六
勇一は学校から帰るなりすぐに異変に気付いた。
何かが違う。
「な、何だ? なん、だ……か、急に体中が……くっっ……くそ……亜、みめ……お、おぼえ……てろ……よ」
勇一は捨て台詞を吐いて深い深い眠りに就いた。
みゆきちゃんは心配していた。
勇一に何回もメールをしているのに返事が来ない。
(いつもなら絶対返事を返してくれるのに……)
みゆきちゃんは今日の勇一の様子について思い出していた。
(今日の勇一くんは顔色が悪くて……死にそうだったな……何か変なものでも食べたのかな?)
そこに勇一が居たら絶対『双子作 ロシアン・ルーレット』の威力について朝方まで熱く語ったことだろう。
(まあ、明日になればわかるよね! 勇一くんに聞いてみよー)
自己解決したみゆきちゃんは『芸術部』で作るお菓子について考えてから寝ることにした。
翌日の学校で『石田は『風邪』が完治するまで休むそうだ』と先生に言われるとは思ってもみないみゆきちゃんなのであった。
勇一が深い深眠りに就いている間、石田家は大変だった。
「やっと家に着いたわ!」
勇一の父、優司と母、友子は亜未、麻奈からの連絡を受けて温泉旅行から急いで帰って来た。
「勇一が大変ってどういうことだ?」
「さあ?」
優司と友子は家に入るためにドアを開けた。
ドアを開けるなり目に飛び込んできたものは倒れている勇一だった。
「どうしたの! 勇一!」
勇一に何が起こったかわからない二人は亜未、麻奈を呼んだ。
「どうして、勇一は倒れてるの?」
「さあ~?」
双子は同時に言った。
「あなた達何か知ってるんじゃないの?」
「知らないよ!」
双子にも分からないようだ。
「何か変なものでも食べたんじゃないのか?」
「変なものって何よ?」
「それは……その辺に生えてる草とかさー」
「もう! そんな訳ないでしょ? 昨日は何食べたの?」
「近所のコンビニの弁当!」
それは双子が本当に食べた昨日のご飯だった。
「勇一も食べたのよね?」
麻奈は言った。
「……『食べる?』って聞いたけど何も言わなかったから……」
亜未が言った。
「寝てたの! 居間で!」
「また~? 確か、ママたちが出掛ける時も居間で寝てたわねー?」
「居間が好きなんじゃないのか?」
「まさか~」
優司と友子はどうしようかと考えた。
考えている両親を見て双子はそろりそろりと自分の部屋に行こうとした。
それを友子は見逃さなかった。
「待ちなさい! 二人ともそこに座りなさい」
ビクッ! 双子は直感した。
(久しぶりにママの雷が落ちる~~~~!!!!)
双子は勇一の隣に座った。
そして、友子は訊いた。
「勇一は何を食べたの?」
「どうして、そんなことわかるのー?」
「麻奈のバカ~! バレちゃうじゃん!」
「何がバレちゃうのかしら?」
「はっっ、しまっっっ……!」
もう、遅かった。
双子に向かって友子は怒りを出さないで言った。
「言わないと二人ともこの家から追い出すわよ」
「ひー! ごめんなさ~い! ママー!」
双子は『双子作 ロシアン・ルーレット』について簡潔に話した。
その間、優司は勇一を寝かせるために和室に連れて行った。
話が終わると友子は鬼のような怒りを双子に食らわせると勇一の所に向かった。
やっぱり、ママは怖いと思う亜未と麻奈だった――。
和室に寝ている勇一を見た友子は双子から聞いた話を優司に聞かせた。
「まあ、亜未のひらめきは今に始まったことではないし・・・勇一も意識はないが生きてる……」
「それって病院連れて行った方が良いんじゃ……」
「い、意識がないんじゃなくて……そう、寝てるだけ、寝てるだけ! そのうち、目を覚ますよ!」
「絶対?」
「ああ……お、お~い! 起きろ~、勇一! もう、朝だぞ~!」
「起きるの? それで……」
「起きる、起きる!」
「もし、このままだったら学校休まなくちゃね……『風邪』とか言って完治するまで休むって……それから、病院にも……でも、亜未と麻奈の話なんか信じてくれないわよね……」
「そうだな……」
「早く目を覚ましてくれれば良いんだけど……」
――永い眠りから覚めた勇一がいる場所には満点の星空があった。
勇一の隣には女の子がいた。
女の子が話した。
「石田くんごめんね。私、石田くんの告白断ったのにプラネタリウムなんかに誘ったりして……」
「みゆき……ちゃん?」
「石田くん、私ことそんな風に呼んでたんだね」
女の子の正体はみゆきちゃんだった。
「だってみゆきちゃんが……」
「やっぱり、私は『坂本さん』の方が良いと思うんだ」
「どういう……意味?」
「だってそうでしょ。私、石田くんとは付き合ってない訳だし……」
「え……みゆきちゃんと付き合って……ない?」
「そうだよ。覚えてないの? 私、屋上に手紙で呼ばれて石田くんに告白されたけど『ごめんなさい』って……そしたら、石田くん『そうだよね』って」
勇一には見覚えがなかった。
「オレ、本当にそんなこと言ったの?」
「そうだよ」
「う、嘘だよね? その話……だって、みゆきちゃんあっさり『いいよ』って言ったよね?」
「私、そんなこと言ってない」
「でも、確かに!」
「石田くん、往生際が悪いよ。本当のことなんだから仕方ないよ」
「本当……のこと……」
勇一は愕然とした。
みゆきちゃんが唐突に訊いた。
「石田くんって何か隠してるでしょ?」
「しっ、してないよ! 隠し事なんか……」
勇一はびっくりした。
「ふーん。でも、私には隠し事してるように見えるけど」
「え!」
ドキッ! 勇一の心臓はだんだんと早くなった。
「私、隠し事してる人嫌いなんだよね」
「……」
「石田くんは? 隠し事してる人嫌い?」
「ぜ、全然嫌いじゃないよ。人間誰しも秘密が一つや二つあるって言うし……」
「私は秘密なんか持ってないよ! 秘密なんか持ってたら後ろめたい気持ちでいっぱいになっちゃう」
それを聞いた勇一は意を決して言った。
「……オレには秘密があるよ」
「え?」
「オレには秘密がある……オタクだし、今でもみゆきちゃんのこと諦めてないから……」
「それが石田くんの秘密?」
「そうだよ。今はそれだけ……だけど、これから生きていくならどんどん秘密が増えていくと思う。でも、それは仕方ないことなんだ。生きているなら欲が生まれて当たり前だと思うんだ。その欲がどんどん秘密になって……」
「分からないよ」
「オレにもまだよく分からない。だけど……今、言えるのはそれだけで……」
みゆきちゃんの顔が悲しそうな嬉しそうな表情になった。
「言えるといいね。本当の私に……いつまでも一緒に居たいと願うなら」
「え?」
「合格! 石田くんこれからも頑張ってね! 自分の思いをちゃんと伝えてね! 本当の私に告白した時みたいに……本当の私とはちゃんと順調だからね! ……早く帰ってあげて! 本当の私が待ってるから!」
「『早く帰って』? 『本当の私』?」
勇一にはみゆきちゃんの言っている意味が分からなかった。
「帰れば分かるから! よ~し、石田くんの景気付けのためになんと氷付き水バケツを用意いたしました!」
「ゲっ! もしかして……」
「せ~の!」
勇一の頭上から大量の氷付き水が降ってきた。
「〇△×□※▽◎☆◇★!!!!!!!!!!!!」
勇一は何か言ったが分からなかった――。
「あっ!」
「麻奈! あぶな~い!」
麻奈がつまずいて勇一の頭に氷水をこぼした。
亜未は麻奈の手から滑ったコップを見事にキャッチした。
その途端勇一が永い眠りから目を覚ました。
「っっっっブハーーーーーーー!!!」
ガバッと体を起こした。
「ゆうにぃ~が二日ぶりに起きた~! 麻奈のおかげで~!」
「麻奈のとろさのおかげでね」
「あみちゃんひっど~い!」
その騒ぎを聞きつけて優司と友子が駆けつけた。
「勇一がやっと起きたの!」
「うん! そうだよ! 今度は元気だよ! 麻奈のおかげでー」
「起きたのは良いけど、勇一、ずぶ濡れよ?」
「それは……」
「それは麻奈のドジが起こした奇跡の後だよ! ね?」
「うっ……」
麻奈は何も言えなくなった。
勇一は何故、家族の皆が和室にいるのか分からなかった。
「あのさ~、皆、集まって何してんの? なんで和室にいるの? オレ?」
訳が分からない勇一に友子と優司は勇一が倒れてから二日間の出来事を話した。
「やっぱり、意識がなかったのね……勇一が『ロシアン・ルーレット』を食べて倒れてからもう二日も経ってるの」
「え?」
勇一は和室にある日めくりカレンダーを見た。
(本当だ……二日も経ってる……)
「勇一、学校のことは気にしなくていいのよ。学校には『風邪が完治するまで休む』って言ってあるから」
「……」
優司が言った。
「勇一、おまえはこの二日間起きたり寝たりを繰り返していたんだぞ」
「は?」
「あと一日、様子を見て元気だったら学校行くんだな」
「そうね……亜未、麻奈!」
双子は小さな声で言った。
「ごめんなさい」
こうして石田家の双子が巻き起こした『ひらめいちゃったー! ロシアン・ルーレット』事件は一件落着したのであった。




