線の彼方に放つように、ライエルを海の彼方に放り込む。

 ライエルの姿は次第に小さくなっていく。

 船から遠く離れた沖にボチャンと音が鳴った。

 遠い甲板からでもわかる、泳げないライエルが苦しみ、もがき、海面をバシャバシャとする姿が。

そしてクロエは作戦を告げ、海に飛び込こもうとした。

「ライエルは囮よ、あれだけ海面を派手に荒らしてるんだから、モササウルスの注意はそこへ向くはずよ。あの海竜は音で獲物を感知するタイプだわ。急ぐわよ、ライエルが喰われる前にモササウルスを退治するわよ!」

 勢いよく槍を持ってクロエが海へと身を投げ出す。

 シウランとルァも遅れをとりまいとクロエの後に続き、恐怖に染まる海へダイブした。

 歴戦のハンターの勇猛さを目の当たりにしたシウランは胸の鼓動を強く高まった。

 クロエの果敢さに触発されたのか。

 それとも未だ見ぬ強さに憧れたのか。

 今のシウランに恐怖や迷いはない。

 ただこの胸の高鳴り、心の情動に身を委ねた。


 しかし、それは一瞬で崩れた。

 海中の中では巨大な海竜の黒い影が渦を巻いて、海面のライエルに今まさに襲いかかろうとしていた。

 海中で思うように身体が動かず、とてもライエルを救うことはできない。

 シウランは自身の無力さを呪った。

 だが、その青い瞳は捉えていた。

 猛然と海上に迫るモササウルスにクロエが立ち塞がるのを。

 そしてクロエは海の中を燕のように素早く動き、槍の斬撃をモササウルスの背中に叩き込むのを。

 竜巻のような斬撃の嵐は大渦になり、海中を文字通り血の海にする。

 モササウルスの猛烈な尻尾や巨大な顎の反撃を紙一重で避け、執拗に背中、脊髄の部位に槍の斬撃を叩き込む。 

 シウランはクロエの戦いに思い知らされた。


 そうか、ああ戦うのか……。

 何も首だけが急所とは限らねぇ。

 背中の骨に全身の神経が集まってるんだ。

 そこを狙ってやがんのかよ……。


 すでに勝敗は決した。

 モササウルスがもがき苦しみながら、身体の自由を失い、無情にも深海へと沈んでいく。

 勝ったのだ。

 生き延びたのだ。

 だが、その勝利にシウランは無条件に喜べなかった。


 歴戦のハンターであるクロエの前に、巨大な海竜、モササウルスに対し、自分は非力な存在だと自覚してしまった。

 悔しかった。


 思わず海中で叫んでしまった。

 これがいけなかった。

 シウランはモロに海水を飲み込んでしまい、完全に溺れてしまった。

 傍にいた相棒のルァが苦笑いを隠しながら、シウランの海中救助をするハメになった。

 そしてライエルは恐怖の余り、失禁し、失神して、海面を漂っていた。



 波乱の海上の上空にはプテラノドンが舞っていた。

 その背には大海の主を操っていた刻の刃の幹部、ユーリがほくそ笑み、立っていた。

「いい感じの陽動にはなったかしら? やっぱりペット一匹じゃ役不足みたいね。やるじゃない」

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