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君の理想になるまで  作者: ずらいお
あらすじと2週間前の出来事
13/17

11話 駅での会話

いよいよやってきた当日の朝


カワラヒラがキリリリと鳴いているのが聞こえる。


僕はいつにも珍しく早く起きれので、窓を全開に開けた。


「やっぱり早く起きるのって気持ちがいいね。」


独り言から始まる朝

アラームを4回設定することの大切さに今頃気づいた勇太は、布団から出た勢いのまま部屋を脱出した。


「あら、今日は早いのね。」


リビングで朝ご飯の準備をしているお母さんに声をかけられた。


「今日はやることがあってね、8時には出ないと行けないからよろしくね。」


いきなりの外出宣言に驚いた様子を見せるお母さん


「そう言うことはもっと早く言ってね


私だって行ってくれれば合わせられるのに」


あきれた顔をして声を張っているせいか、ちょっと怒られているように感じる言い方


「ごめんなさい、今度からちゃんと言うから」


ぼくがそう言うと、冷蔵庫の方へ食材を取りに行ったので、洗面台の鏡の前に立つ。


そこにはのほほんとした顔で立っている僕が映っていた。


髪の毛の横側がぴょんと伸びて、やや寝癖が目立っている。


いよいよやってきて迎えた当日の朝、これまで色々挑戦してきたけど、どれも上手くいかなかったような気がする。


でも、今日までやって来た成果を発揮して絶対に一次選抜勝ってみせる。


蛇口をひねり、水の付いた手で顔を叩く


飛び散る水が鏡に張り付いて粒になり、光を反射して白く光る


「うわ、兄さん鏡に跡が付くようなことしないで下さいよ。」


後ろから来たのは弟の勇嗣だ。


「今日は早起きだな、何か用事か?」


「いつもこれくらいに起きてます。それに用事があるのは明日です。今日はこれと言った用事は無いですよ。」


「そっか、」 その答えにふーむと頷く。


「兄さんは今日用事があると話してましたね。

またあのジムに行くのですか?」


あの日、扉を開けてくれたのは弟だったらしい。


ひどく疲れた様子の僕に水を飲ませてくれたと前にお父さんから聞いた。


心配してくれる弟が大好きだ。(シスコンとかそう言うのではない)


「違うよ、人に会いに行くの」


弟は驚いた様子を見せたが、すぐ元の顔に戻って


「兄さんはその髪で会いに行くのですか?」

と言った


「あっそんなことないよ」


「その答え方、図星ですね、」


お母さんに似たあのあきれ顔


「うるさい、今から直そうとしてたんだよ。」


とっさに吐き出すように言ったが、弟は僕のすぐそばに寄ってきた。


「な、なんだよ」


「僕が直してあげますから座ってください、そんな髪型で人に会うなんてどうかしています。」


そう言うと、洗面所の戸棚からワックスなどの整髪剤や櫛、霧吹きを取り出した。


「えぇ、ガチ勢じゃん」


「見た目に気を遣わない男はモテないですし、周りの目線もあまり良いものではないです。


体がダメなら身だしなみには気を遣ってください」


「‥‥はい」


ごちゃごちゃ言いながらも弟の腕は確からしい。


僕はあっという間に寝癖が消えて、短髪のイケてる男子になった。


「おお、髪型が違うだけでこんなになるんだ。


凄いな、勇嗣」


「ま、まぁこんなものです。」


まんざらでもなさそうな顔で左の方を見る弟


「ほら、もう7時半ですよ、早くご飯食べて言ってください。」


「すっと元の顔に戻るのガチで怖いから辞めて。」


「これが私の個性ですから。


僕はリビングに戻り、出ていたハムエッグを食べて8時5分に家を出た。」



ここは家から徒歩10分ほどにある駅


自転車で行けば5分もかからないので、そこまで焦る距離ではない。


ここから横浜までは乗り換えが必要らしいので間違えないように行きたい。


しかし、ここで重大な問題に気づいた。


乗る電車は分かっても切符の値段が分かんない。


仮に間違えたらどんな罪になるのか分からないが、窃盗罪とか詐欺罪に当たるのだろう。


警察と交番デートで一日終了という最悪のシナリオが脳をよぎる。


まだ17という年で履歴書に罪状が載るのはまずい。


進路がどうであれ、犯罪件数はない方がどの道有利だと言うのを知っているので、僕は近くのおばあさんに聞いてみた。


「すみません、あのここから横浜までどのくらいですかね?」


「あぁ、よこはまぁ、わたしも昔はよく行ったものだよ。


横浜はね、よくおじいさんと牛鍋を食べたもんだよ。


あ、あとシウマイもおいしかったねぇ、


この歯じゃ食べられないけど細麺のサンマーメンもおいしかったねぇ。」


「あの‥」


どんどん話しがそれていってるんですが?


でも、こんなに楽しそうに喋られているお婆さんの話を遮るのは、心苦しい。


「あの、横浜まででしたら私と行きますか?」


愛あるところに神あり、困っていた僕に手を差し伸べるようにやって来たのは、黒縁めがねに黄土色のトレンチコート、パソコン入りの鞄を持った営業職っぽい人だった。


「あ、えっと、おねがしします。」


盛大に噛んだけど、彼は気にしていない様子で切符等の手続きを丁寧に教えてくれた。


恩情ってこんなに暖かいんだ。


まだまだ日本も捨てた物じゃないなぁ


涙を流しながらホームで立っている僕を不思議そうに見ている人がちらほらいるが、気にせず、電車に乗り込んだ。


ガタンガタンと揺れる電車内


青色の椅子に座る二人。


先程の件はありがとうございました。


ぺこりとあたまを下げる僕に


たいしたことではないです、顔を上げてください。


と首を振る彼。


彼はシステムエンジニアで、横浜のグループ会社に打ち合わせに行く予定だったらしい。


なんでもメールサーバーの改良をしているのだとか


30代で様々な資格を取っていくうちにこの道が良いなと思って選んだらしい。


僕は「凄いですね!」


とお決まりのように褒めるのだが、彼自身将来が不安らしい。


なんでもサーバーは精密で、小さなミスを見逃さないようにストイックにやらないといけないから体が持たないそうだ。


それでも誠実に業務を行っている人は輝いているなと思った。


僕は横浜駅で別れを告げ、会場を目指して歩き始めた。










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