第二十七章 夏休みの終わりに(1)
あの日から何度となく、夏美に白状させようと試みたが「知らない」と言われるだけで、何も分からないままだった。そして、夏休みも終盤となり、残ったのは宿題の山だった。
「後二日しかないのに、これだけの宿題が終わる分けないじゃん!」
散々遊んだツケなのだから、仕方の無い事だ。
「とにかく、形だけでも終わらせなくちゃしょうがないでしょ!」
京香がテーブルにひじを付いて、鉛筆をもて遊ぶ。
「終わってるヤツに写させてもらえればなぁ」
瑛子のアイデアを聞いて、夏美が「ナイスだよ!」と叫んだ。
「ねぇ、夏美! 藤田だったら終わってるでしょ。写させてもらおうよ」
「一馬?」
「うんうん」
瑛子が頷く。それを聞いている京香が「また、馬鹿なことを」と冷たい視線を向けているが、二人は気づいていないようだ。
「無理だよ。一馬は頭、固いから」
「それでもさぁ、彼女のためなら見せてくれるんじゃないかなぁ」
「夏休み早々に宿題やれって、来たけど。やらなかったから、自業自得だって笑って終わるね」
「後悔先に立たずだね」と肩をすぼめる夏美だが、これも毎年恒例となっているのだ、いい加減学習して欲しいというものだ。
「そういえばさぁ、夏美の夏はどうなったわけ?」
瑛子が訳の分からない事を言い出した。
「夏美の夏は、春夏秋冬の夏だよ」
何を今更といわんばかりに夏美が答える。
「それは知ってるから!」
「そうじゃないよ! 藤田とラブラブしたのかなぁって」
相変わらず、この手の話になると瑛子が嬉しそうにニヤケルから不気味だ。
「また、その話し……?」
またかと言うように夏美が眉をひそめる。それもそのはず、あの日以来しつこく聞かれ過ぎている。
「絶対に何かあったでしょ!」
「あるわけないって、夏美と藤田だよ」
もういい加減にしなよと言うように、京香が鉛筆を鼻の下に挟んだ。
「だって、あんなところで消えるのは、絶対におかしいって」
完全に疑って掛かっているのは、瑛子自身の経験と重ねているからだろう。
「いくら夏美だって、経験すればもう少し女の子っぽくなってるでしょ。この状態の夏美を見てどこが女の子っぽいのよ?」
という夏美を見れば、両腕を頭の後ろで組み、踏ん反りかけるように窓の外を眺めて、相変わらずぼんやりしているのだ。
「そういえばそうだね……」
瑛子が腕組みをして夏美を見ながら、深いため息を吐いた。
「夏って、残酷だよね」
何を思ったのか、夏美が呟いた。
「なんだってぇ?」
夏美にしては詩的なセリフに、思わず京香が聞き返した。
「なにがあった! やっぱり、何かあったでしょ?!」
と身を乗り出す瑛子。
「短い命のセミが玄関にころがっていたのよ。虫だけに虫の息だったけど。そのセミにたかるアリ達を見ていたら、ガリバーのようだなって……残酷だよね」
テーブルの上のケイタイを指で弾きながらため息をついた。京香と瑛子が目を合わせて、首をひねる。
「夏美、その話し支離滅裂だよ。暑さで頭がショートしちゃった?」
京香がじっと夏美を覗き込む。




