第二十七章 夏休みの終わりに(2)
「大体、虫だけに虫の息って、オヤジギャグ入れてるし」
瑛子がくだらないギャグだと言い放つ。いつもなら食らい付いてくる夏美が、どうしたことか無反応だ。
「やっぱ、何かあったに違いないよ」
夏美の態度が妙に気になる。別段、夏美の夏がどんな夏であろうと構わないところだが、瑛子にとっては今夏最大の興味の対象なのだ。
「あ! これなに?!」
瑛子が夏美のケイタイについているストラップに目をつけた。今まで、ケイタイにストラップをつけていることなど皆無だっただけに、それは驚きとしか言いようがない。
「しかも銀のハートってどうよ」
どうよと言われても。
「これ、どうしたの?」
さすがに、京香も驚きを隠せないようだ。
「どうしたって……この前遊んだときに、一馬がくれたんだよ」
「ペア?!」
瑛子がケイタイをわしづかみにして、マジマジと見ている。それほどまでに、珍しいことなのだ。ある意味、天変地異の前触れかと騒ぎたくなるほどだ。
「失礼だね。おそろいって訳じゃないけど、一馬はこのハートの中を持ってるよ」
言われて見れば、ハートの中に小さなハートが抜かれているのだ。
「なんと!! ヤツは小さいハートをケイタイにつけているのか」
今度は京香がケイタイを取り上げてマジマジと見る番だ。
「別に大したことじゃないよ」
頬杖をつきながら、ケイタイをくれと手を出す夏美に対して「重大事件でしょ!」と声を張り上げる京香と瑛子だ。
しばらく、夏美のストラップや、ラブホの前で忽然と消えた話に花が咲いたが、最終的に夏美が本当のことを話して幕を閉じた。
「あの路地を曲がると小さな公園があるでしょ。そこを抜けると駅に出られるんだよ。で、駅前のファーストフードでハンバーガーを食べてた」
聞いてみれば、なんとも普通だ。
瑛子が落胆を隠せないように、パリジャンヌの毛をむしって唸られるというアクシデントがあったが、結局のところ夏美の夏は、夏美らしい夏ということなのだろう。
「つまんなーい!」
瑛子がパリジャンヌの毛に手を持っていくと、何もしていない瑛子に向かって「うう……」と唸った。
「ちょっとー! クマが唸るんだけどぉ」
「クマじゃないわよ! パリジャンヌよ! 瑛子がさっき毛を抜いたのがいけないんでしょ!」
大きな体を小さくして、パリジャンヌが京香の背中に回る。
「図体が大きい割には、小心者だねぇ」
自分のした事はしっかりと棚に上げてしまう瑛子だ。




