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君の理想になるまで  作者: ずらいお
あらすじと2週間前の出来事
6/17

5話 見慣れたコンビニのイレギュラー

夜の帳が下りて街灯の明かりだけが辺りを照らす夜道


エンジン音や叔母様達の会話で賑わいを見せている昼間と違って、夜の街は静かで落ち着いた様子だ。


おまけに春とはいえまだまだ寒いので街灯に虫が群がることもない。


自分から出る白い息を見つめながら歩いていると、一際眩しい光を放つコンビニが見えた。


実家のように感覚的に内装を知っているコンビニ


売り場は店員さんと同等レベル、いやそれ以上に分かっていると言っても過言ではない。


店内に入ると、店員さんが眠っていた。


普段見ない顔なので、バイトの方なのだろう。


こんな夜分にご苦労様だ


僕は磨き抜かれたタイルを歩き、封筒売り場まで直行する。


「コンビニで封筒なんて初めて買うよ」


値段も気にせずパッと手に取り左手に持つ


余った分の使い道などを考えながらついでにお茶を買おうとリーチインの方へ行くと、見たことのない人がいた。


栗毛のロングヘアーにケルト調の刺繍が入った裾のコートを羽織っている


まるで異世界からきたような珍しい風貌をした女の子がリーチインの前で目をキラキラさせている。


僕に見られている事には気づいていなさそうだ。


「これはなんというものなのでしょうか」


「シェルフにしては大きいですし、パネルにしては奥行きがあります」


「ガラスの向こうにあるのは何でしょうか」


早くお茶を買って退散しないといけないのは分かっているが、先客がいる以上前に進めない


それに、一人でぶつぶつ喋る彼女の雰囲気から、お邪魔してはいけないような気がしてならない。


それにしても綺麗な人だ


つやのある肌にキューティクルの行き届いた髪


間違いなく人間風貌ランキングのトップにいるであろう女の子だ。


そんな人を間近で見られるなんて眼福だ


「綺麗な人には不思議な力がある」


昔、健也に言われた事があったが、まさにこのことだろう。


もっと近くで見たいと、自然に体が吸い寄せられていく。


その時事件が起こった。


ガサッ


あまりに夢中になってしまった僕はあろうことか棚の袋菓子を一つ落としてしまった。


やらかした 心の中で自分の不注意を叱ったが、結果が変わることはない。


彼女はこちらに気づいて声をかけてきた。


「あなたは」


こうなってしまってはもう逃げることは出来ない


「あ、いや、あ、えっと」


さっきからずっと見ていたと正直に言うなんて無理だし、仮に言ったら警察沙汰になるかも


もういっそ即興ででっち上げのポエムを詠む?


きっと上手くいくよね、うん


覗いてた事実をどう誤魔化すか、それにばかり気を取られて、一人で混乱している。


終いに変な詩を作ろうとまで考える位、彼の脳は縦横無尽に暴れていた。


「あの‥」


不思議そうに見つめてくる彼女


その時、僕は何でもいいから会話を繋げなきゃ


そう思い、脳死で言葉を選んだ


「僕は、ただの客ですよ。 ただの常連さんです」


低めの気持ち悪い震え声での返答


これはやらかしたぞ


ただでさえ不審者のような登場なのに、声までキモヲタとは救いようがない


絶対に引かれたわ


これは女性を気持ち悪い声で不快にさせたよね罪で極刑だな、僕の人生終わりましたぁ


まるで即興の一人芝居のようにオチを作り自滅して真っ白になりかけている僕


そんな僕にかけられた言葉は、衝撃的だった。


「あの、このお店の常連さんなんですよね?」


「この商品はなんというのですか?」


彼女の立っていたリーチインを指さして問いかけてきた。


あれ、お咎め無しですか、許された?


なんて寛大な心の持ち主なんだ


僕の気持ち悪い声で不快にさせたよね罪はたった今寛大な女性裁判官によって無効化されたのだ。


ありがたや、ありがたや


このご恩は一生忘れないでしょう


スポットライトが当たっているかのように僕目線の彼女はとても神々しい天使様に見えた。


そして僕の妄想劇は一旦終止符を打たれ、現実の会話に戻っていくのだった。








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